ヴァイアン・ローレンス視点,10
幼い頃から、両親に溺愛されてきたメアリーが、たった一つどうしても気に食わないことがあった。
それは、自分を何より溺愛しているはずの両親が、自分が産まれるよりも先に何かを与えてきた存在である、サンディーだったのだという。
ぽつりぽつりと、ついこの前まで嫌悪の対象だった妻が語る。
「私とメアリーは二つ違い。その離れた二年分を取り戻すことに必死…私の目にはそう映りました」
「言っている…意味がわからない」
「そう。他の家族からは理解できないことなのですね。私は…妹という存在は、そういうものだと思って生きてきましたから。特にメアリーが幼いうちは…」
あまり飾り気のないワンピースと、簡単に結い直した髪。それがかえってとても洗練されているように見える。
サンディーは、恐怖と驚愕で冷え切った手をティーカップで温めながら続けた。
「私が所有していたもの、誰かに贈ってもらったもの、全てメアリーに奪われました。そうして私の手元にあったのは、壊れたり古くなったりしてメアリーが使わなくなった物たちだけでした」
細い指を一つ二つと折り曲げる。自身の所有物を丁寧に数えているようだった。
「私はそれらを使うしかなく、耳飾りをブローチにしてみたり、破れたドレスを端材で縫い合わせたりして過ごしていました。お陰で随分と裁縫は上手くなりましたけれど」
「っっっ」
(それで、あんなにもチグハグな着こなしになったというわけか)
しかし、それでもまだ疑問が残る。
「君の両親はそれで良しとしたのか?いくら妹君を溺愛しているからと言っても、あまりにも現実離れしていて…」
「妹が両親の庇護欲を掻き立てる存在なのでしょう。それだけではなく、旦那様もご覧になったあの癇癪です。幼い頃なら大人の力で抑えることができましたが、今ではとても手に負えない。両親が問題を自覚せず放置した結果です。小さい頃に始まったおもちゃやリボンを欲しがる癖は、気がつけば手がつけられなくなっていったのです」
「…ちょっと、待ってくれ、ならば僕は……僕は、」
サンディーが、とても哀れなものを見る目で僕を見ている。細めた目に細かく寄る皺が、長年の疲労と苦悩を物語っているようだった。
「ふ、そうか…。僕は、メアリーから見ればただのおもちゃとおんなじなのか…」
「旦那様…」
「だってそうだろう!?本当はお前だって騙された僕のことを、ざまあみろとでも思っているんだ!」
ベッドサイドに置いてあった花瓶を思い切り壁に投げつけた。酷い音がする。
同時に、廊下で待機していたらしいエイル達が流れ込んできた。余程僕の信用は地に落ちたと見える。
「奥様!!」
「大丈夫だから、下がってくれる?」
「ですが…」
「大丈夫なのよ、本当に」
「っっっ…。分かりました」
皆僕に疑いの視線を向けてから一礼して退出した。
(今まで僕に仕えてくれていた者たちが、今この屋敷に留まっている理由はサンディーなのか…)
がっくりと肩を落とす。
「一つだけ、聞きたい。君に関する悪い噂はどうして広まった?」
サンディーは再び自嘲気味に微笑む。火のないところに煙は立たないとでも言いたげな、僕の口調に対してだろう。
「さて、どうしてだと思いますか?」
「それも、メアリーか」
疲れた笑顔で微笑むサンディーに、僕はそれ以上の追求をやめた。
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