↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は復讐相手です。愛したことなどありません。  作者: あずあず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/42

前半、侍女・マリエ視点 後半、ヴァイアン・ローレンス視点

「っっっ!!!」


 つぎはぎだらけの手紙が拳の中に握り込まれて行く。

 旦那様の動揺は当然だった。メアリー様は当てつけのように、自身が旦那様と愛人関係にあることをこともなげに暴露したのだ。

 子どもがおもちゃを自慢するように、悪びれた様子もなく。


(捨てた手紙を旦那様に見せてしまうなど、あとで奥様に叱られるに違いないわ…それでも…!)


 それでも、私たち使用人はその選択をした。鞭打ちだってなんだって喜んで受けよう。


「…っっ!!もう良い!」

「旦那様、どちらへ…!?」

「夫が妻の寝室に行くのに何の理由がいる!」


 私たちは血相を変えて大きな歩幅の旦那様の後を追いかけた。


「お待ちください!」「旦那様!」


 それでも聞かずに、長い廊下をずんずんと歩んでいってしまう。


「旦那様…っ!」

「…さっきから、この屋敷の主人である僕に対して随分な態度だな。全員まとめて解雇したって良いんだ」


 たったその一言で、使用人は全員青ざめて立ち尽くしてしまった。

 ノックもそこそこに、旦那様はふんと鼻を鳴らして、ぶっきらぼうに扉を開くと中に消えていってしまう。


「ど、どうしましょう…解雇だなんて…」「うちにはまだ幼い弟もいるのにっ…」「やっと借金を返すことができて、ローレンス家がこれからという時に…!!」


 使用人達の間に動揺が流れる。それを一喝したのは侍女長のエイルだった。


「皆、奥様をお守りする為に一丸となったのを忘れましたか」

「っっ!!」

「…夫婦の寝室に張り込むなどという無粋な真似はできませんが、廊下の隅で掃除をすることの何がいけないのでしょう?」


 ニヤリと笑ったエイルに、みなが頷いて進展を待った。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 サンディー、僕は君を嫌悪していた。

 無駄に着飾った出立と、香水瓶を叩き割ったようなむせ返るような香りと、その香りよりも更に酷い醜聞に塗れた女。


 それが…


「サンディー」


 ベッドに横たわった僕の妻は、閉じていた目を細く細く開けて、こちらを向いた。


「っ…」


 強烈な違和感を覚える。


(この女は、本当にあのサンディーなのか?)


 頭が目の前の状況を理解するまでに数秒を要する。

 その姿が、息を呑むほどに美しかったからだ。


(馬鹿な、何を動揺することがある…だが…)


 認めたくはないけれど、メアリーとはまた違う美しさを放っている。


(ああ、そうか、侍女達の世話の賜物…)


 磨けば光るというより、無駄なものを排除し、削ぎ落とした洗練された美しさ。


「旦那様…これは、夢でしょうか?」

「…は?」

「やっと、私を名前で呼んでくださいました」


 ずん、と重たく心臓が跳ねる。痛いくらいに鼓動が高鳴るのだ。


(なんだ、これは…)


 初めての感覚だった。

 メアリーの髪に触れても、手を繋いでも、見つめ合っても到底得られる感覚ではなかった。

 僕は、快楽と興奮が混ざったような強烈な情動に突き動かされて、思わずその頬に触れた。


「そんなことは…ないだろ」

「いいえ、そうですわ。だって、旦那様は私のことがお嫌いでしょう?」

「っっ!…ああ、そうだよ!嫌いだね」


 ふ、と寂しげに微笑むサンディーは、頬に触れた手を愛おしそうに両手で包み込む。どうしようもなく胸が痛んだ。


(こんな意地悪を言いたいのではない)


「すみません、せっかくこうして訪ねて下さったのに。体調が優れぬのです」

「エイル達から聞いた。屋敷でのんびり暮らす君がどうして体調を崩すんだ」

「…申し訳ありません。ふふっ」

「なっ…!なぜ笑う!」

「旦那様なりに心配してくださっているのでは…と」


(そうだ、そうなのだ)


 エイル達に責められて、後に引けなくなってしまっただけ。好き合って結婚したわけではないけれど、体調が優れぬのなら、気にもなる。ただ様子を見に行ったって良いじゃないか。

 けれど、怒りの中にある別の感情を、今は認めたくなどなかった。引き下がれなかった。

 長く勤めているエイルでさえ気付かなかった感情の機微を、なぜひと月しか共に暮らしていない君が感じ取れるのだ。


(君は、一体…)


「〜〜〜っっ!僕はただ、一週間後に開かれるドストイット家の茶会に、君も伯爵夫人として参加してほしいと伝えに来ただけだ。この後、すぐに返事を書かなければならないのでな」

「一週間後、ですか…?」

「分かっているだろうが、できるだけ君は目立たぬように振る舞ってほしい。それ程にサンディー・ローレンスは注目の的なんだ。悪い意味でな」

「勿論、心得ております」

「っ!」


(心得ているだと!?ならばなぜ…)


 僕の疑問は一気に噴出した。


「ならば、どうしてチグハグな格好をしたり、鼻が曲がるほどの香水をつけたりしていたんだ!その上男を取っ替え引っ替えして…」

「そう、それ」

「な、なんだよ」

「そんなにヘンテコな女が、どうして男性を取っ替え引っ替えすることができたと思うのです?おかしいとは思いませんか」

「君がふしだらだからだろう!今だってどうせ僕に隠れて愛人の一人や二人…」

「愛人を抱えていらっしゃるのは、果たして私でしょうか、それとも」


(っっっ!そうか、メアリーの手紙…!!)


「う、浮気は男の甲斐性だろう」

「あら、浮気は旦那様お一人がしていることですか?色恋は必ず二人でないとできないことですのに」

「なっ…」


 この女は、本当にあのサンディーなのだろうか。だらしなくて、ふしだらで、知性のかけらもないはずの女。


「旦那様から見ても私は魅力的ではない女です。それがどうして愛人を囲うなんてことができると思うのですか。ましてや社交界で醜聞に塗れた私と積極的に関わりたい殿方など、本当にいると思われますか?」


 ベッドから起き上がったサンディーの、鋭い目線に耐えられなくなる。


「何が言いたい」

「メアリーは私のことを何と言っていましたか?」

「僕とメアリーが結ばれるなんて許されない、そう言われたと聞いている」

「旦那様はその言葉を信じているのですね」


 そう問われて何も言うことができない。実際のところ、どうなのだろう、と。


「例えばそう…私の醜聞は、捏造だとしたら?」

「なっ…おかしなことを」

「チグハグなコーディネートも、酷い匂いの香水も、仕方がなくしていたことだとしたら…?」

「だとしていったい誰が得をする!?」

「得?損をする人物がいるじゃありませんか」

「損…?」


 ハッとする。馬鹿な女だと思っていたサンディーの、全てを悟ったような強い視線にたじろいだ。


「それは…」

「それはそう、私」

「っっっ!くだらん!話はそれだけか!?」

「いいえ。それだけではございませんわ」

「は?」


 肩透かしを食らった気分になって、ドアノブにかけた手をだらりと落とした。


「今度はなんだ!?」

「一週間後のお茶会ですが…私は旦那様のお供はできません」

「なんだと…?ただ屋敷の中で時間と金を食い潰している分際で…伯爵夫人の勤めも満足にできないのか!?」

「その日は、兄が帰ってくるのです」


 ぴくり、と反応する。そう、確かサンディーには王立学校に通う兄がいたはずである。サンディーは懐かしいものを見るような目で、遠くの方を見つめた。


「急に結婚が決まったことを報せたので、夏季休暇を利用してこちらに帰ってくるのです。兄が、ぜひお祝いをしたいと」

「それならばなぜもっと早くに言わぬのだ」

「旦那様はお仕事が忙しいご様子。なかなかお会いできませんでしたので、今日こうして伝えることができて良かったですわ」


(仕事…)


 時間に余裕があれば、メアリーと会っていたし、別に領地がどうだろうとあまり気にもならなかった。

 父上の時からの借金も返し終えたことだし、管理者が適当にうまく回してくれているんだろう。ならば後は上がる一方ではないか。


(まてよ、サンディーの兄が帰ってくるのなら、メアリーと会うのも暫くは難しいのか?)


「…まあ、そうだな。兄君が帰ってこられるならば、僕も挨拶をしなくてはならないな」

「まあ!それはありがとうございます」


(手土産に、名産の一つや二つ渡しておけばいい)

面白かった!続きが読みたい!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。