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俺氏、オンラインゲームの中の人になる  作者: 澤梛セビン


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3.俺氏。依頼を依頼される

『よう、篤紫。街にいるなんて珍しいな。今日はどうした』

「いや普通に俺氏、呼び出されただけなんだが」

『篤紫さん、後で暇だったら一緒にダンジョンデートなんてどうかしら?』

「呼び出された先が冒険者ギルドじゃなければ、俺氏も問題なかったんだが」

『それは、残念だわ……』


 夕刻。街を歩いているだけなんだが、普通に絡まれる。

 最近は魔王城に住み込みで、ソフィーの相手という謎の仕事が多くて、実は街は久しぶりだったりするのだが。


 横に見える噴水広場。青い光の粒が煌めくたびに、何だか懐かしい気持ちになる。俺氏も昔は、外の世界からあんな風にゲームにアクセスしていたっけな。

 そんな、懐かしい世界を思い出しながら、冒険者ギルドの扉を開けた。


 あ、俺氏の部屋だけど、正式にプレイヤー名ムサシが継承した模様。ゲーミングノートの秘蔵動画なんかも、気に入ってくれているらしい。


「あ、篤紫さん。ギルドマスターがお待ちです。すぐに、上に上がっちゃってください」

『おい、篤紫が来たぞ。今日は誰がパーティ組むよ』

「すまんな俺氏、ギルマスに呼ばれているんだ」

『『『まじかーーーーーー』』』


 そんなコントみたいな会話をしながら、カウンター脇の階段を上る。

 三階が冒険者ギルドの関係者フロアになっているんだが、ギルマス部屋の前でギルマスが腕を組んで待っていた。


「いや、何でギルマス氏。廊下にいるんだよ」

「何って、そりゃお前。待っていたに決まっているだろう、昼に来いって伝言したはずだが」

「いや、無理だし。俺氏今、魔王城だぞ?」

「知ってるよ。だから、裏ゲートチケットも転送しただろう?」

「ああそれ、オークキング氏がデートに遅刻するって慌てていたから、渡したやつ」

「……お前なぁ。いいけど」


 応接室に入ると、食べかけのサンドイッチが応接テーブルに散らばっていた。げっ、あれ冥界産の高やつじゃん。


 俺氏の視線に気がついたのか、ギルマスが気まずい顔を一瞬浮かべた後、サンドイッチを皿にまとめてギルマステーブルに移動させた。


「ごめん……俺氏がお昼に来られなかったから……」

「いいって。お前が忙しいの、知っているし。無理言った俺が悪いんだ」


 壁際のギミックを開けて、コーヒーメーカーの電源を入れる。いい香りが、部屋に漂ってきた。

 しかし、何だろう。俺氏、何でギルマスに呼ばれたんだ?


 冒険者ランクだって、下から2番目の銅だし。何なら、最近活動していないから青銅に降格まであるはずだが。


「ほれ。ミルクは多めだな」

「最近の俺氏のブームは、蜂蜜入りコーヒーなんだ。キラービー氏が、うまい蜂蜜持ってきてくれるから……あ、これ。つまらない物だが」

「って、お前。そんな気軽に、殺人蜂蜜なんて出すなよ。時価、白金貨相当じゃねえか!?」

「いや、ちょっとしたお詫びの気持ちなんだが」


 頭を抱えつつ、ちゃんと蜂蜜を受け取ってくれた。


「それで……お前を呼んだ、要件なんだが――」




 森の中。茂みをかき分けながら、俺氏は進む。

 目的地はエルダートレントの森なんだが、どうやら迷子になっているらしい。


 俺氏、別にエルダートレントと交友とか無いんだが。


「さすがに俺氏に、エルダートレント氏に手紙届けて欲しいとか。意味分からないんだが」


 三ヶ月に一度の大イベント企画が運営から打診されていて、その段取りのために俺氏が派遣されている。


 イベント会場は迷いの森で、森自体が広大なダンジョンになっていて、その最奥に居座るエルダートレントの討伐が、今回の目玉なんだとか。

 そのエルダートレントだが、最近どうやら誰も連絡が取れなくなっているらしい。だったら、冒険者に依頼すればいいって言ったんだが――


『いやお前。冒険者のためのイベント会場に、冒険者を先に派遣したらネタバレになっちゃうだろう。だからって、一般住民は基本移動範囲が決まっているからな。フリーなのは、お前だけなんだ』


 いや俺氏、たまたまオンラインゲームの中の人になっているだけで、別に中の人ではないんだが!?


 そんな俺氏の訴えなんて、当然聞き入れられず。

 運営から渡されたとか言う、緊急メンテチケットと引き換えに、迷いの森まで行く羽目に。そして文字通り、迷いの森で迷った。


「ウガッ!?」

「あ、どうも。狒々氏、お散歩かな?」

「ウガッ、ガガッウカガ?」

「いやごめん、話しかけたの俺氏だが。何言ってるかわかんないわ」


 巨大な猿が樹上から降りてきて、俺氏の進行を止めた。

 手に持った、金色のリンゴをおもむろに差し出してくる。


「俺氏が、貰ってもいいのか?」

「ガッ!」


 そうして金色のリンゴだけ俺氏に渡すと、狒々は手を振りながら樹上に去って行った。いや待って、道案内とか頼みたかったんだが。

 手を伸ばすも、あっという間に視界から消えていった。




 さて。エルダートレントが、枯れていた件について。


 あの後、リンゴが金色に光る方に歩いて行ったらあっさりと、森の奥に着いたんだけど。


「これ、そもそも連絡付くわけが無いと思うんだが」


 ぽっかりと空いた森の広場の、そのど真ん中にある大きな枯れ木。

 苦悶の表情のまま、立ち枯れとか。イベントどうなるんだこれ。俺氏が派遣されたところで、何とかなるとは思えないんだが。


 ふと、手元の金色のリンゴのリンゴを見る。

 これって、そもそもだが何だろうか?


 鑑定のために、一度インベントリに入れてみる。


「蘇生のリンゴとか。つまりこれを、エルダートレント氏に与えれば何とかなるのか?」


 大きくため息をつく。

 でもまあ、これを食べさせれば話ができるようになるだろうし。その上で、直接運営と話をして貰おう。俺氏ができるのなんて、その程度だぞ?


「木登りなんて、いつぶりだろうか……」


 そんな、どうでもいいことを考えながら、木登りを始めた。

 危なっかしい足取りで根を登り、幹の出っ張りを進んでいたところで、やっぱりというか足を滑らせた。


「グワッ」

「あ、鵺氏。ありがとう、助かった」


 通りがかりの鵺に助けて貰って、エルダートレントの唇へ。

 そうして、口の中にリンゴを転がした――


 までは、よかった。


『Congratulations!! イベントが達成されました!』

「いや待て、何でイベント達成した!?」


 光り輝くエフェクトとともに、エルダートレントが鮮やかに色づいていく。

 びっくりして落ちた俺氏は、再び鵺に助けて貰って地上へ。


 そうしてしばらく復活していくエルダートレントを眺めていたら、光が収まった。


「む。なぜ、篤紫がここにいるんじゃ?」

「俺氏のこと、知っている?」

「そりゃお主は、魔王の番であろう? 魔物界隈は、そのめでたい話題で持ちきりじゃ。して、その篤紫が何故、儂を復活させたのじゃ?」

「え、だって。イベントボスのエルダートレント氏と、連絡付かないって運営から冒険者ギルドに連絡行ってて。その調査に俺氏派遣されたんだが」

「ちゃんと枯れるって手紙……む、届ける前に枯れていたようじゃ。儂の不手際だったか」


 そうして始まる、森の大宴会。

 森の魔物が、動物が集まってきて、みんなでわいわい騒ぎ始めた。


「我も、来たぞ」


 そして、光り輝く魔方陣に乗って、魔王襲来。


 俺氏はそっと、緊急メンテチケットを使った。


 今日も、平和な一日だった。


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