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『世界一弱いお父ちゃん(ゴブリン)は、世界一あたたかい』 〜ゴブリンに育てられた少女アリスの成長譚〜  作者: クワガタンク
第三章:風揺らす若葉

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第31話:新緑深き幻惑の森

□□□




楽な仕事になるはずだった。

村の年老いた狩人の代わりに畑を荒らす害獣を狩るだけだと。


つーのに、あともう少しと欲を出して迷っちまってたなんて、笑い話にもなりゃしねぇ。

最初の獲物で満足して引き返してりゃ……今更か。


「……兄貴ー、ちょっと休もうよ~」


「そうだよリーダー、闇雲に歩いても余計迷うだけだよ」


「……うるせぇ! じっとしてても帰れねぇだろうが」


とは言え、方角も分からねぇんじゃ、話にもならねぇか。

……水もだいぶ減ってきやがったな。


「仕方ねぇ、少し休むぞ。おい、デブ! ガブガブ水飲んでんじゃねぇ!少しは節約しろ!」


「……だってよぅ、兄貴~」


「ま、まぁまぁリーダー、僕の魔力がもう少し回復したらまた水を足しておくから」


「……ちっ」


それにしても、ギルドのくだらねぇ噂話も案外、的外れって訳でもなさそうだな。


”幻惑の森”――か。


どこから見ても、木々も疎らな開けた森。


だが、気付けば辺りは深い森の中。


木に印を付けても振り向けば消えている。


腰に縄を結んでいても、気付けば切れている。


おまけに質の悪いことに、昨日まで迷わなかった場所でさえ、運が悪けりゃ三日彷徨った挙句、ようやく抜け出せた――なんて話もあるぐらいだ。


……まさか、与太話が本当だったとはな。


とはいえ、いつ抜け出せるかも分からねえ、食い物の確保もしとかねぇとな。


「ケニー、魔力の残りは、後どんくらいだ?」


「少し休んだから、体感4割かな」


4割か、うまく獣の一匹でも狩れりゃ良いんだが。


「ダグ、預けてた矢束の残りは?……おい、ダグ!」


「あ……兄貴……あ、あれ」


「あぁ?」


ダグの野郎が指差した大木の上に目をやれば、デカイ影が見える。


……この妙な世界に来ちまってから三年経つが、あんなぶっ飛んだモノ初めて見たぜ。


「……ありゃ、なんだ? なんで鎧着たゴリラが、木の上からこっち見てるんだ?」


「ひ、ひぃぃぃ! あ、あの肩の上見てよ! 銀髪の娘が何かの干し肉を齧りながら、こっち見てるよ!」


「あれは、鎧じゃなくて甲殻だね。あんな魔物は見たことがないよ……いや、あれが魔物なら人が一緒にいるはずがないか?」


「え!? じゃ、じゃあ幽霊って事!?レイス!?」


「うるせぇ! ちったぁ落ち着け!」




―――




日課の見回りに来てみれば、まぁた何処かの冒険者が遭難してる。


しかもこんなに深い所まで、おまけに……。


「動かないでね――ロックスピア」


「ギャワン!!」


「な、なんだぁ!?」


「うひぃぃ!」


「後ろ! ブラッディウルフ!」


へー、一人だけ冷静な人がいるけど、あの人がリーダーかな?


「ホウ、ホホウ」


「どうしたの? イーラ」


イーラの視線の先を見て納得をした。


あぁ、出口まで案内してあげたいのね。


「お家に帰してあげたいの?」


「ホホウ」


この子が孵ってから、もう六年か。


本当、良い子に育ったなぁ。


さて、それよりも。


「ねぇ、出口まで案内してあげる、歩ける? それとも、もう少し休んでからにする?」


「えっ、いや、それよりこのブラッディウルフはどうすんだ?」


「持って歩ける余裕があるならあげるけど?」


「……いや、倒したのは嬢ちゃんだ、俺らじゃねぇ」


「まぁまぁ、譲ってくれるって言うんだから貰っておこうよ、リーダー」


「うんうん、そうだよ、兄貴」


「……おめぇらなぁ」


えっ、こっちがリーダー!?


「助かった、俺はEランク冒険者でジェイクだ」


顔の怖いのが、ジェイク。


「僕はFランク冒険者のケニー、よろしくね」


爽やか系がケニー。


「同じくFランク冒険者のダグだよ」


そして、ポッチャリのお人好しっぽいのがダグ。


ふむ、ここ最近の迷子の中じゃまともそう。

……二組前の冒険者達は、ひどかった。


あと一歩で盗賊って感じだったし……。


おっと、いつまでも見下ろしてちゃ話しづらいか。


「イーラ、下に降りよ」


「ホウ」


「えっ、お、降りた音、し、しなかったよ」


「へー、凄いな、何の魔物だろう?」


「いや、だからゴリラ……あー、コッチの連中にゃ通じねぇか」


なるほど、ジェイクは来訪者かな?

転移か転生かは分かんないけど。


「それより、早く移動した方が良かねぇか? 狼なら群れてんだろ、残りがゾロゾロ来やがったら厄介だ」


「それもそうだね、ダグ、枝でソリを作るから手伝って」


「ほいきた!」


「周りに他の気配も無いから、ハグレっぽいけどね。

でも、血の匂いで何か寄ってくるかも」


ケニーとダグがソリを作り始めるのを横目に、ジェイクはブラッディウルフの死体の横にしゃがみ込み、首を傾げていた。


「……ひょっとして、ここ最近、村の家畜を襲ってたっつーのは、コイツか?」


ジェイクの呟きを聞いて、ケニーとダグもブラッディウルフの傍へやって来た。


「痩せて無いどころか、若干肥えてるし。リーダー、当たりかもしれないよ」


「やったね、兄貴!」


「まぁ、当たってようが、外れてようが報告する事にゃ変わらねぇがな」


ふーん、意外に真面目なんだ。

流石、兄貴でリーダーなだけはある。


「……何でこの、お嬢ちゃんは、こっち見て頷いてやがんだ?」


「さ、ソリも出来たようだし、出発しよう、兄貴リーダー!」


「誰が兄貴リーダーだ! オメェらも俺を指差すんじゃねぇ!」


「ホホウ、ホウ」


「お、おう。ソリを引いてくれんのか? 悪りぃな」


「助かったー、重くてどうしようかと思ってたよ」


「やっと帰れるね、兄貴」


「……本当、オメェ等は、すまねぇな嬢ちゃん。

案内だけでもありがてぇのに、荷物運びも手伝って貰っちまって」


「いいよ別に、イーラも三人の事、気に入ってるみたいだし。

それに、根掘り葉掘り聞いてこないしね」


「ハッ、なんでぇ気付いてたのかよ」


「まぁね、他の人達は大抵、こっちが名乗ったんだからそっちも名乗れだとか、それが礼儀だとか、やたらに押し付けてくるしね。

……何度このまま消えてやろうかと思った事か」


「ここで消えるのだけは、勘弁して欲しいもんだな」


「やだねぇ、助けて貰っておいて、いい大人がなけなしのプライドを振り翳すなんて」


「黙って助けられてりゃいいのになぁ」


ジェイクの言葉にケニーとダグも続く。


うん、私この人達、結構好きかも。

イーラが気にいる訳だ。


お、出口が見えて来た。


「ほら、あそこが出口だよ。もう迷わないでね」


「世話になっちまったな。助かったぜ。

何か礼でも出来りゃいいんだがな……」


「……じゃあ、お願いがあるの。

私達の事は秘密にして、この森の噂を色んな人に教えておいて」


「んな事で良いのか?」


「うん、よろしくね」


「噂……そうか! 幻惑の森の噂話は、ひょっとして……」


「しー、内緒にしてね」


「えっ、何、何?」


「任せな、噂話にヒレだろうが尻尾だろうが付けて、せいぜい大袈裟に話しておくぜ」


「うん、それじゃーねー」


「ホホーウ」


あんな素直な人達だけなら楽なんだけどなぁ。


さ、早く帰ろう。


お父ちゃんと師匠が家で待ってる。


夕日を背に、いつまでも手を振る彼等に見送られながら、私達は家路を急いだ。







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