第31話:新緑深き幻惑の森
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楽な仕事になるはずだった。
村の年老いた狩人の代わりに畑を荒らす害獣を狩るだけだと。
つーのに、あともう少しと欲を出して迷っちまってたなんて、笑い話にもなりゃしねぇ。
最初の獲物で満足して引き返してりゃ……今更か。
「……兄貴ー、ちょっと休もうよ~」
「そうだよリーダー、闇雲に歩いても余計迷うだけだよ」
「……うるせぇ! じっとしてても帰れねぇだろうが」
とは言え、方角も分からねぇんじゃ、話にもならねぇか。
……水もだいぶ減ってきやがったな。
「仕方ねぇ、少し休むぞ。おい、デブ! ガブガブ水飲んでんじゃねぇ!少しは節約しろ!」
「……だってよぅ、兄貴~」
「ま、まぁまぁリーダー、僕の魔力がもう少し回復したらまた水を足しておくから」
「……ちっ」
それにしても、ギルドのくだらねぇ噂話も案外、的外れって訳でもなさそうだな。
”幻惑の森”――か。
どこから見ても、木々も疎らな開けた森。
だが、気付けば辺りは深い森の中。
木に印を付けても振り向けば消えている。
腰に縄を結んでいても、気付けば切れている。
おまけに質の悪いことに、昨日まで迷わなかった場所でさえ、運が悪けりゃ三日彷徨った挙句、ようやく抜け出せた――なんて話もあるぐらいだ。
……まさか、与太話が本当だったとはな。
とはいえ、いつ抜け出せるかも分からねえ、食い物の確保もしとかねぇとな。
「ケニー、魔力の残りは、後どんくらいだ?」
「少し休んだから、体感4割かな」
4割か、うまく獣の一匹でも狩れりゃ良いんだが。
「ダグ、預けてた矢束の残りは?……おい、ダグ!」
「あ……兄貴……あ、あれ」
「あぁ?」
ダグの野郎が指差した大木の上に目をやれば、デカイ影が見える。
……この妙な世界に来ちまってから三年経つが、あんなぶっ飛んだモノ初めて見たぜ。
「……ありゃ、なんだ? なんで鎧着たゴリラが、木の上からこっち見てるんだ?」
「ひ、ひぃぃぃ! あ、あの肩の上見てよ! 銀髪の娘が何かの干し肉を齧りながら、こっち見てるよ!」
「あれは、鎧じゃなくて甲殻だね。あんな魔物は見たことがないよ……いや、あれが魔物なら人が一緒にいるはずがないか?」
「え!? じゃ、じゃあ幽霊って事!?レイス!?」
「うるせぇ! ちったぁ落ち着け!」
―――
日課の見回りに来てみれば、まぁた何処かの冒険者が遭難してる。
しかもこんなに深い所まで、おまけに……。
「動かないでね――ロックスピア」
「ギャワン!!」
「な、なんだぁ!?」
「うひぃぃ!」
「後ろ! ブラッディウルフ!」
へー、一人だけ冷静な人がいるけど、あの人がリーダーかな?
「ホウ、ホホウ」
「どうしたの? イーラ」
イーラの視線の先を見て納得をした。
あぁ、出口まで案内してあげたいのね。
「お家に帰してあげたいの?」
「ホホウ」
この子が孵ってから、もう六年か。
本当、良い子に育ったなぁ。
さて、それよりも。
「ねぇ、出口まで案内してあげる、歩ける? それとも、もう少し休んでからにする?」
「えっ、いや、それよりこのブラッディウルフはどうすんだ?」
「持って歩ける余裕があるならあげるけど?」
「……いや、倒したのは嬢ちゃんだ、俺らじゃねぇ」
「まぁまぁ、譲ってくれるって言うんだから貰っておこうよ、リーダー」
「うんうん、そうだよ、兄貴」
「……おめぇらなぁ」
えっ、こっちがリーダー!?
「助かった、俺はEランク冒険者でジェイクだ」
顔の怖いのが、ジェイク。
「僕はFランク冒険者のケニー、よろしくね」
爽やか系がケニー。
「同じくFランク冒険者のダグだよ」
そして、ポッチャリのお人好しっぽいのがダグ。
ふむ、ここ最近の迷子の中じゃまともそう。
……二組前の冒険者達は、ひどかった。
あと一歩で盗賊って感じだったし……。
おっと、いつまでも見下ろしてちゃ話しづらいか。
「イーラ、下に降りよ」
「ホウ」
「えっ、お、降りた音、し、しなかったよ」
「へー、凄いな、何の魔物だろう?」
「いや、だからゴリラ……あー、コッチの連中にゃ通じねぇか」
なるほど、ジェイクは来訪者かな?
転移か転生かは分かんないけど。
「それより、早く移動した方が良かねぇか? 狼なら群れてんだろ、残りがゾロゾロ来やがったら厄介だ」
「それもそうだね、ダグ、枝でソリを作るから手伝って」
「ほいきた!」
「周りに他の気配も無いから、ハグレっぽいけどね。
でも、血の匂いで何か寄ってくるかも」
ケニーとダグがソリを作り始めるのを横目に、ジェイクはブラッディウルフの死体の横にしゃがみ込み、首を傾げていた。
「……ひょっとして、ここ最近、村の家畜を襲ってたっつーのは、コイツか?」
ジェイクの呟きを聞いて、ケニーとダグもブラッディウルフの傍へやって来た。
「痩せて無いどころか、若干肥えてるし。リーダー、当たりかもしれないよ」
「やったね、兄貴!」
「まぁ、当たってようが、外れてようが報告する事にゃ変わらねぇがな」
ふーん、意外に真面目なんだ。
流石、兄貴でリーダーなだけはある。
「……何でこの、お嬢ちゃんは、こっち見て頷いてやがんだ?」
「さ、ソリも出来たようだし、出発しよう、兄貴リーダー!」
「誰が兄貴リーダーだ! オメェらも俺を指差すんじゃねぇ!」
「ホホウ、ホウ」
「お、おう。ソリを引いてくれんのか? 悪りぃな」
「助かったー、重くてどうしようかと思ってたよ」
「やっと帰れるね、兄貴」
「……本当、オメェ等は、すまねぇな嬢ちゃん。
案内だけでもありがてぇのに、荷物運びも手伝って貰っちまって」
「いいよ別に、イーラも三人の事、気に入ってるみたいだし。
それに、根掘り葉掘り聞いてこないしね」
「ハッ、なんでぇ気付いてたのかよ」
「まぁね、他の人達は大抵、こっちが名乗ったんだからそっちも名乗れだとか、それが礼儀だとか、やたらに押し付けてくるしね。
……何度このまま消えてやろうかと思った事か」
「ここで消えるのだけは、勘弁して欲しいもんだな」
「やだねぇ、助けて貰っておいて、いい大人がなけなしのプライドを振り翳すなんて」
「黙って助けられてりゃいいのになぁ」
ジェイクの言葉にケニーとダグも続く。
うん、私この人達、結構好きかも。
イーラが気にいる訳だ。
お、出口が見えて来た。
「ほら、あそこが出口だよ。もう迷わないでね」
「世話になっちまったな。助かったぜ。
何か礼でも出来りゃいいんだがな……」
「……じゃあ、お願いがあるの。
私達の事は秘密にして、この森の噂を色んな人に教えておいて」
「んな事で良いのか?」
「うん、よろしくね」
「噂……そうか! 幻惑の森の噂話は、ひょっとして……」
「しー、内緒にしてね」
「えっ、何、何?」
「任せな、噂話にヒレだろうが尻尾だろうが付けて、せいぜい大袈裟に話しておくぜ」
「うん、それじゃーねー」
「ホホーウ」
あんな素直な人達だけなら楽なんだけどなぁ。
さ、早く帰ろう。
お父ちゃんと師匠が家で待ってる。
夕日を背に、いつまでも手を振る彼等に見送られながら、私達は家路を急いだ。




