第30話:命の鼓動
「よっぽど空腹だったみたいだねぇ」
師匠がお肉を切り分けながら、そう言ってきた。
けど今は、それどころじゃない位にお腹が減っていた。
「まぁ、あんな無茶な魔力と魔法の使い方をしてたらそうもなるか」
「……アリス、やさいもある……くえ」
さっきから、お父ちゃんが付きっきりで、私の世話をしてくれてる。
うー、心配を掛けてしまった罪悪感が凄いけど、空腹感も凄い。
チラチラと横目でお父ちゃんを見ると、余計に気遣わしげにこっちを見てくる。
「……どうした、アリス……みずか?」
「……んーん、だいじょうぶ」
「……そうか」
「やれやれ、不器用だねぇ……おぉっと、怖い怖い」
師匠をひと睨みすると、解体中の蛇のほうに歩いていった。
まったく、一言多い!
でも、確かに言葉にしないと、ちゃんと伝わらないのも分かってはいるんだけど……タイミングが掴めない。
これじゃ不器用と言われても、しょうがない。
……よし!
うじうじ考えてたって始まらない、言葉にしてしまおう!
「……おとうちゃん、しんぱいかけて、こめんね」
「……いい、アリス、ぶじ……だから、いい」
「……おとうちゃん!」
「胃袋から卵が出てきたけど、中身は無事そうだし、食べるかい?……ん?何かまずかったかな」
なぜ、この師匠はこうも空気を読まないのか!
あと胃袋から出てきた卵なんて生理的に無理!
……いや、それよりも、何あの……卵?
師匠が両手で持つ程大きいしなにより。
殻が鱗みたいなもので覆われてるんだけど……。
「どらごんのたまご?」
「まさか、竜の卵は、もっと大きいし魔力もずっと多い。なによりフォレストサーペント如きが竜の巣から盗んでこれるはずもないよ」
「じゃあ、なんのたまご?」
「んー、それが何処かで見た記憶はあるんだが、思い出せないんだよねぇ」
そんなあやふやな物を食べさせようとしたのか。
「あぁ、いやいや、勿論先に私が一口食べてみるさ。
それに殻のある卵で毒があるのは見た事も聞いた事も無いしね」
私がジト目で見つめていると、慌てた様に一言付け加えた。
「ししょう、どくけせるの?」
「勿論、アンチトードは、使えるよ」
何気に便利な師匠である。
「……そのたまご、しんじゃってるの?」
「これかい? ふむ、微弱だが魔力は感じるね」
「じゃあ、いきてる?」
「まぁ、そうだねぇ、魔力を与え続ければ、或いは、って所かな」
「……わたし、そだてたい! おとうちゃん、だめ?」
お父ちゃんに抱きつき必死にお願いをする。
「……むぅ……ちゃんと、せわする……いいか?」
「うん! ちゃんとおせわする!」
「いやいやいや、グリム、それはいくら何でも甘過ぎないかい?」
えぇい! 師匠は、また余計な事を!
「……アリス、せわする……やくそくした、だから……いい」
そう言って、お父ちゃんは私の頭を撫でてくれた。
ふふん、これで師匠も文句は言えまい。
「……何故自慢気な顔で私を見てるのかは、この際置いておいて――その卵の正体を調べてみるとしよう」
「しらべるまほうがあるの?」
「いや、この”ケモナー生き物記”でね」
…………またか、またこのパターンか。
しかも、なぜか載ってそうと自然と思えるのがなんか悔しい。
「もし、仮にその卵が危険な生き物なら、アリス……
その時は、諦めてくれるね?
この世界には、生まれた瞬間に捕食しようとする生物もいる。
君自身や君の大切な人に傷ついて欲しくは無いだろ?」
「……うん、わかった」
「うん、良い子だ」
「……アリス、えらいぞ」
そう言って、両側から、私の頭を二人が撫でてくれた。
「とは言え、調べてる間に死なれてしまっては寝覚めが悪い。
アリス、君が抱えてなさい。
体から漏れ出る程度の魔力量があれば、すぐにどうこうはならないだろうからね。
良いかい?与えようとせずに、ただ抱えてるだけだよ」
「わかった」
「では、私は調べているから、少し待ってておくれ」
「うん、おへやにいってる」
「あぁ、ついでに少し眠ると良いよ」
「はーい」
ふー、たった一日しか経ってないけど、無性にベッドが懐かしく感じる。
それにしても、落ちて彷徨って、激闘をしてみて。
改めて、ヤバイ森に住んでたんだなぁと、しみじみ実感した。
……この卵も、ある意味じゃ私と同じなのかもしれない。
命の危機から辛うじて逃れられたのだから。
どんな子が出て来るのかな?
鳥とかよりは、見た目的に爬虫類かな?
……出来れば蛇は、もう勘弁して欲しいな。
でも、結局蛇だろうが、危険な生き物じゃなければ別にい……い……かぁ……。
~~~
……はっ!
寝てた。
自分でもびっくりするぐらい疲れてたんだなぁ。
あー喉乾いちゃった。
そうだ、水を飲みに行くついでに師匠の調べ物がどこまで進んだか聞いてみよう。
おっと、卵ちゃんも忘れず……に……?
あれ? てっべんが欠けてない?
え?
これ、ひょっとして、不味い?
ん? んん?何かこっちをガッツリ見てるような……。
「アリス!! その卵の正体が分かったよ!
生き物記によると、その卵の中身は――インテリゴリラだ!」
……は?
「……は?」
「あっ、いや、すまない。私とした事が、つい興奮してしまった。
ふー……まず、正式名称は、ハーミットエイプ、通称フォレストキーパー、森の守人とも呼ばれてる。
ケモナー曰く、幻の魔獣で、見掛ける事すら稀らしく、そして非常に知能が高いらしい。
特徴的なのが、身体全体を硬い甲殻で覆われてる所だね」
師匠は、捲し立てる様に私に説明をしてくれるけど……。
……徐々に割れる卵、そして私を見つめ続ける目。
気になって話しが入ってこない。
「そして、ケモナーの一番の相棒だったらしい!
その相棒に愛称として名付けたのが、”インテリゴリラ”と記されていたんだよ!」
……うん、頭が痛くなったきた。
まず、間違いなく悪ふざけが八割は入ってるはず。
「……ん? えっ、もう孵ってたのかい!?
目、目はもう、合ったのかい!?
その子は、目が初めて合った者を親だと思う習性があるらしいんだ!」
「……さっきから、あってる」
「おぉ! 素晴らしく運が良いな、君は!」
「……どうした?……なにか、あったか?」
「……きゅう」
あっ、ゴリラがお父ちゃんの方を見た。
「……」
「……」
えっ なに、なになになに!?
なんで無言で見つめ合ってるの?
「……きゅう」
「……いいこだ……アリス、ちいさいとき……おもいだす」
そう言ってお父ちゃんがゴリラを抱き上げた。
「えっ、そんなに簡単には、心を許さないと書かれてたんだが、違ったのかね?」
「ほ!ほほ!!ほー!!」
「あいた! 何故だ!?」
迂闊に手を伸ばして叩かれる師匠……。
「ほー、ほー、きゅう」
ん? 私の方に片手を伸ばしきたけど、触っても良いのかな?
「……うわー、あったかい」
「な、何故だぁ……」
色々あり過ぎた昨日と今日だけど、無事に家に帰って、お腹一杯食べて、最後には新しい家族も増えたし、万事オッケーかな?
この子の名前も早く付けてあげなきゃ。
「……きゅう」
よろしくね、私の未来の相棒。
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