第29話:家路
「……はぁ、おなかすいたなぁ」
飽きもせずに、ドッカン、ドッカンと頭を使って穴をこじ開けようとしてくる蛇に、ウンザリしてしまう。
あれから、こまめに休憩を挟みながら、周りを土魔法で少しずつ強化した。
お陰で水分補給は出来るものの、お腹が空いて仕方がない。
……早く諦めてくれないかなぁ。
あぁもう、また少し欠けてきた。
直して、また休んでじゃ、魔法も連続して打てやしない。
空腹で頭もあんまり働かないし、本当どうしよう。
……蛇って、淡白で鶏肉みたいな味がするって、どこかで聞いた気がするなぁ。
どこが一番柔らかそうかなぁ?
……喉のあたりかなぁ。
アイスカッターは魔力ドカ食いだし、ここはロックランス辺りかな。
でも、ただ下から突いただけじゃ弾かれそうだし……ドリルにするかな。
しっかり螺旋状に溝も刻めば、威力も上がるはず。
あぁ、そうだ。
弾かれても、ロックランスで穴を塞げば、時間も稼げてお得かも!
そうと決まれば、念入りにイメージして特大ドリルにしてやろうじゃない!
イメージ……イメージ!
「ろっく、どりるらんす!」
「ギシャシャァァァ!?」
蛇の頭が、上へ勢いよく打ち上がった!
「やれた!?」
ギャリギャリと、ドリルで削る音がする。
これは、いけたのでは!?
……あれ?
蛇の頭の角度が斜めになって、ドリルの軌道からずれていってるような……。
「シャアアアァァァァ!!」
……うわぁ、めっちゃ睨んでる。
ぬー、ダメかぁ。
まぁ、このままでもドリルが壁代わりになってくれるか。
おー、ズドン、と大きな音を立てて穴が塞がった。
計算通り!
あとは、また休憩しながら魔力回復を優先しよう。
どのみち、さっきのドリルを作ったので立ち上がるのも一苦労なくらい体力も無いしね。
♢♢♢
あれから一晩中探したが、アリスは見つからなかった。
恐らく、崖がなだらかになっていた此方側へ進んだのだと思うが……。
「さて、今度こそ痕跡か何かを見つけられればいいのだが……ん?」
大きな音がした方角を見ると、土煙の向こうに巨大な棘のようなものが突き出ていた。
「……兎に角向かおう。今は少しでも手掛かりが欲しい」
地を蹴ると同時に、背と足へ風魔法を纏わせる。
そして、棘の見えた方角へと急いだ。
~~~
「……なんだい、これは?」
恐らく、ロックスピアと思われる、地面から突き出た巨大な槍。
そして、暴れるようにのたうつ蛇の尾。
……うん、アリスだね。
だってあの槍、なぜか高速で回ってるしね。
……おっと、つい呆然と見てしまっていた。
早く助けてあげないと。
どれ、まずはあの蛇を引っこ抜くとしようか。
ふむ、では私も、あの高速回転している槍を真似て、何か派手な魔法でも使うとするかな。
そうだねぇ――うむ、これでいこう。
岩で作った巨大な腕、差し詰め“ロックアーム”と言ったところかな?
「そーお、れーーっと!」
―――
『……れーーっと!』
!?
なに? なになになに!?
だ、誰か上にいるの?
へ、蛇は!?
どうなったの?
……怖いけど、少しだけ隙間を開けて様子を見るしかないかぁ。
そー、と……あれ?
いない?
てことは、さっきの声と関係ある?
もしかして、“上”にいる?
……いつまでもここにいても仕方が無いし、嫌だけど確認しておくかぁ。
んー、この槍の中から地上に出れないかなぁ。
硬さもそれなりにあるし、地上付近まで出たら、小さな穴を開けて、そこから確認してみよう。
そうと決まれば、螺旋階段を作ってっと。
うん、この辺りかな。どれどれ?
……ん?…………んん?
「……ししょう?」
「おや、やはりアリスだったか」
いい笑顔でこちらを振り返ってるけど……。
なんで、巨大な岩の腕で蛇を伸ばしてるんだろう?
「ししょう、なにしてるの?」
「うん? あぁ、こうやって上から下に何度か引き伸ばしてやれば、強い刺激や圧迫によって蛇が極度の緊張で暫く動けなくなるんだよ」
「……へー」
流石、旅慣れたワイルドエルフだなぁ。
「……ま、例の聖人の受け売りだけどね」
「……あぁ」
何か急に感心して損した気分になった。
……いや、まぁ為には、なったけど。
それよりも……あの蛇、食べられるのかな?
あの大きさがあれば、暫くお肉に困らなそう。
持って帰ったらお父ちゃん、喜んでくれるかな?
「ししょう、そのヘビたべれる?」
「このフォレストサーペントかい?
食べられるよ。寧ろ貴族から依頼が来る程さ。
この個体は、まだ若いがそれなりの大きさだし、鮮度のある内に絞めておけば、格別だろうね」
「じゃあ、もってかえろう!」
「では、手早く絞めてしまおうか。
お、あそこに丁度良い穴があるね、あそこに血を捨ててしまおうか」
そう言って師匠は、岩の腕で頭を押さえ、剣で首を断ち切った。
えっ、あそこって、私の掘った穴……。
私の激闘の跡が、ただの便利な穴に変わってく。
まぁ、いいけど、なんだろう凄い複雑……。
「ちは、いらないの?」
「あぁ、この血は、毒にも薬にもならないからねぇ。
それにこの蛇は、毒もないからね」
ふーん、獰猛で大きな蛇ってところか。
そして、あの収納鞄の容量の出鱈目さよ……。
あっという間に鞄の中にあの大きな蛇が入っていった。
「さて、帰るとするかね。グリムを余り心配させ過ぎるのもね。
では、私に掴まりなさい、飛んで戻るよ」
……ん?
飛ぶ?
「……どうやって?」
「まず、魔力で上に丸い膜を張って、そこに突風を起こすのさ。
ある程度の高さまで行ったら、進行方向に向きを変えて進むって訳さ」
理屈は分かるけど、心が分かりたがらない。
「さぁさぁ、早く帰るよ掴まった、掴まった。
では、いくよ」
ま、待って、まだ心の準備がぁぁぁぁ!?
……うわぁ、森が遠いなぁ。
「お、我が家が見えるよ。では、進路確定――いくよ!」
お願いもっとゆっくり行ってえぇぇぇ!?
~~~
「到着、さぁ着いたよ」
「……アリス!?……アリス!!」
「お、おどうぢゃあぁぁん!」
た、高かった!怖かった!
「うんうん、良かった良かった……なんで私は睨まれてるんだろうね?」
くっそー、文句を言いたいけれど、助けてくれた師匠には感謝もしてるし……複雑!
ぐぅーー。
あぁそういえばお腹減ってたんだった。
「……アリス、はらへったのか?……めし、くうか?」
お父ちゃんが焦ったように私を見て、心配そうに聞いてきた。
「おぉ、そうだ折角だしフォレストサーペントの肉でも焼こうじゃないか」
「すてーき!」
「……すてき?」
師匠がいそいそと、鞄から蛇を取り出し、慣れた手付きで切り分けだした。
「……!?……でかい、へび」
ゴクリと喉を鳴らしながら私を抱えて、お父ちゃんが後ずさった。
まぁその気持ちは良く分かる。
あんなのがいきなり鞄から出てきたら驚くのも無理はない。
……はぁ、色々ありすぎたけど、無事に帰ってこれて本当に良かった。
まさかあの果物からこんな大冒険になるとは……。
うん、何はともあれ、お腹減った!
「ししょうー、まだー?」
「もう少しで出来るよー」
「……うまそう」
さぁ、お肉だ!




