第28話:忍び寄る長い影
「……ん、あさ?」
眩しさと肌寒さで目が覚める。
「からだいたいし、おなかへった……」
……とりあえずここから出て、帰り道を探しつつ何か食べ物を見つけよう。
おっと、そうだ。
魔法で水なら出せるか。
手の平でお皿をつくっ――。
……やっぱり手の甲から出るか。
よし、水分補給もしたし行動開始!
さて、当面の問題はこの崖かぁ。
崖の左側には、落ちてきた時に折れた木が見えるけど、昨日の”鳴き声”が気になるし、登れそうにない。
右は崖が徐々になだらかになってるけど、その分森が深そう。
まぁ、魔法で足場を作れば登れそうだけど、どこまで自分の魔力が持つか分からないし。
師匠の話では、魔力切れが近づくと疲労感が出てきて、最後には体力が尽きて倒れてしまうらしい。
体の中で魔素を燃やすのだから、体力も僅かに消耗していると言っていた。
それに、崖の途中で魔力切れを起こして立ち止まった瞬間、魔物に襲われそう。
隠れる場所もなさそうだし、目立つだろうなぁ……。
となれば選択肢は一つ。
怖いけど、崖沿いに森へ入って登って行くしかないか。
~~~
あれから結構歩いたけど、この崖を迂回できそうな場所が見えてこない。
それよりも……。
背中に付けたら空も飛べちゃいそうなトンボ。
そして、それを食べる巨大なカエルがいた……。
まさかとは思うけど、そのカエルを食べるような――。
……まさかね。
ん? 急に影が……雲でも出てきたのかな?
少し曇ってきたのかもしれない。
雨が降り出す前に、登れそうな場所を見つけておきたいな。
それにしても、深い森と曇り空のせいか、時々急に暗くなるから歩きづらい。
おまけに色んな鳴き声や、何かが這いずるような音まで聞こえる……。
けど、それを気にして立ち止まってる暇はない。
よし、とにかく慎重に進もう。
静かに、焦らず、不用意に近寄らず、そして触ら――……ず?
なんだろ、このすべすべしたの……。
振り返ったら目の前にあったけど。
……長いなぁ。
いやだなぁ、怖いなぁ、見たくないなぁ……。
恐る恐る視線を横にずらしてみる。
……大きな赤い目が、二つ。
「…………へ、へびぃぃぃぃ!」
と、鳥肌がヤバい!
しゅるしゅる言ってるーー!!
なにより、デカイ!
「キシャァァァアアアアア!」
て、撤退いぃぃぃ!!
ひいぃぃぃぃ!
木をなぎ倒しながら追ってくるぅぅぅぅ!
はっ!そうだ、こんな時こそ魔法!
えーと、えーと……!
追い風!
すっごい追い風で、一気に逃げれば――!
そうと決まれば、発動!
あ、危なっ!
ダメだ、小刻みに風を使わないと木に当たる!
でも、それだと追いつかれるし……!
……こうなったら一か八か、振り向き様に一撃!
――当たれぇぇ!
「すとーーん、ぱんち!」
「ギャシャァァァァ!?」
地面から岩の握りこぶしが飛び出し、蛇の顎を打ち抜く!
「シャァァァァァアアアアア!!」
不味い!?
怒らせただけぇぇ!?
と、とにかく、もう一回風魔法で逃げ――!
「ジャアァァァァァ!」
「あぶな!」
ふうぅぅぅ……。
咄嗟に横へ逃げてなければ、お終いだった……。
どうする、どうする!?
そうだ!
崖に、私がギリギリ入れる穴を開けて、そこに逃げ込めば――って、崖が終わってるぅぅぅ!
まずいマズイ不味い!
それに、気付いたら森も終わって、いつの間にか草原になってるし……!
うー……これならどうだ!
“土分身!”
どうせ蛇に、色の違いなんか分かりっこないはず!
この土魔法で作った私の分身達を囮に――
……あれ?
なんか、真っ直ぐこっち見てない?
「シャァァァァァァ!」
「なんでぇぇぇ!?」
蛇って目が良かったの!?
……あ!
ピット器官か!
熱源探知されたら、分身も意味がない!
早く、この鬼ごっこを終わらせないと……。
こうなったら、“アレ”を試すしかない。
小さな氷の刃を、目に見えるギリギリまで小さくした大量の刃。
それを高速で回転させ、更にリング状に束ねてぶつける!
「あいすかったー!」
「ジャアァァ!?」
斬れた!
少しだけど斬れた!
それに、警戒してくれている。
少なくとも、ただのエサから、警戒しなければならない獲物にはなれたかな。
けど、ちょー、と不味いかも……。
……膝が笑い始めてきた。
魔法を使い過ぎて、立っているのもきつくなってきた。
だから、まだ警戒しててね……。
その隙に、息を整えておくから。
「……ふう、ふう」
アイスカッター、魔力消費が半端ないなぁ。
使えてあと二回ってところかな。
いっそ、土魔法でまた卵型の殻を出して――
……だめだ、丸飲みにされる未来しか思い浮かばない。
なにか、何か無いか……何か……!
!!
私がギリギリ入れるくらいの小さな“穴”を真下に開けて隠れてしまえば、もしかしたら!
そうと決まれば!
「でぃぐ!」
「!?」
どうだ!
ここなら襲ってこられな――
「ジャアァァァァ!」
尻尾!?
尻尾の先が、無理やりこっちに入ってくる!?
ヤバいヤバいヤバい!
もっと、もっと下に!
……ん?
なんか、息苦しいような……。
ヤバい!?
今度は空気穴が無いと不味い!
な、斜め上に軌道修正!
よ、よし!
微かに、光が見えた!
……あ、だめだ。
もう魔力が……。
くっそー、ここまでやって諦めたくないなぁ。
あーぁ、尻尾で開けた穴から顔を突っ込んで、無理やり入り込もうとしてるよ……。
……ふぅ。
あの大きな顔が私に届くまで、まだ少し掛かりそうだし、休憩しながら足掻いてやる。
さぁ、今度はただ逃げるだけじゃないぞ。
硬く固めながら進んでやる!
だから、もっとゆっくり来てね……蛇さん。




