第27話:迷える迷子
「あああぁぁぁ!?」
と、止まらないし、前の方が欠け始めた!?
どうしよう、どうしよう。
そうだ、ブレーキ!
えぇと、焦るな、焦るな私。
殻の下に杭を四本、魔法で作ればブレーキになるはず!
よし! イメージ、イメージ。
そして発動!
「とまれーー!! え?」
あれ? なんで空が目の前に?
杭は?ブレーキは?
「…………やっぱりおちてるーー!?」
どうする!
どうしよう!
どうすれば!?
そうだ!
風だ!
下に強風を吹かせて、落ちる勢いを少しずつ殺せば着地できるはず!
あぁ、そう考えている間にも、大木がどんどん迫ってくる!?
急いで集中、集中……!
イメーーージ!!
発動!
「……なんで、そら?」
……あれ?
下に吹かせた、よね?
なんで空が近――
「…………やっぱり、″また″おちてるーー!?」
♢♢♢
「……ある! ……ある!」
「……どうしたんだい、グリム?」
彼がここまで慌てているなんて、何かあったのだろうか。
「……あ、アリスが……いなくなった!」
「なんだって!?」
迷ったか?
それとも事故か、もしくは……。
兎に角、痕跡の残っている内に急いで向かわなくては。
「時間が惜しい。急いで案内してくれないか」
「……わ、わかった……こっち、だ」
一瞬、彼は呼吸を整えると、森の中へ向かって走り出した。
私も彼に続いて走る。
そしてすぐに、洞窟から然程離れていない場所で彼は立ち止まった。
「……このあたりで、アリス……いなくなった」
そう言って、彼は落ち着きなく辺りを見回す。
「……この辺りで食料を探していた、と。
む? この果実の落ちている辺り、草が倒れているね」
しゃがみ込んで覗いてみれば、そこは急な斜面になっていて、所々草や枝が折れていた。
間違いなく、ここから滑り落ちたのだろう。
「グリム! ここを見てくれ。
どうやら、あの果実を取ろうとして、この急斜面から滑り落ちたみたいだ」
「!? ……おれ、いってくる!」
「待つんだ!
ここから先は、君では探す前に魔物に襲われてしまう。
だから、ここは私が行こう。
君は家で、アリスが帰ってくるのを信じて待っていて欲しい」
「……! ……!……。……わかった」
彼の無言の葛藤が、ひしひしと伝わってくる。
「大丈夫。私はBランクの冒険者だよ。
安心して任せてくれればいい。
さ、家で私達の帰りを待っていておくれ」
「……アル、きおつけろ」
「あぁ、では行ってくるよ。
きっとアリスを探し出してくるから、戻ったらお茶にし――よおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
「ある!?……あるーー!!」
し、しまったあぁぁぁ!
あ、足が滑っ――!?
―――
”おおおおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉ”
!?
な、なんだろう、今の鳴き声……。
やだなぁ、帰り道が今の鳴き声の方みたいなんだけど……。
……少しだけ遠回りしたほうがいいかな。
それに、もうじき暗くなる。
ここからは、なるべく声を出さずに進もう。
……ふぅ、今更ながら、必死だったとはいえ魔法、ちゃんと使えてたなぁ……。
できればもっと、穏やかに取得したかったなぁ……。
……あー、やめやめ!
気が滅入ってきちゃう。
今は帰ることに集中しよう!
えーと、木が連続して折れている方向からして、あっちかな。
……やっぱり鳴き声のしたほうか。
……覚悟を決めて、慎重に進むしかないか。
早く帰らなきゃ、きっとお父ちゃんが心配してるはず。
♢♢♢
……ふぅ酷い目にあった。
まさか、二度ほど空に飛び上がってしまうとは……。
やはり、慌てて下向きに風を吹かせて止まろうとしたのが不味かったか。
だが、お陰で空から痕跡は発見できた。
後は、周囲の警戒をしつつ一刻も早くアリスを探し出さなくては。
「さて、我が弟子はどこにいるのやら。
……うん? あれは……ほう、土系の魔法で生成した殻か。
なるほど、これに入って衝撃から身を守ったか。
しかし、なぜ足が生えているんだろうか?」
これが、杭ならまだ理解できるが、なぜ”動物”らしき足の形なのだろうか?
もしかして、これで止まろうとしたのかねぇ?
……相変わらず不思議な子だ。
さて、今はそれどころではないな。
あの子は賢い。
きっと折れた木から方角を探して進んでいるはずだ。
その痕跡の”側”を辿れば、恐らく合流できるだろう。
……ふむ、もう日も暮れる
危険な魔物の活動時間だ。
急ぐとしよう。
―――
結構歩いたけど、周りが鬱蒼としすぎてて、どれくらい進んだのかもよく分からない……。
どこかで隠れて明るくなるのを待ったほうがいいかもしれない。
身を隠せそうな丁度良い場所があればいいけど。
無ければ、最悪地面を掘るしかなさそう。
は~ぁ、ラノベならこういう時は都合よく木の洞とか見つかるんだけどなぁ。
……でも、冷静に考えたら、そんな都合の良い場所って”先客”がいそう。
よし、近づかないようにしよう。
♢♢♢
大分歩いたが、まだ痕跡は見当たらない。
この鬱蒼とした森の中だ、方向感覚がズレたのかもしれない。
少し探す範囲を広げるとしよう。
それにしても、あの子の特殊な魔力を探れば見つかると思ってたが、そんなに甘くはなかったか。
そこかしこで様々な魔力が入り乱れていてあの子の魔力を辿れそうもない。
地道に行くしかなさそうだ、それに暗くなってきたことだし、あの子のことだ。
無駄に動き回らずに”木の洞”なんかに案外隠れているかもしれない。
―――
うん、この崖際に私がギリギリ入れるくらいの穴を掘ろう。
「……でぃぐ!」
やっぱり完全な無詠唱より、呪文があった方がロマンがあっていいよね!
……けど、さっき見つけた大木の根元の穴は惜しかったなぁ。
気配は無さそうだったけど、いつどんなのが戻ってくるか分からないし、近寄らないで正解だよね。
さて、ここまで掘ればいいか。
あとは朝まで少しでも横になろう。
待っててね、お父ちゃん。
必ず帰るからね。
♢♢♢
「ぬうぅぅぅ! これならどうだ!……やったか!?」
アリスが隠れていそうな大木の根元の穴を見つけ、覗き込んでみれば――まさか、オウルベアの住処だったとは。
不覚!
飛び退くと同時に数本のアーススピアで応戦したが……どうだ?
「……ぬ、やはりまだ息があるか」
ストンバレットで額を打ち抜きとどめを刺す。
……ふむ、おかしいな。
一体アリスはどこを歩いているんだ?
向こうは見上げる程の崖だしなぁ。
こんな日に限って雲一つない満点の星空か。
……ふぅ。
長い夜になりそうだ。




