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『世界一弱いお父ちゃん(ゴブリン)は、世界一あたたかい』 〜ゴブリンに育てられた少女アリスの成長譚〜  作者: クワガタンク
第二章:芽吹きの時代

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第24話:人と亜人の実情

「さて、どこから話したものか。そうだねぇ……人種(ひとしゅ、もしくは普人と言われている君の種族と、

グリムのゴブリン等の鬼種、そしてその他の普人以外を――亜人と呼ぶ」


「ししょうも?」


「ここが複雑でねぇ。私の種族のエルフやドワーフ、ハーフリング等、見た目が人種に近い者達は”幻想種”なんて呼ばれてるのさ。

まぁ、過激な連中はまとめて亜人だ、なんて言うけどね、実にくだらない話さ。

同じ言葉を話し、意思の疎通も出来る。それ以上になにを望むというのかねぇ」


眉間に皺を寄せて、師匠はまるで吐き捨てるように言った。


「……君は聡い子だ。いずれ、私達の言葉の端や態度で感づいてしまうことだろう。

だから、変に誤解を招かないよう、今のうちに話しておくとしよう。

ただ――これから話すことは、君にとって衝撃的すぎるかもしれない。

耳を塞ぎたくなるかもしれない。それでも聞きたいかい?」


「…………わたし、ききたい」


正直、聞くのが怖い。


でも、ここで耳を塞いでしまったら、きっと後悔してしまう。


「……わかったよ。では少し長くなるけど、私の知る限りを話そう。グリムも、それでいいかい?」


「……いい。アリス、しりたがってる……おれも、しりたい」


気づかわしげにお父ちゃんへ問いかけた師匠が、顔をこちらに向き直し、私の目をじっと見つめる。

沈黙に、息が詰まるような錯覚を感じた。


「遠い昔。普人と亜人は、それぞれの領域で分かれて暮らしていた。

普人は互いに寄り合い、村となり、街に変わり、やがてそれは国となった。

反面、亜人は種族ごと……いや、それより細かく、部族ごとに分かれて暮らしていた。

そして、普人と亜人は、その見た目の違いから、互いに受け入れ難い存在だと認識していった。

そんな中で、普人達の築く国に興味を持ったドワーフやエルフ等、見た目が人種に近い者達は受け入れられていった。

人が集まれば、技術も文化も発展する。

そんな中で現れたのが来訪者さ。

見知らぬ恰好の来訪者に、当時の人々は戸惑い、警戒した。

だが、齎される知識に次第に打ち解け、更なる発展へと一気に飛躍していった。

一方で、数が少なく、個々で暮らしていた亜人達は、変わらぬ狩猟生活を続けていた。

その差が――やがて、亜人を劣る存在だと思うことが“当たり前”になっていったんだ。」


師匠の言葉に、思わずお父ちゃんを見る。


お父ちゃんは真剣な顔で師匠の話を聞いていた。


胸のざわつきを抑えながら、私は師匠に尋ねた。


「それから……どうなったの?」


「各地に国が増え始め、徐々にそれぞれの国に住まう人々が増え始めた。

人が増えれば、使える土地にも限りが出る。

そうなれば、人々は森を切り開き、新たな土地を求めて開拓を進めていった。

だが、人が安全に暮らせる領域は、魔物によって限られている。

そして当然、そうした安全な土地には――先に暮らしている者達がいた。

最初の来訪者が現れてから約二百年後。

新たな土地を求める普人と、先に暮らしていた亜人達との間で、小競り合いが起こったのさ。

当初は、土地勘のある亜人達が優勢だった。

だが、やはり数と戦力の差は大きかった。

住み慣れた土地を追われ、森の奥へ逃れる者。

囚われ、奴隷のように扱われる者。

あるいは、敵わないと悟り、降伏し重労働を強いられる者もいた」


「それがいまも、つづいてるの?」


私の言葉に、お父ちゃんは、はっとした顔でこちらを見た後、再び師匠へ視線を戻した。


「いいや、今はそれなりに地位も認められている。けれど、一度染みついたものは、そう簡単には消えないものさ。


そして、その支配を決定的なものにした来訪者が現れた。


そう、次なる来訪者がね。


現れるなり興奮した様子を見せたかと思えば、今は何時代かと詰め寄った――と、記録には残っている。」


「そんなむかしのが?」


「ほら、君達が文字を書くのに使っている葉にも、保存の印を施してあるだろ? あれさ」


あの魔法陣は、そんな長期間の保存が可能だったんだ。

魔法って、本当に何でもありなんだな……。


「話は戻って、その現れた来訪者を当時の人々は警戒しながらも受け入れざるをえなかった。

なぜなら、この先の繁栄を神に祈っている最中に現れたのだからね。

神が遣わした御使いだと、聖職者達が口々に言い始めたんだ。

そして現れた男を宥めて落ち着かせ、事情を聞き、男の持つ知識を得たんだ。

……ここからが最悪でね、男はこちらの世界の現状を知ると、亜人を魔物と言い放ち、扱いは正当だと主張しだしたのさ。

それを喜んで受け入れたのが権力者達さ。

自分達のしてきたことを、“正しい”と言われたかったんだろうね。

そうして、男が没した後もそれは、三百年間続いたとされる。

亜人達にとっては、暗黒の時代だったろうね。」


全ての来訪者が善人だなんて思わないけれど、まさかここまで酷いなんて……


まるで、自分まで責められているような息苦しさを覚えた。



「だが――その時代の終わりをもたらした者が、訪れた。

暗黒の時代の三百年を少し過ぎた頃。

そして、今から五百年程前に。

当時の大国の大聖堂に、突如として現れたのさ。

奇しくも暗黒の時代を招いた男と同じく、祈りの最中に現れたものだから、それはもう神々しく見えたんだろうね。

……“外側”だけは」


「そとがわだけ?」


「……?」


私とお父ちゃんが揃って首を傾げると、それまで真剣だった師匠の顔が、困ったような表情になった。


何か言いづらそうに、言葉を選ぶように口を開く。


「あー、まぁ、そのー……。ここまで真面目に話してきて、何を言ってるんだって怒られそうなんだけどねぇ……。


今から話すことは、実際にあった話だと理解して欲しい」


師匠の不思議な念押しに、ますます首を捻る私達。


そんな私達を見て、意を決したように師匠は語りだした。


「……異世界の言葉、というか概念? 呼称? だったかな。

いまいち私自身も理解しきれていないのだが――うほん!


“ケモナー”を名乗る来訪者が現れたのさ」



……師匠は何を言っているんだろうか?


思わず怪訝な顔になってしまう。


「……だから知ってる者に話すの嫌なんだよ、この呼び名」


呟くような師匠の愚痴が聞こえた。



――そして私は、この世界の歴史が、思っていた以上に“来訪者達”に振り回され続けてきた世界なのだと――私は、この時初めて知った。

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