第21話 由来と決意
暖かな風を受けながら、魔素を練ることに集中する。
結局、最初の一回は成功したものの、その後はなぜか発動しなくなってしまった。
なので、焦らず、魔素を練る練習を優先させることにした。
そうしてしばらく練り続けていたけれど、やがて集中力が切れてしまった。
一息つこうと顔を上げたそのとき――ふと、疑問が湧いた。
「ししょう、そういえば……なんで、まほうのなまえ、わたしのしってるのと、おなじなの?」
優雅にお茶を飲みながらお父ちゃんと談笑していた師匠が、こちらを向く。
「なんでって。まぁ、こちら側の由来の魔法名もあったけど――簡単に言ったら、来訪者の使う魔法名が冒険者の間で流行ったらしいんだよね。
更に国を越えて活動する者達が広めて、定着していったって訳さ」
うーん、歴史的な出来事も結構単純な理由だったりするようなものだろうか。
「あとは、そうだねぇ――よく使われる日常系魔法から、派手な攻撃魔法まで君達、来訪者が編み出した物が多いのも理由だねぇ」
あぁ、その説明で全部納得した。
”編み出した” のではなく、”ノリで再現した” が正しい気がする。
きっと、思い付く限りを試したんだろう……。
それを見た冒険者達が触発されて盛り上がって、流行っちゃったんだろうなぁ。
となると、やはり剣技とか、武器系の魔法もありそうだ。
「さっきの、”きる”まほう、なんていうの?」
「あぁ、あれはねぇ……使う人による、としかいえないのがねぇ」
師匠は困ったような顔で続ける。
「ある人は、サンドカッターと言うし。またある人は、ストーンカッターだと言う。
風魔法で回すのならウィンドカッターだ、なんて言う人もいてね――まぁ、”カッター”の部分が同じってだけかなぁ」
「まわせるのは、かぜまほうだけ?」
「鋭いねぇ……実は、魔力を纏わせて飛ばす魔法や”剣技”もあるんだよ。勿論、纏わせたままで斬ることも――あぁさっきのテーブルもそうやって作ったのさ」
つまり、カッター系は、無理やり風魔法で再現したいロマン勢の努力の結果ってことか……。
あれ?でもなんで、魔法名はほぼ正確に伝わてるのに、ゲムーとか、ドガーなんて間違いがあったんだろ?
「ししょう、なんで”げむー”とか”どがー”ってまちがえてたの?」
「さてねぇ。魔法に興奮した来訪者が、その辺の説明をおざなりにしたか、自尊心の高い探究者が聞き違いを疑いもしなかったのか――もしくはその両方か。どちらにせよ、今更だねぇ」
どっちもあり得そう。
結局こういう小さなすれ違いの積み重ねが、伝わって定着したんだろう。
まぁどちらにせよ、私的には馴染のある魔法の名前で、イメージもしやすいし助かる。
それにしても、こちらの世界由来の名前の魔法ってなんだろう?
「ししょう、こっちのせかいのまほうのなまえってなに?」
「あぁ、それはね。結論から言うと廃れてしまってね。すっかり新しい呼び名に置き換わってるんだよ。
例えば ”灯よ”と言ってみたり、”明かりよ” なんて具合に人によって違っててね。
結果どちらが正しいかなんて下らない言い争いもあったらしいよ」
だから”魔法名もあったけど”なのか。
「”ライト”の一言で、皆に通じる方が楽だし早いからねぇ。まぁ一部の回顧主義者や来訪者には好評だけどね」
あー、そういうの好きそうなのは、あっちの世界に多そう……。
片手で顔を隠している様子が、目に浮かぶ。
というか、悲観的な来訪者は居なかったのだろうか?
これまで聞いた話だと、全員が、やけにポジティブすぎる気がする……。
「こっちにきたひと、みんな、たのしそうなひとだけだったの? さびしそうなひと、いなかったの?」
「来訪者が、かい? 確かに幾人かはそんな人物もいたらしいね。ひっそりと暮らす者、開き直ってしまう者って具合らしいよ」
やはりと言うか、当然というか。
それでも”幾人か”で済んでるのは何か法則性でもあるんだろうか?
……やめよう。考えても答えなんて出ないし、過去の話だろうし。
今は自分のことと、お父ちゃんに少しでも楽をして貰えるように早く魔法を覚えよう。
「……めし、できたぞ……アリス、アル……くえ」
私が心で決意を固めていると、お父ちゃんがお昼を用意してくれていた。
空を見上げると、太陽はもう真上に来ていた。
「うむ、では頂くとしよう。アリス、昼食を食べたら、午後からは読み書きの座学をしようか」
読み書きか。確かにこの先、どうなるか分からないし、習っておくに越したことはない。
「うん、わかった!」
私を見て、師匠はにっこりと微笑む。
そんな師匠の隣で、お父ちゃんは何か考え込んでいた。
俯いていた顔を上げて、お父ちゃんは意を決したように言った。
「……アル、おれにも……おしえて、くれ……たのむ」
静かに頭を下げるお父ちゃんに、師匠は穏やかに答えた。
「勿論、君が望むなら教えよう。だから頭を上げてくれないかい?」
「……いいのか?……おれ、なにも、おまえに……やるもの、ない」
お父ちゃんは驚きに目を見開いて答え、その後に肩を落として言った。
「下宿代代わりだって、何度も言ってるじゃないか。それに、一人教えるも二人教えるも一緒だよ」
そう言って師匠はウィンクをした。
「そうか、アル……おまえ、いいやつ」
「おとうちゃんといっしょ!がんばろうね!」
私がそう言うとお父ちゃんは照れくさそうに笑った。
「うんうん。微笑ましい親子の笑いあう姿だねぇ……笑ってるんだよねぇ? あれ」
首を傾げながら、師匠はお父ちゃんの方を見て、そんな失礼なことを言っていたので、私が睨むと、すっと視線を逸らす。
どう見ても照れ笑いにしか見えないだろうに、師匠にはどう見えているのか。
確かに、ほんの少し口角の上りが不足気味かもしれないが、よくよく観察すれば笑ってる判定が出来るだろうに。
どうやらお父ちゃんの観察力については私のほうが上であったらしい。
「……なんで急に胸を張りだしたんだろうねぇ」
「……アリス、はらへってたのか?」
外野の声を無視して私は食事の並ぶテーブルへと駆け出した。
さぁ、この世界の知識をもっと学ぼう、この世界をもっと知ろう。
その為には早く、もっと大きく、もっと強くならなくては。
この森は、決して優しくは無いのだから。




