第14話:エルフの提案
どうにか日暮れ前に洞窟に辿り着き、山羊達の歓迎を受ける。
お父ちゃんはまだアルヴェイを警戒していた。
「ついた……ここだ」
「ほほう、こんな所に洞窟があったとはねぇ」
そう言って彼は辺りを興味深そうに見回した。
そんな彼をよそに、お父ちゃんは私と荷物を下ろし、森に視線を向ける。
「なか、いく……くらくなる……まえに」
「うむ、その意見には賛成だ。では、お世話になるとしよう」
お父ちゃんは私の手を握り、山羊達を柵の中に入れ、荷物を中に運ぶ。
奥にある私達の生活スペースに籠を下ろし、竈に火を入れる。
アルヴェイは、首を軽く傾げ、何かを考えているようだった。
「ふむ、君達二人暮らしだとしても、少々手狭だねぇ」
「……?、こまること、ない……なんでだ?」
お父ちゃんは何を言っているんだと言う顔で問い返す。
「なぁに、宿代代わりに、ここを少しばかり広くしてあげようかとね」
「……ひろく?」
「どうだい?」
そう言って彼は、なぜか私に笑いかけた。
「どうやって、ひろくするの?」
つい、警戒よりも興味が勝ってそう聞いてしまった。
ここが異世界だと気付いてから、魔法の存在が気になっていた。
そして、エルフの彼と出会い、その”もしかして”が膨らんでいた。
「勿論、土属性の……って魔法自体まだ知らないか。あーと君……そう言えば君の名前知らなかったねぇ」
「……グリムだ」
「そうかグリム君、魔法で広くしてもいいかな?」
お父ちゃんは彼の言葉をじっくりと飲み込むように考え、それから答えた。
「……こわれない、なら……やって、くれ」
「うむ! さぁアリス、よぉく見ているんだよ。今から”魔法”と言うものを見せてあげよう!」
そう言って彼は荷物を置き、洞窟の奥へ向かって手を翳す。
すると岩肌が、まるで溶けるようゆっくりと広がっていく。
驚きながら彼に視線を向けると、彼の掌や体の周りに、キラキラとした光の粒や膜のようなものが見えた。
「見えるかい?それが魔力だよ、やはり君は良い目を持っているねぇ。何より、君自身の魔力も独特だ」
私に笑いかけながら、彼はそう言った。
しかし、私はそれどころではない。
あんなに期待してたのに、魔法の詠唱が無いではないか!
確かに無詠唱は凄いかもしれないが、ファンタジーと言ったら詠唱魔法だろうに!
「……何故、不満げな目で見られているのかねぇ?」
私の不満げな視線をよそに、お父ちゃんは驚きに声を出せずにいた。
「……こっちのほうを期待してたんだがねぇ……ん?待てよ……」
お父ちゃんの驚く顔を見ながらそう呟いた彼は、徐に私へと疑わしげな視線を向けてきた。
彼の視線を受け、背中に冷たいものが走る。
もしかして、私が転生者だと気付かれた……?
どうしよう、うまく誤魔化しきれるだろうか……。
「ばーって、ひろくならないの?」
「いくら私が凄くても流石に無理だよ」
彼はそう言って、苦笑しながら顔を横に振った。
……勘違いしてくれた?
安堵の表情を顔に出さないようにしながら、誤魔化すように首を傾げてみせる。
「ふむ、まぁいいさ。では次は部屋の形にしていこうかねぇ」
……なんだろう。
誤魔化せたのではなく、誤魔化されてくれたような気がした。
彼は歩き出し、奥へと手向けて光の玉を浮かび上がらせた。
「おや?湧き水があるのかい。あまり下に行くのは止めたほうが良さそうだねぇ。しかし洞窟の中に小さいながらも泉があるのは便利だねぇ」
私達がいつも使っている水場を見て、彼はそう言うと、少しだけ小さな坂を作り、段差を付ける。
「では、こちら側に君達の新しい部屋を作ろうか。その後に、反対側に私の寝床を作らせてもらおう」
次々に岩肌を削り整えていく。
その様子に私とお父ちゃんは二人して驚いていた。
やがて部屋が出来上がり、彼は手招きをして私達を呼んだ。
「さぁ、どうだい。出来上がりは上々だと思うが、気に入ってもらえたかね?」
出来上がったばかりの部屋に入ると、空間だけではなく、壁をくり抜いたベッドや棚などが作られていた。
「うわー、すごいね!お父ちゃん」
「……すごく、ひろい……おまえ、すごい」
「うむうむ、そう言って貰えると作った甲斐もあるよ。あとはこいつを上にぶら下げれば完成だ」
そう言って懐から細長い筒のようなものを取り出し、天井に吊り下げる。
「こいつはね、自然の魔素を使わない時に取り入れ……あー、ここを押すと明るくなって、もう一回押すときえるよ」
お父ちゃんが首を傾げだしたのを見て、彼は詳しい説明を諦めたようだった。
「そんな、すごいのをかしてくれるの?」
私がそう言うと彼は徐に目を細める。
「ほう?これの価値が分るのかい?……やはり君は面白い」
その言葉に、ギクリとする。
……しまった、うかつだった。
目をそらしながら言い訳を考える私を、じっと彼は見つめる。
「アリス?……どうした?……おまえ、アリスに……なにした!」
狼狽える私にお父ちゃんは何かを察したのか唸り声を上げる。
「待て待て、誤解だ。別に追及するわけではない。単に感心しただけさ」
慌てて彼は、お父ちゃんに敵意が無いことを示すように両手を上げた。
「ところで、ひとつ相談なのだが。どうだろう、この子に私の持つ魔法の知識、それに多少の剣の心得なんかも教えられる。
その代わりに、少しばかり居候させてもらえないだろうか?」
突然の提案に、私とお父ちゃんは言葉を紡げず、固まるばかりだった。
帰り道で出会った、不思議なエルフ。
振り回される未来と、魔法への憧れが、私の胸を熱くした。




