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『世界一弱いお父ちゃん(ゴブリン)は、世界一あたたかい』 〜ゴブリンに育てられた少女アリスの成長譚〜  作者: クワガタンク
第一章:深き森の出会い

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第12話 潮騒の贈り物

星の瞬きが西の空に帰る頃、私は優しく揺り起こされた。

お父ちゃんは、起きていて、準備を始めていた。

薄目しか開けられずにいる私に、お父ちゃんは優しく声を掛けてくれる。


「アリス……おきろ、そろそろ……いく」


何度か揺すられ、ゆっくりと目を開ける。


「うー……おはよう……おとうちゃん」


まだ少しぐらぐらとする頭を振って、眠気を飛ばす。

お父ちゃんは、そんな私を見て頬を緩ませていた。


洞窟の奥の湧き水で顔を洗い準備をしていると、お父ちゃんが声を掛けてきた。


「アリス……ここ、はいれ……」


そう言って蔦で編んだ抱き紐に私を入れ、胸の前に抱え込む。

流石にまだ幼い体で、歩いて半日の距離は無理がある、出来れば、お父ちゃんと一緒に歩きたかった。

少し残念に思っている内に、いつの間にか準備が整っていたらしい。


「すこし……いそぐ……つかまってろ」


「うん! たのしみだね、おとうちゃん!」


私がそう言うと、お父ちゃんは、微笑みながら頭を撫でてくれる。

そして前を向き、籠を背負い小走りに、日の昇りきらない内に森へと入って行く。

まだ暗い森の中を、音をたてないように素早く移動する。

獣だけじゃない、この森には、もっと恐ろしい魔物もいる。

お父ちゃんの腕に抱えられ、私は暗闇の中へと入って行く。


どれくらい進んだんだろうか。

やがて森の中が少しずつ明るくなり、木々の切れ目が見えてきた。

その瞬間、磯の匂いが風に運ばれてくる。

そして遠くから、波の音が聞こえた。


「ついた……アリス……ここ、しょっぱいみずの……ばしょ」


お父ちゃんが少し肩で息をしながら私にそう教えてくれる。


「……うわぁ」


目の前に広がる光景に、それしか声が出なかった。


抱き紐から私を優しくお父ちゃんは、砂浜に下ろしくれた。

それから、なだらかな岩場を指さす。


「……あそこで、みず……くむ……きれいに、くめる」


その時、ふと「海藻」という言葉が頭をよぎる。

前世の記憶の通りなら、食料にもなるし出汁も取れる。

味の幅が驚くほど広がるだろう。

なにより、天日干しするだけで簡単に長期保存もできる。


でも、ここは異世界だ。

似ているけれど、まったくの別物かもしれない。

けど、気軽に来られるような距離でもない。

ここは悩むよりも……。


「どうした……アリス?」


じっと海藻を眺めていると、お父ちゃんが私に声をかけた。

そうだ、もしかしたら、お父ちゃんなら何か知っているかもしれない。


「おとうちゃん、あそこの、おみずのなかのクサたべたことある?」


お父ちゃんは振り返り岩の間に生えているソレを、おもむろに引き抜いた。


「これか?……これ、けっこう……うまい」


そう言うとそのまま口に放り込み、むしゃむしゃと食べはじめる。


「でも、しょっぱすぎるから……アリスには、あとで、……なにか、つくる」


食べてる姿を見て、思い出した。

お父ちゃんはわりとなんでも食べる。

木の皮も、泥のついた根っこも。

もちろん、私にはそのままでは食べさせない。

食べられるものなら、ちゃんと洗って、火を通してくれる。


「おとうちゃん……それ、たべたあとにピリピリとか、しない?」


「?……しょっぱいだけ」


だとすれば……。

私の知ってるワカメや昆布も、あるかもしれない。

けれど、昆布はたしか、ある程度の深い場所に生えていたはず。

私じゃ潜るなんて無理だしお父ちゃんに頼むのも危ない。

それに、どんな生き物が居るかも分からない。

何か、いい方法があれば……。


「……アリス?」


考え込む私を、お父ちゃんが不思議そうに覗き込む。


「……おとうちゃん、もっとながいクサみたことない?」


聞いて分からなけば諦めよう。

塩だけでも大収穫なのだから。


「……ながい?……あれの、ことか?」


そう言ってお父ちゃんは砂浜のほうを指さした。

つられて視線を向けると、波に流されて黒く長いものが打ち上げられていた。


(あれは……!)


「そう、あれ!あれがほしい!ひろってくるね!」


「え、……アリス?」


「おとうちゃんは、おしお、つくっててー!」

そう言い残して私は波打ち際にしゃがみ込んだ。

流れ着いた昆布らしきものを拾い上げ、岩の上に天日干しにしていく。

もう一度、波打ち際へ。

拾って、干して。

拾って、干して。

何度か繰り返し、満足いくほどの数が並んだところで、私は顔を上げた。


辺りを見回し、お父ちゃんの姿を探す。


浜辺で火を熾し揺れる湯気の向こうにお父ちゃんの姿が見える。

赤く揺れる火の上の鍋に歩いて行き、中身を覗き込む。

少しずつ、鍋の底から水が塩へと変わっていく。

お父ちゃんは木のヘラでそっとかき混ぜ、浮いてきた苦い泡を布で掬い取った。

そんな、ゆったりとした時間を、お父ちゃんと二人で過ごす。

やがて、太陽が真上に来たころ、小袋一つの塩が出来上がる。


「……アリス、そろそろ……かえる」


「うん、コンブしまってくるね!」


「……コンブ?……あのくさ、コンブ……いうのか?」


しまった。


思わず、前世の言葉が口をついて出た。


「あ、う、うん!わたしが、おなまえ、つけたの!」


一瞬だけの沈黙。


「……そうか、なまえ……つけたか」


お父ちゃんは、微笑みながら静かに頷いた。


そのことに、胸の奥がちくりと痛む。


咄嗟の誤魔化し。


本当は前世の事を、話してしまいたい。

けれどまだ、そんな勇気は出せそうになかった。

 

私は昆布を籠に詰め、帰り支度を整える。


「さぁ……しっかり、つかまってろ」


抱き紐に私を入れ、片手でしっかりと支えながら、お父ちゃんは言う。

暗くなる前に帰らなければ、森は一気に牙をむく。

帰りも同じペースで進めば、日暮れ前には洞窟へ戻れるはずだ。


胸の奥に、ほんの少しだけ痛みが残っている。

けれど、それ以上に今日は大収穫だった。


塩と、コンブ。


今度は、いつ連れてきてもらえるだろう。


遠ざかっていく波の音に、そっと耳を澄ませながら、私はまだ見ぬ未来に思いを馳せた。


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