友人のボンド
「よぉ、目が覚めたか?」
「ここは…」
ハウスは身体を起こして周りを見渡す。
そこは初めて屋敷へ来た時に通された応接室で壁には焼け焦げた痕が残っている。
「あの野郎、何でもかんでも爆破しやがって、この部屋が唯一まともな状態だ」
ハウスはあの時の状況を徐々に思い出していき声を荒げた。
「あの後どうなったんだ!? それにリリスは!?」
早口で捲し立てるハウスに落ち着けと言わんばかりにボンドはゆっくりと語りかけた。
「あの後、炎の中に消えたお前を探して屋敷から逃れたんだよ。現状、屋敷の大半は燃えて無事なのは俺とお前くらいだった」
「それから三日間、お前は眠っていた」
「もう三日も経ってるのか! あとリリスは?」
あまりにも急かしてくるハウスに痺れを切らして「扉から外へ出てみろ」とだけボンドは伝えてくる。
ハウスはその指示のとおりに扉を開けて外へ出た。
そこには噎せる程の焼け焦げた匂いと積み上がった瓦礫の山があるのみだ。かつての美しい景色は見る影もない。
「リリスはこの瓦礫の山の何処かにいる」
彼女を見つける事がいかに困難かその現実をまじまじと見せつけられた。
「こんなんだから探すのが大変なんだよ」
「探してくれてたのか?」
「ちげぇよ、俺の心臓をだよ、魔女と違って大体の位置も検討がつかねぇ」
言われてハッとなる、プロテスが指を鳴らした時、これでボンドは死ぬという確信をもっているようであった。
結果はどうだろう、ボンドは死ぬ事なく立ち上がりプロテスを追い詰めたのだ。
(場所が移動したのか? 心臓の場所を知っているのなんて…)
その時、ある人物の言葉を思い出す。
「ボンド、お前の心臓もしかしたら厨房にあるかも知れない」
「厨房? なんでだ?」
「確証はないが、ただ片付けろって言われたんだ…当てが無いならそこら辺から探してみても損はないだろ?」
「なんだよそれ…」
ボンドは暫く考えた後、厨房があった方を探す事にした。
夜も更け、二人は応接室の暖炉に火を灯し話す。
「そういえば、お前の首どうなってるんだ?」
ハウスはボンドのいつの間にかくっついている首について質問をした。
「あぁ、これはプロテスが焼いて付けた」
「焼いて付けた…」
まるで当たり前かのように話が進んだがハウス更なる質問をぶつけた。
「プロテスは炎を操っているように見えたがあれはどうゆう事なんだ?」
「さっきから質問責めだな」
「悪い」
「まぁ良いけどよ、それに関しては俺も詳しくは知らない」
そこから会話はなく、次の日も朝早くから瓦礫の撤去を始めなきゃいけない、そんな事を考えながら眠りについた。
ハウスが目を覚ますと既にボンドの姿は無い。
(こんな朝早くから作業をしてるのか)
そんな事を思い自分もリリスを探しに向かう。
(ボンドが死んでいないのを見るとリリスとの契約も解けていない、彼女は瓦礫の下で生きてるはずだ)
(恐らくはプロテスとコシネロも…、そういえばシャミはどうなったんだ?)
多くの事を考え、想像しハウスはひたすらに探し続けた。
一週間経った頃、ボンドは箱の中へ大切に保管されている自らの心臓を見つけたと応接室へ戻ってきた。
箱から取り出した心臓は脈打っており、それは見ていて気分の良い物では無い。
「お前、それどうするんだ? リリスしか体内に入れられないんじゃ…」
「いや、やり方は知ってる、ただ俺は暫く気を失うから頼みがあるんだ」
「頼み?」
「屋敷の入り口近くに墓がある、その墓に異常が無いか毎日見に行ってほしい」
「墓って誰の?」
「クロ…じゃなくてシャミの墓だ」
「クロって?」と言いかけたが聞くのは今では無いとハウスは「分かった」とだけ告げた。
「頼んだぞ」
そう言うと深呼吸をして息を整え、おもいっきり自らの胸に心臓を叩きつける。
辺りに血が飛びはね一角が赤色に染まった。
「おい、大丈夫なのか…」
そう言うが当然返事は無い。
ハウスは一人になった、彼がやる事といえば瓦礫を片付ける、そんな日々へと戻っていった。
そしてある時ハウスは瓦礫の中に人の影を見つけ、急ぎ瓦礫を退かしていく。
「よぉ、そんなに会いたかったか」
「やっぱり生きていたか」
ハウスの期待を裏切るように現れたのは瓦礫に潰されてるプロテスだ。
「ボンドのやつはどうした?」
ハウスは無視をする。
「リリスは死んだか?」
ハウスは応えない。
「…お前なんで俺を知ってたんだ」
この質問にハウスは彼の眼を見て言った。
「返してもらうぞ、彼女の心臓」
プロテスは抵抗しなかった。
何ならこのハウスの返答に笑いが込み上げてくる。
そしてハウスは無防備な彼を一方的に切り裂き心臓を抉った。
それでも止まない彼の笑い声がハウスに大きな苦痛を与えるのだった。
「…」
応接室へ戻るとボンドが起き上がってハウスを見る。その手には心臓、ハウスの顔に生気は無い。
「おかえり」
ボンドはそっと一言呟くだけだった。
起き上がっていたボンドの事など気にせず、ハウスは心臓をかつてボンドの心臓が入っていた箱へしまい、一言も会話を交わさず横になった。
まだ朝靄が掛かっている時間、既にボンドの姿は無かったがハウスには何処にいるのか検討がついた。
墓の前、ボンドは佇み、色々な事を思い出す。
傭兵として戦争へ参加した時、敗残兵として魔女の森へ入った。
三日三晩彷徨い見た幻覚、それはかつて自分と同じように戦争で焼かれた町にいた飢えていた黒猫である。
この猫に【クロ】と名付けてボンドは戦地での少ない食料を分けあっていた。
仲間からは理解されない行為であったがボンドは知っていたのだ。
この猫も我々と同じだという事を。
再び町が戦場となった時、クロは二度と現れなかった。
そんなクロに導かれるように屋敷へと辿り着いた。
腕に自信があるボンドは最悪脅してでも食料をもらおうとまるで盗賊のように屋敷へと入っていく。
ギィィという音を響かせ、屋敷に入ると小さな黒猫が出迎える。
「クロ?」
そう言うとその小さな黒猫はボンドの元へと走ってきた。
その姿は近付く度に大きくなっていき、ボンドの元へ来た時には人の倍はあるであろう大きさにまでなって彼の心臓を抉り出す。
気付けばボンドは首と身体を別れさせおり、魔女に言われる。
「契約内容を話すわ、殺さない代わりに心臓を貰ったわ、これで貴方に自由は無いけど心臓を取り戻せれば貴方は自由、以上よ」
「何? なんだと…」
「あと屋敷には入らないでね、気持ち悪いから」
「おい! 待て!」
突然、訳の分からない説明を受け、彼は仕方なく屋敷の門番とされたのだった。
ボンドの墓を見る姿で何か物思いに耽っているのを感じ、今は声をかけない方が良いと思い立ち去ろうとハウスがしたその時「起きたのか」と逆に声をかけられてしまう。
そして返事を待たずにボンドは続けた。
「俺はここを出ていくよ」
「…墓はどうするんだ?」
「好きにしていい、俺は前に進む」
ボンドが敢えてそう言ったのを察しハウスは応える。
「俺はここに残るよ」
「そうか、じゃあ達者でな」
「あぁ、お前もな」
最後に交わした二人の会話は短かった。
薄暗い森を抜け、かつてしたレアルタとのやり取りを思い出す。
「ボンドお前に一つ聞きたい事がある」
「なんだ」
「貴男は誰の味方なんですか?」
「俺は誰の味方でもねぇよ、俺は俺の好きなようにするだけだ」
「そうですか…、では一応伝えておきます、私は明日彼を殺します」
「そうかよ」
「ですが、仮に私が死んだ場合は皆をお願いしますね」
「はぁ!? なんで俺が!?」
「では失礼します」
「おい、待て話はまだ…」
(結局、俺はあんたの願いを守れたのかな)
そんな想いを残しつつ彼は自分の人生を歩き始めた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
ボンドも彼を主軸とした物語はありませんが、ハウスの仲間という観点で考えると最初から今回までをボンド編と私は考えています。
何故なら彼のテーマは【友情】だからです。
なので屋敷で初めて会う人物であり友情ともいえる絆を深めていきました。
クロとの話も傭兵としてのボンドの活躍から書こうと思っていましたが、話の流れが悪くなるので辞めました。
リリスにとってボンドはどうでもいい存在です。
自分と契約した訳でもなければ、力を欲して来た訳でもない存在だからです。
では何故わざわざ生かしたのか?
ボンドは心臓を抉られているので当然彼以外からの願いという事になります。
あの時に生きていて欲しいと願ったのは誰でしょうか?
そして最後の戦闘で黒猫を見たハウスはシャミだと言いましたが、プロテスに飛び掛かった黒猫を見てボンドはクロだと言いました。
シャミ=クロなのかという疑問が出てくると思いますが、これに答えはありません。
皆さんのご想像にお任せします。
長らくお付き合い頂いたロクでなしの魔女ですが次で最後となります。
この物語の完結を見届けて頂けたら幸いです!
よろしくお願いいたします。




