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ロクでなしの魔女  作者: 木介


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料理人コシネロ

(やった! やったぞ! 俺の事を馬鹿にするからそうなるんだ!)


コシネロは自らも火傷を負ったが目の前の爆発によりハウスを殺してやったと興奮冷めやまない。


彼が使ったのは粉塵爆破だ。

あらかじめ風船に小麦粉を入れておき、風船が熱で割れればその衝撃で粉は舞う。

あとはそれを大量に用意しておけば連鎖的に爆発が起き、逃れる術など無い。

本当はリリスに使う手段であったが邪魔なハウスを殺せたのなら儲けものだ。


「ははっ…、これで俺は人生をやり直せるんだ」


乾いた笑いと共に彼は自分に言いきかせるように言葉を放ち、かつての出来事を思い出す。


ーーー


コシネロは料理人の家系に産まれた。

父は飲食店を営んでおり、小さい頃から店の手伝いも兼ねて、料理に触れてきた彼は食べる事が大好きで自ら料理を作り、味を追求していた。

そんな彼の食事は店のメニューに載る程美味しく、丸々と太った身体から近所では「この子が作る料理が美味しくない訳がない」と噂され天才という称号も得て大切に育てられてきた。


そんな彼が料理人としてフィリア家に仕えるようになったのは十五の時である。

料理の見聞を広げ、自分だけのオリジナル料理を作り店を持ちたいと両親に訴えかけ、両親の伝手(つて)でフィリア家を紹介してもらったのだ。


そして十年後、経験を得たコシネロは様々なコンテストへ参加する。

だが天才と呼ばれた彼が優勝する事は無い、初めての挫折である。


そんな中フィリア家当主、アークの訃報と共に屋敷へ来たのは魔女のリリスだ。

使用人達は彼女の存在に怯え遠ざけたが、この時のコシネロにとっては簡単な近道を示す存在であった。


「なぁ、あんた願いを叶える力があるんだって?」


「何かお願いでもあるのかしら?」


こちらの回答を急かすような物言いに内心ビクビクしながらコシネロは続ける。


「俺、料理のコンテストで優勝をしたいんだ、それって叶えられるのか?」


「優勝したい? そんな事?」


「そんな事って…、俺にとっては重要な事なんだ!」


「私の契約には代償があるのよ? その一回の優勝の為に代償を支払うの?」


確かに魔女の言うことに一理ある。コシネロはしばらく考えた後に「じゃあ絶対味覚をもらう事は可能か?」と質問をした。


「良いわよ、御安いご用」


「…で…その…代償って?」


「絶対味覚の代償? 貴方面白いから無くて良いわよ」


「…え?」


最初は苦手だと思ったが話せば分かるとコシネロは安心して手に入れた。この絶対味覚という武器で見事コンテスト優勝を果たし、コシネロは念願の店を持つことになる。


開店してからというもの、自分の店では不味い料理は出ないという確たる自信でその腕を振る舞った。


「不味いね、これ」


ある日からそう言って皿を返す客が目立ち始める。


(不味い? 何言ってるんだ? お前の味覚がおかしいだけだろ)


この時のコシネロは日に日にその傲慢さを増していき、彼の店は客足が遠退いていた。


この異変にコシネロは気付くわけもなく彼はこう思う。


(絶対に料理は上手いはずなのに客が来ない)


この原因を探る為コシネロは近所で評判の店を回り食事をする。


「不味い!! お前らよくこんな飯が食えるな!」


そう言って彼は料理を批判し続け、近所で有名な批評家として名を知られる事になった。

だが、そんな事をしても現実が変わる訳では無く、寧ろ悪化し店では閑古鳥が鳴いている。


(コンテストだ、またコンテストで優勝すれば皆に認められる。あんな馬鹿舌どもではなく公平なジャッジを下してもらうんだ)


そうしてコシネロは再びコンテストに参加する。

結果は二位、彼は負けたのだ。


「コシネロさんの料理は美味しいけど、それだけですね。期待感というか料理に対する愛情が足りなかったです」


(何言ってるんだ? 期待感? 愛情? そんなわけが分からない理由で負けたのか?)


絶対味覚という武器を手に入れた故にコシネロにとって料理は誰かに作る物ではなく、正解を再現する物だと信じていた。


それが崩された瞬間であった。


(分からない、俺は何で料理をしているのか分からない、美味しいとは何か分からない、、、)


そんな混乱を抱きながら彼は屋敷へ戻り魔女を訪ねる。


「何が美味しいか分からないですって?」


コシネロの悩みを聞いた瞬間、リリスは笑い始めた。


「絶対味覚があるんだから分からない訳ないでしょ? 貴方が作る料理が正解、他人が作る料理は不正解よ」


「けどそれではコンテストでは評価されない」


「それはそうよ、正解の料理を誰しも美味しいとは思わないもの」


「そんなわけないだろ!」


「そんなわけあるのよ、貴方だって他人の料理を美味しいと思わないんでしょ?」


「そりゃ、それは正しくない物を作ってるから...」


「でも多くの人はそれを美味しいと思うのよ、それが分からないと一生コンテスト優勝なんて不可能だわ」


「一生…」


「それが絶対味覚の代償よ、貴方は勝手に代償を払ってくれていたのよ」

「…それと貴方最近、鏡は見たかしら? ひどい顔、目の前にいるだけで不快だわ」


そう言ってリリスは鏡を見せてくる。

そこにはかつて丸々と太った姿はなく、隈があり痩せこけた恐ろしい顔があった。


「これが…俺…?」


そこには全てを喪ったかのような見知らぬ誰かがいるのだった。

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