親殺しのルル
「何度同じ事言ったら分かるの!」
これが母の口癖であった。
「いや! ルルはこうやるの!」
耳の奥に響く大きな声で反論する。
「おい、ルルこんな所に服を置きっぱにしたらダメだろ」
父はいつも注意してくる。
「うるさいなぁ! 触んないでよ! 今片付けようとしてた所だから!」
親はうるさく彼女はいつも癇癪を起こしていた。
(早く一人になりたい、親なんていなくなればいいのに)
反抗的な彼女は周りから見たら、わがままな人という印象を受けるだろう。
だが彼女にも言い分がある、それは幼少期の出来事で日頃から家の手伝いをしてきた彼女が友達と遊んでいた時に感じた違和感。
(なんでこの子達はお手伝いをしないんだろう?)という疑問から生じるものだった。
どちらかといえば裕福な家に産まれた為、友達に家の手伝いをする人物などおらず、その違和感を同世代の子供を観察して探すようになったのだ。
「お母さーん、今日のご飯は~?」
母親に子供が聞いている。
「またこんな泥だらけにして…はぁ~」
母親が子供の服を見て呆れている。
「今日は庭の掃除を手伝ってくれてありがとな」
父親が子供の頭を撫でている。
(なんで自分のご飯を聞いてるの?)
(なんで汚れた服を見て母親が呆れているの?)
(なんで庭の掃除をしたら褒められているの?)
貧困の差に関係無く、普通なら彼女の年齢で自分の事は自分でやるのが当たり前という環境では育たない事を学び、この違和感の正体を考えた時、ある事が頭を過る。
(もしかしたら自分は愛されてないの?)
「他の子は両親がやってくれるって言ってた! なんでルルだけ自分でやらなきゃいけないの? なんで!? なんで!?」
彼女はこの不安を払拭するべく、声をあらげて両親に想いを伝えた。
「じゃあ、家から出ていきなさい」
この返事が彼女にとって全ての答えであった。
それから数年が経ち現在、ルルは十四歳になり雇ってくれる所もある年齢になった。
だがお金を稼げても一つ問題があり、住む場所がないという点である。
彼女は自分の性格を知っており、両親以上に他人と親しくするのが苦手であったのだ。
故に自ら出ていくので無く、両親にいなくなってほしいと願う日々を過ごしていた。
そんなある日彼女の運命を変える噂を耳にする。
魔女の森を抜けた先の屋敷へ行けば願いが叶うという噂だ。
年頃の女の子が魔女などという昔からある迷信を脚色して作った噂に過ぎないと思ったが、大人達はあの森へ入る事を禁じ噂を否定する根拠はない。
もし本当に願いを叶えられるならとルルは好奇心を抑えられず魔女の森へ入り奥へと進む。
昼間に入ったはずなのに森は暗く、陽は届かない。
だが彼女の中には恐怖より現状を変えたいという想いが強く、その足を止める事はなかった。
やがて着いた、魔女の屋敷に。
目の前の黒い大きな門が拒んでいるようにも見えたが気にはせず、体重を全て門へと預けるようにしてこじ開ける。
入り口には生きた生首があり「君が来るような所じゃない、帰りな」と話しかけてきた。
ルルは一瞬たじろいだが「私は魔女に会いに来たの」と耳を貸さずズカズカと屋敷の中へ入り込む。
「あの~、すいませ~ん」誰もいないエントランスに声だけが響く。
真っ先に来たのはスーツを着た白髪の老人で「何しに来たのです、早く帰りなさい。リリス様に見つかる前に」
先程と同様に忠告されたがルルは気にせず自分の話を進める。
「ここが魔女の屋敷ですか? 叶えてもらいたいお願いがあるんですけど」
「私に何か用かしら?」
黒のドレスを着た綺麗な女性が鉄仮面をしたメイドと共に二階から降りてくる。
「あなたが魔女?」
「えぇ、そうよ私にお願いがあるんでしょう?」
「そう、私の両親をいなくならせてほしいの!」
「両親にいなくなってほしい…。それは殺してほしいって事かしら?」
「えっ……、そう、殺してほしい」
「待ちなさい、君は今、自分の言葉をちゃんと理解した上で発言しているんですか?」
老人はルルを悟すように話しかける。
「理解してるわ、これは私の復讐だから」
復讐、この言葉にレアルタは悲しそうな顔で口を噤んだ。
「話は終わったみたいね、じゃあ殺し方だけど、一瞬で? それとも苦しんで?」
「えっ?」
ルルは具体性をもったリリスの提案に戸惑った。先程の発言はレアルタに対しての反発であり、復讐などという言葉を使いながらその実、理解などしていなかったのだ。
「死体はどうするの? 綺麗な状態? それとも凄惨な状態が良いかしら?」
「そんなのわかんない! 任せるわ」
これが彼女の答えだった。
「そう、で、あなたは代償に何を払ってくれるのかしら?」
「代償? お金とかって事?」
「違うわ、自分の手を汚さず人の命を奪おうとしているんだから相応の代償は払ってもらうわ」
「お金以外…まさか次の日死ぬとかじゃないでしょうね!?」
「いいえ、そんなの意味ないじゃない、例えば…毎日死を体験するとか」
「そんなのぜっったいに嫌!!」
「じゃあこうゆうのはどう? 毎日両親の夢を見るってのは?」
「夢?」
「あなたにとって復讐したい程、憎い相手なんでしょう? 現実の彼らを消す代わりに夢には出てくる、言うなら過去を追体験する」
「寝ている間に過去を追体験…、嫌だけどそれぐらいで済むなら…」
「リリス様それは…」白髪の老人が何か言いかけたがリリスと視線が合うなり黙ってしまった。
その光景にルルは少し疑問を抱いたが、彼女は深く考えずに魔女と契約を交わす。
「あと、この契約が完了するまでこの事は内緒にしてね」
「わかったわ」
「そう、じゃあ頭を下げて……」
ーーー
森から帰ってきた頃には辺りは暗く寒い。
「ルルちゃん?」
見知った顔に声をかけられ何故か戻ってこれたという感覚に陥った。
私はいつの間にか行方不明という扱いになっていたらしく、多くの人が探していたらしい。
どこで何をしていたのか自分でも思い出せず困惑していた時。
「「ルル!!」」
両親の声が聞こえたと同時に強く抱き締められる。
「ルル無事で良かった」
彼女の冷えた身体は両親によって暖かさを取り戻した。
家に帰って温かいお風呂に入る。
いつもなら汚れた服を自分で洗っている所だが、今日は両親が優しい。
ご飯を食べる、久しぶりに食べる母の手料理だ。
ふかふかのベッドで眠る。
おやすみなさい…。
ーーー
「この子、少し他の子と違うみたいで何か病気なのでしょうか?」
「診察の結果ですが、知的能力障害だと思われます」
「えっ…」
病院での結果を聞き、自宅へ帰ると早速
「やだぁー!! ルルはこうするのー!!」
とまた自分の思いどおりにいかない事があり、泣き叫ぶ。
これを繰り返す、毎日、毎日、毎日、毎日、…。
「うるさい!!」
「うぅー、うわぁ~!やだぁーー!!」
こちらが怒るとその声は大きくなり返ってくる。
泣き叫ぶ我が子を黙らせる為、手をあげようとした時にいつも思い出す。
なかなか子供に恵まれず諦めかけていた時に授かった大切な子だという事を。
「ごめんね、ちゃんとした身体に産んであげられなくてごめんね」
泣き叫ぶ我が子を抱き締めて一緒に泣いた。
だからこそ両親は彼女を厳しく育てた。
周りから見れば虐待をしていると思われるかも知れないが、自分の事は自分で出来るように彼女が一人でも生きていけるように心を鬼にして厳しく育てたのだ。
愛情がない訳では決してなかった。
なぜなら彼女の名前はルル、意味は宝物なのだから。
ーーー
ルルは涙を流しながら起きる。
(ゆめ?)
そして思い出した魔女とのやり取りを。
「そう、じゃあ頭を下げて、契約が完了した時思い出せるようにするから」
「…契約が完了したら…」
「お母さん! お父さん!」
ルルは急いで家の中を探したが見つからず、彼女は手に入れたのだ、念願であった一人の生活を。




