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【ホラー小説ランキング2位達成】訳あり不動産―その部屋、やめとけ―  作者: 虫松
第一部 小林治編

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事故物件ファイル5 夜逃げした戸建て物件

千堂と小林は、大家から依頼を受けて品川区のとある住宅街にある3階建ての戸建て物件を訪れた。


駅から徒歩5分ほどの距離にあり、家主が住宅ローンを払えず、夜逃げしたと思われる物件だ。


玄関に立つと、靴と靴と靴 靴だらけ

最初に目に入ったのは散乱した靴の山だった。


「うわっ、これ…どうなってるんだ?」


小林が呟く。


「靴が脱ぎっぱなしだですね。まるでそのまま家を出たみたいです。」


千堂は鼻をつまんで言った。


「片付けられない人だったんだろうな。夜逃げしてから半年以上経っているから、かなりひどい状態だ。」


部屋の中に足を踏み入れると、薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。

食器が流しに突っ込まれており、雑然としたまま放置されている。


「この部屋、全然片付いてませんね。」


千堂は眉をひそめながら、足元を気にして歩く。


部屋の中。


空気が、重い。


埃ではない。


何か“止まっている”ような空気。


流しには食器。


冷蔵庫。


そのまま。


時間が、止まっている。


「匂いもすごいな……」


小林が顔をしかめる。


千堂は、無言で冷蔵庫に近づいた。


なぜか。


見てはいけない気がした。


だが。


手が、勝手に伸びる。


ガチャ。


開ける。


腐臭。


強烈な匂い。


「……っ!」


その瞬間。


視界が、歪んだ。


◆ ◆ ◇ ◇


■冷たい

■暗い

■狭い


千堂は、“中”にいた。


身動きが取れない。


息が、白い。


手を伸ばす。


硬い壁。


金属。


(ここ……どこ……)


その時。


すぐ、隣から。


声。


「……おい」


「――ッ!!」


振り向く。


誰かいる。


暗くて見えない。


だが。


“目”だけが、見える。


凍りついた目。


「俺は……ここにいる」


低い声。


震えている。


「出してくれ……」


「寒い……寒いんだ……」


千堂は叫ぶ。


「誰!?ここどこなの!?」


その男が、ゆっくり顔を寄せてくる。


皮膚が、白い。


青い。


ひび割れている。


「……殺されたんだ、俺は」


「ここに入れられて……」


「ずっと……」


「まだ……生きてる……気がする……」


その手が。


千堂の腕を掴む。


冷たい。


氷のように。


「一緒に……」


◆ ◆ ◇ ◇


「――ッ!!」


現実に戻る。


千堂は床に膝をついていた。


冷蔵庫の前。


「どうした?」


小林が覗き込む。


「……今……中に……」


言葉が出ない。


だが。


冷蔵庫の奥。


一瞬だけ。


“目”がこちらを見ていた。


◆ ◆ ◇ ◇


寝室。


生活感。


残されたまま。


「ここは男の部屋だな」


小林が言う。


布団。


その中。


妙に膨らんでいる。


「……これ……」


千堂が手を伸ばす。


めくる。


スーツ。


だが。


その下。


床に。


うっすらと。


引きずったような跡。


地下へ続いている。


◆ ◆ ◇ ◇


地下室へ。

冷たい。

異様に冷たい。


懐中電灯を向ける。


倒れた冷蔵庫。


「……これか」


小林が扉を開ける。


ゴトン。


何かが転がる。


“人の腕”。


「う、うわああ!!」


中には。


無数の死体。


凍ったまま。


折り重なっている。


その瞬間。


ヒュ……


空気が動く。


奥から。


何かが、こちらを見ている。


「……聞こえるか?」


小林が言う。


千堂の耳に。


はっきりと。


「……ここにいる」


「まだいる」


「出してくれ」


声が重なる。


何人も。


何十人も。


「出よう!!」


小林が叫ぶ。


二人は走る。


階段。


上へ。


その瞬間。


地下から。


無数の手が伸びた。


凍った手。


白い手。


千堂の足首を掴む。


「行くな」

「置いていくな」


「寒い」

「暗い」

「助けて」


「俺はここにいる」


「まだいる」

「まだいる」

「まだいる」


「――ッ!!」


振りほどく。


地下室のドアを閉めようとした瞬間、扉が激しく引き寄せられ、誰かの手のひらが見えた。


「…誰、今の!」


千堂が叫ぶ。


外へ出る。


バタン!!


扉を閉める。


静寂。


◆ ◆ ◇ ◇


千堂は、震えていた。


息が荒い。


手を見る。


指先が。


白く、凍ったように冷えている。


「早く、警察に連絡しよう。」


その手は急に消え、空気が静寂に包まれる。


「もう、行こう。」


小林と千堂は、急いでその場を離れた。


部屋を出た後、千堂が振り返ると、窓の向こうにぼんやりと人影が見えたような気がした。


「…まだ、誰かいるの?」


千堂が小声で言う。


だが、影はすぐに消え、周囲は再び静まり返った。


◆ ◆ ◇ ◇


その後、千堂と小林はすぐに警察に通報した。


「これ、どう考えても事件だ。」


小林が警察に説明を始めると、警察はすぐに現場を調査し、物件の歴史と、地下室から発見された死体について詳細に調べ始めた。


警察が到着すると、物件は完全に封鎖され、事件として捜査が始まった。


「こんな場所、よく調べもせずに…」


小林が後悔の言葉を口にする。


警察は千堂と小林に事情聴取を行い、二人は補導されることになった。


「まだ事情聴取続くんですね…」


千堂がため息をつきながら言うと、小林は無言でうなずいた。


その後、事件の詳細はメディアに報道され、家主が夜逃げした経緯と、冷凍された死体の謎は深まるばかりだった。



◆ ◆ ◇ ◇

◆ ◆ ◇ ◇



だがその夜。


千堂は、また夢を見る。


■暗い

■冷たい

■狭い


そして、すぐ隣から。

声がする。


「……まだ、いる」


ゆっくりと。


何かが近づいてくる。


「次は……お前だ」


耳元で。

囁き。


「俺はいる」



◆ ◆ ◇ ◇


「いやぁあああ!!」


目が覚める。


息が白い。

部屋の中なのに。


寒い異常に寒い。



その後この物件は「事故物件の戸建て」として周囲に認識をされ、

二度と貸し出されることはなかった。



事故物件ファイル5 夜逃げした戸建て物件 エンド



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