事故物件ファイル6 殺人が行われた部屋
千堂と小林は、大家から依頼を受けて、とあるマンションを訪れていた。
「この部屋のお風呂場で死体をバラバラにして、トイレで流したんだよな。」
大家が語ったその言葉に、千堂は眉をひそめた。
「え…バラバラにして?」
千堂はが信じられないという表情を浮かべながら、質問する。
「そうだよ。しかも、排水溝を通してマンション全体にバラバラ死体が流れたんだ。」
大家はしみじみと続ける。
「その後、下水のメンテナンスで全てが一気に広がった。」
「つまり、全ての部屋で、その臭いや気配が広がったってことですね…?」
千堂が冷や汗をかきながら確認した。
「その通りだよ。」
大家が深く息をついた。
「そのせいで、マンション全体が『地獄』のような状態になった。」
◆ ◆ ◇ ◇
その後。
相場より半額で貸し出した、この部屋はすぐに入居者が決まった。
「入居者が決まってよかったですね。」
小林は賃貸契約書を大家さんに渡す。
「まあ、そうだな。次からは言わなくて、いいからね。」
大家は苦笑しながら答える。
「殺人現場だってことは最初の入居者には告知するけど、その後は告知しないことになったんだ。」
小林が千堂に説明をする。
「えっ、どうして?」
千堂が驚きの声を上げる。
「歴史あるマンションには、しょっちゅう人が死ぬから、そのたびに告知し続ける意味がないって判断されたんだ。」
「…それって、怖すぎませんか?わたし古いマンションは怖くなりました。」
千堂が冷や汗をかきながら言った。
その瞬間、辺りの空気が一変した。部屋の中に妙な静けさが漂い、何か不気味な感じがした。
「そうだな。でも、入居者が決まったってことは、何かが変わったんだろうな。」
小林が不安げに言う。
◆ ◆ ◇ ◇
やけに静かだった。
音が吸い込まれるような、妙な静けさ。
ドアの前に立つ。
その瞬間。
コツ……
足元で音がした。
見ると。
床の隙間から、
黒い水が、じわりと滲み出ていた。
「……なんだこれ……」
小林が呟く。
その水は、ゆっくりと――
部屋の中へ引き戻されるように消えた。
◆ ◆ ◇ ◇
殺人が行わた部屋の様子を見に二人は、廊下を進んで部屋に到着した。
ドアを開けると、そこには異様な空気が充満していた。
その瞬間、暗がりから何かが動いた。千堂と小林は一瞬、息を呑んだ。
「だ、誰かいる?」
千堂が震えながら言う。
その瞬間。
バンッ!!!
室内の何かが、激しくぶつかる音。
「――ッ!?」
入った瞬間。
異様な圧。
空気が重い。
そして。
ヒュウウウウ……
風。
いや。
“中”で風が吹いている。
カタカタカタ……
キッチンの戸棚が揺れる。
バン!!
突然、扉が開く。
中の皿が一斉に飛び出した。
「うわっ!!」
ガシャアアアアアン!!!
皿が床に叩きつけられ、砕け散る。
だが。
破片が――
浮いた。
そして。
こちらに向かって飛んでくる。
「避けろ!!」
ガンッ!!
壁に突き刺さる破片。
「何なんだよこれ!!」
リビング。
テレビ。
電源は入っていない。
だが。
ザザ……ザザ……
ノイズ音。
画面が、勝手に点く。
映るのは。
浴室。
赤い水が流れている。
「……やめろ……」
小林が顔をしかめる。
廊下に足音。
バシャ……
バシャ……
まるで、水の中を歩くような音。
だが、床は乾いている。
「……来る……」
千堂が呟く。
その瞬間。
床の排水口。
ボコッ……
膨らむ。
次の瞬間。
手が飛び出した。
「――ッ!!!」
濡れた手。
皮膚がただれた手。
それが、床から何本も伸びる。
ズル……
ズルズル……
這い出てくる。
「助けて……」
「流された……」
「まだ……いる……」
声が重なる。
ドン!!!
突然、ドアが閉まる。
ガチャ!!
開かない。
「開けろ!!」
小林が叫ぶ。
その瞬間。
部屋中の物が――
一斉に動き出した。
椅子が飛ぶ。
テーブルが滑る。
冷蔵庫が揺れる。
バン!!バン!!バン!!
壁に叩きつけられる。
空間そのものが暴れている。
「やばい!!ここやばい!!」
千堂が叫ぶ。
その時。
天井から。
ポタ……
黒い液体。
一滴。
二滴。
そして。
一気に降ってきた。
ベチャッ!!
全身にかかる。
生ぬるい。
臭い。
「うわああああああ!!」
その液体が。
動く。
腕の形に。
首に絡みつく。
締まる。
「離して!!」
「押せ!!」
小林がドアを蹴る。
バン!!
開いた。
二人は飛び出す。
廊下へ。
その瞬間。
背後から。
すべての音が止まった。
振り返る。
静寂。
その瞬間、目の前に異様なものが現れた。
それは、無数の手が床を這い回るような幻覚だった。
「うわっ!何だこれ!」
小林が叫び、後ろに飛び退いた。
「今、何かが…確かに見えた…!」
千堂が声を震わせて言う。
二人は急いで部屋を出ようとしたが、ドアが開かない。
「何で開かないんだ?」
小林が焦りながらドアを引っ張った。
「うおおお!」
突然、部屋の中からうめき声が響き渡り、ドアが激しく揺れた。
「やばいです、逃げましょう!」
千堂が叫び、力いっぱいドアを押し開けて、二人は一目散に廊下に飛び出した。
数ヶ月後、その部屋は誰もいなくなった。
その部屋には、不気味な兆しがまた現れた。
再入居者が部屋に入った直後から、部屋の空気はさらに重くなり、徐々に不可解な出来事が増えていったという。もともとの告知内容が変更されたことで、何も知らずに入居した者は次々と異常を感じ、最終的にその部屋に住み続ける者は誰もいなかった。
そして、誰もが気づいた時には、異常がすでにそのマンションに深く染み付いていた。住民たちは「何かが取り憑いている」とささやき合い、部屋の前を通ることすら避けるようになった。
その後、マンションは放置され、やがて「禁断の場所」として地元で有名になった。しかし、それから数年後、その場所で新たな建設計画が持ち上がることになる。
事故物件ファイル6 殺人が行われた部屋 エンド




