ファイル5 夜逃げした戸建て物件
千堂と小林は、大家から依頼を受けて品川区のとある住宅街にある3階建ての戸建て物件を訪れた。
駅から徒歩5分ほどの距離にあり、家主が住宅ローンを払えず、夜逃げしたと思われる物件だ。
玄関に立つと、最初に目に入ったのは散乱した靴の山だった。
「うわっ、これ…どうなってるんだ?」
小林が呟く。
「靴が脱ぎっぱなしだですね。まるでそのまま家を出たみたいです。」
千堂は鼻をつまんで言った。
「片付けられない人だったんだろうな。夜逃げしてから半年以上経っているから、かなりひどい状態だ。」
部屋の中に足を踏み入れると、薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。
食器が流しに突っ込まれており、雑然としたまま放置されている。
「この部屋、全然片付いてませんね。」
千堂は眉をひそめながら、足元を気にして歩く。
「匂いもすごいぞ。何か腐った感じがする。」
小林が苦しそうに言った。
「冷蔵庫の中もそのままですね。見てください。」
千堂が冷蔵庫を開けると、腐った食料の悪臭が一気に鼻を突き刺した。
「おい、これ、もうどうしようもないな。」
小林が息を呑む。
寝室に進むと、そこは男の部屋だろうか。
「ここは男の部屋だな。」
小林が言いながら、乱れた布団に目を向ける。
「ベッドもぐちゃぐちゃですよ。」
千堂が布団の中に何かが埋もれているのを見つけ、目を見開いた。
「これ、何だ…?」
小林がベッドを近づいて見てみると、布団の下からスーツが無造作に放り出されていた。
「生活感がありますね。この部屋は」
千堂は薄く息を吐く。
トイレとお風呂も状態が悪く、掃除はされていない。
「使えないわけではないけど、もう人の手が入っていない感じがするな。」
小林が肩をすくめる。
ウッドデッキのベランダには、枯れた植物と土がこぼれた鉢が放置されている。
「…まるで廃屋みたいです。」
千堂がつぶやく。
その時、小林が地下室に行こうとする。
「地下室、どうだろう?」
小林が懐中電灯を手にして地下室へ降りていく。
何かが起こりそうな予感がする。千堂は後ろからついていく。
地下室に到着すると、冷蔵庫が倒れ、その中に何かが見える。
「おい、これ…何だ?」小林が冷蔵庫の扉を開けると、何かがごろりと転がり出てきた。
その中から、無数の冷凍された死体が出てきた。
「う、うわあ!」
千堂が目を背ける。
「これ…全部、この家の入居者たちか?」
小林は冷たい手を震わせながら死体を確認する。
「どうしてこんなことが…」
千堂が声を震わせる。
その時、地下室の奥から不気味な音が響いた。
「…聞こえたか?」小林が顔をしかめる。
地下室の空気が異常に重くなり、暗闇の中に何かが蠢いている気配がした。
「出よう、警察に連絡しよう。」
小林が慌てて地下室を駆け上がる。
地下室のドアを閉めようとした瞬間、扉が激しく引き寄せられ、誰かの手のひらが見えた。
「…誰、今の!」千堂が叫ぶ。
その手は急に消え、空気が静寂に包まれる。
「もう、行こう。」小林が無言でドアを押し開け、急いでその場を離れた。
部屋を出た後、千堂が振り返ると、窓の向こうにぼんやりと人影が見えたような気がした。
「…まだ、誰かいるの?」千堂が小声で言う。
だが、影はすぐに消え、周囲は再び静まり返った。
その後、千堂と小林はすぐに警察に通報した。
「これ、どう考えても事件だ。」小林が警察に説明を始めると、警察はすぐに現場を調査し、物件の歴史と、地下室から発見された死体について詳細に調べ始めた。
警察が到着すると、物件は完全に封鎖され、事件として捜査が始まった。
「こんな場所、よく調べもせずに…」小林が後悔の言葉を口にする。
警察は千堂と小林に事情聴取を行い、二人は補導されることになった。
「まだ事情聴取続くんですね…」千堂がため息をつきながら言うと、小林は無言でうなずいた。
その後、事件の詳細はメディアに報道され、家主が夜逃げした経緯と、冷凍された死体の謎は深まるばかりだった。
そして、物件は「事故物件」として周囲に認識をされ、二度と貸し出されることはなかった。
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