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【ホラー小説ランキング2位達成】訳あり不動産―その部屋、やめとけ―  作者: 虫松
第一部 小林治編

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事故物件ファイル19 消える内見予約

ある日、小林宛に一本の依頼電話が入る。


「1504号室、なんで内見が入らないんだ? うちに任せたい」


調べてみれば、

家賃50万円クラスの超高級タワマン。

事故物件にも見えず、条件は完璧。


千堂「こんな物件、すぐ決まりますよね?」

小林「……普通なら、ね」


意味深な返しに違和感が残る。


異常な“内見キャンセル率”

前の仲介会社の記録では


・10人が内見予約

・10人全員、当日キャンセル

・理由はすべて「急な体調不良」


千堂「全員が? 偶然じゃないですね……」


◇◇◇


3.内見当日 ― エレベーターの異変


タワマンのロビーはホテルのように豪華。

だが1504号室へ向かうエレベーターで。


キーン……


千堂の耳に鋭い耳鳴りが走る。


千堂

「……うっ……!」


小林

「大丈夫か? ここ来ると、具合悪くなる人多いらしい」


千堂は、胸に重石を乗せられたような圧迫感を覚える。


そのとき。


ポケットの中で――


ブルッ


スマホが震えた。


千堂は反射的に取り出す。


画面には


【着信】


だが、番号は表示されない。


ただの空白。


千堂「……え?」


着信音は鳴らない。


“振動だけ”。


不気味なほど静かな着信。


千堂が出ようとした瞬間――


スッ……


勝手に切れた。


千堂「今の……なんだったんですかね……」


小林

「圏外か、バグだろ」


だがエレベーターは地下でも圏外でもない。


◇◇◇


扉を開けると、思わず言葉を失う。


・ダイニングに食器

・ソファにブランケット

・シンクには水滴

・寝室のベッドは誰かが今朝まで使っていたように乱れている


1504号室 “生活の気配がそのまま”


千堂

「まだ住んでる人、いるんじゃ……」


小林

「いないよ。鍵は管理会社が回収してる」


生活感は濃厚なのに、

家主は“存在しない”はずの部屋。


千堂はリビングを歩くほど、

誰かに背後を覗かれている感覚に襲われる。


ふと、キッチンの方から


カタン……


と音。


千堂

「今、音しましたよね?」


小林

「いや……聞こえたか」


冷蔵庫の隙間が、ほんの少し開いている。

さっき見たときは閉まっていた。


中には賞味期限の切れた食べ物がびっしり。

まるで時間が止まった家のようだった。


その瞬間――


ブルッ


また、スマホが震えた。


千堂は思わず手を止める。


画面を見る。


【着信】


また番号がない。


だが今度は――


画面の表示が、ゆっくりと“滲んで”いく。


数字が浮かび上がる。


1

5

0

4


千堂「……っ!」


一瞬で消える。


通話は、また“無音のまま”切れた。


千堂の手が震える。


◇◇◇


マンションを出て歩きながら、小林が呟く。


小林


「この部屋の住人ね……」


千堂


「……はい」


小林


「まだ帰って来てないだけなんだよ」


千堂「……?」


小林

「“出かけたまま帰ってない”んだ。

 10年くらい前から……ずっと」


千堂

「……それって……行方不明……ですか?」


小林は答えず、前だけを向いて歩く。


◇◇◇


その夜。


千堂のスマホが、机の上で――


ブルッ


震えた。


画面を見る。


【着信】


表示された番号は――


「1504」


千堂「……っ」


呼び出し音は鳴らない。


ただ、振動だけ。


部屋の静寂の中で、

“ブッ……ブッ……”と低く響く。


千堂はしばらく見つめる。


出るべきか。


出たら、何かが変わる。


そんな予感がした。


それでも――


恐る恐る、通話ボタンを押す。


千堂「……もしもし?」


無音。


完全な無音。


ノイズすらない。


だが――


“誰かがいる”


気配だけが、耳の奥に流れ込んでくる。


千堂「……あの、どちら様ですか……?」


沈黙。


そのまま、10秒。


20秒。


30秒。


切れない。


ずっと“繋がっている”。


千堂の呼吸だけが、やけに大きく聞こえる。


すると――


スピーカーの奥で


カチ……


小さな音。


エレベーターのボタン音。


続いて――


チン。


到着音。


千堂の全身が凍る。


今、自分の部屋にはエレベーターはない。


それでも、はっきり聞こえた。


ゆっくりと。


“誰かが降りてくる気配”


そして――


コツ……


床を踏む音。


電話の向こうで。


一歩。


また一歩。


近づいてくる。


千堂「……やめて……」


声が震える。


だが、音は止まらない。


コツ……コツ……コツ……


そして突然――


プツッ。


通話が切れた。


画面を見る。


着信履歴


1504号室


千堂「ついに……あの部屋に帰ってきたの……?」


その瞬間。


耳元で――


“コツ”


小さな足音が、現実に響いた。



事故物件ファイル19 消える内見予約 エンド

挿絵(By みてみん)

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