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勇者と肩を並べるその日まで  作者: キジトラ
第一章 「別れと出会い」
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第十八話 「『太陽』の騎士」

 目を細めながら落ち着いた声で、呟く彼女に少女と巨人ゴブリン達は目が釘付けになっていた。たった一太刀で見せたその強さに彼らは圧倒されたのだ。

 一時の静寂が流れ、風で木が揺れる音のみが彼らの耳を刺激する。


 その均衡を破ったのは他でもない、この原因を作った彼女だった。


 「おい、デカブツども」


 「ただでさえ時間がねえ。もし、アタシたちをこのまま逃がしてくれるんだったら──」


 「──お前らの命だけは、見逃してやるよ」


 先ほどの彼らが行ったように、提案を彼らに差し出す。まるで自分が、彼らの命を握っているかのような物言いだ。

 身長も体格も巨人ゴブリン達の方が勝っているはずなのに、目の前の淡々と話す彼女の方がよっぽど恐ろしいと少女は感じた。

 生物的な本能なのだろうか。蛇に睨まれた蛙が動けなくなるように、自分と相手の力関係が自然と分かるように。


 人の形を成す目の前の彼女、もとい化け物が大剣を肩に持ち、苛立ち始める。


 「おい、早くしろよ」


 「ッッッッッ!!!!」


 彼女の声色が変わり、彼らに強制的に選択を迫らせる。

 しかし、彼らの口は動かない。動揺してはいるが彼らは決して敗北宣言をしない。


 この山で自分以上の存在に会ったことがない巨人ゴブリン達にとって生まれた初めての感覚なのだろう。

 自分の可愛い命、たかだか人ごときに舐められたことにより怒り。

 彼らは命と矜持を天秤にかけ、選択を出せないままでいるのだ。


 そして、生物は長く生きるほど熟慮になっていく。幼いほど愚かな選択を繰り返し間違いを学んでゆくのだ。

 最も、そこで終わってしまえばそれまでなのだが。


 「ハッ! 矮小ナ人間ゴトキガ。今、ソノ減ラズ口ヲ閉ジサセテヤル」


 先陣を切ったのは、末の弟だった。拳を握り目の前の彼女を正確に捉える。直撃すれば彼女は粉砕骨折間違いなしだろう。


 「待テ!!!」

 「エ?」


 今まで聞いたことも無い兄の悲痛な叫びに弟は反応した。


 ──だが、もう遅かった。


 「返事はいいえってことでいいんだな?」


 その時を待ちわびたかのように彼女は片手で大剣を構える。右足を一歩だし、剣先を後ろに下げ目の前の目標を見据える。

 そこから繰り出されたのはド派手な技でもかっこいい魔法でもない。


 ただ、剣を振り上げただけ。それだけだ。


 「────ナッッッ!!!」


 それと同時に振り上げた剣の一直線状の空間にあるものがすべて消え失せた。木々も巨人ゴブリンの体も。

 放たれる衝撃。風圧。先ほどラデスが倒した巨人ゴブリンの比ではない。その一撃で山が割れてしまうのではないかと錯覚するほどの強撃だ。


 「ア.....ガア.....体ガ.....」


 その一撃を間近に受けた巨人ゴブリンの末の弟は、今の自分の姿に絶望した。

 振り出した右腕は勿論、体の右半分は欠け、そこから紫の血がとめどなく溢れ出ている。彼の顔も斜めに抉れ、声もまともに出せない。

 人間であれば致命傷どころか即死だが、幸い魔核は無傷だったようだ。まあ、彼らにとってこれが幸いなのかは不明だが。

 

 「こうなると、魔核が壊されないと死なないってのも難儀だな……」


 ローザが彼らに向けるのは憐みの目だ。そこには圧倒的な実力差だけが転がっていた。


 「つーか牽制でこれか。警戒して損したな」


 彼女の口から出た言葉は体に電流が流れたと感じるほどの衝撃を彼らに与えた。思わず牽制の定義を一瞬忘れそうになる。

 あの一撃が牽制というのなら、答えは簡単。

 まだ、全力の一撃を彼女は残している。


 そして強者は弱った獲物を冷静に見定め、近づいていく。

 獲物は自分の末路を悟った。


 「──ヤメ」

 「やめねえし、待たねえよ」


 彼女は魔核ごと大剣で巨人ゴブリンの弟の体を斬った。左肩から右脇腹にかけての一撃。

 よほど早い一撃だったのだろうか、振り切った数秒後に切れ目が入りズルと上半身が地面に落ちた。

 そしてそれに呼応するように下半身が力なく倒れる。ラデスと少女が苦戦し、考えに考え抜き漸く一匹といった所なのに、彼女はものの数分で倒した。

 今まで恐怖すら感じたことのない彼の命が呆気なく、本当に呆気なくそこで尽きていったのだ。

 

 「ヤムヲ得ン…!!!」


 自分たちの不利を瞬時に判断した巨人ゴブリンの一番上の兄は辺りの空気を思い切り吸い、出来る限りの咆哮を上げた。

 ただの命乞いか、あるいは──、


 「なるほどな」


 彼女は瞬時にその意味を理解し咆哮を上げた主を睨む。


 「一人で駄目なら、みんなでってことか」


 森のあちこちから物音が聞こえる。それは、赤髪の彼女どころか少女ですら理解していた。

 奇声を伴い、物陰から出てくるゴブリン達。異空間から無尽蔵にでも湧いているのだろうかと勘違いするほどの数だ。

 そしてそれらはものの僅かに少女たちを取り囲み、逃げ道を消した。


 「確カニ、私達ハオ前ニハ敵ワン」


 「ダガ、コノ数相手ニ、後ロノ奴ラヲ守リキレルカ?」


 戦意を喪失した彼らが選んだのは生きることではなく、少しでも殺すこと。人の不幸を望む、魔物や魔族らしいと言える判断だ。

 その言葉を聞いた少女はラデスを自らの近くに引き寄せ彼を庇いながら辺りを警戒する。


 巨人ゴブリンの一番上の兄は分かっていた。人を躊躇させるのに最も有効な手段は人質を取り脅迫すること。

 この言葉を聞けば少しは戸惑うはずだ。



 そう考えた彼らは馬鹿だった。

 その卑怯極まりない手段が燃ゆる獅子の逆鱗に触れた。


 「……あんまりアタシを舐めてんじゃねえぞ」


 そう告げた瞬間、彼女は一気に魔力を解放し辺りを威圧する。その迫力はさながら獅子、いや百獣の王だ。

 彼女の眼は真っすぐと巨人ゴブリン達を見ているはずだが、その強烈な魔力のせいだろうか。ゴブリン達や少女だけでなく辺りの生物が、まるで自らの一挙手一投足を監視されているかの錯覚に陥った。


 虫は羽を広げ今出せる全力のスピードで安全な場所へ逃げる。

 今まで静かだった鳥たちは騒ぎ出し、あたりの仲間たちに危機を知らせる。


 自分が巻き込まれないように。


 「お前らはずっとこの山に引きこもってたから知らねえんだろ」


 「だから、教えてやるよ」


 目を見開いた彼女は彼らに己の正体を明かす。


 「元『太陽』の騎士、ローザ・マードレンの実力をな」



*************************************



 「『太陽』の.....騎士?」


 少女はローザの言葉に息を吞んだ。前に入ったパーティで一度だけその名を聞いたことがある。

 その騎士は数多の犯罪組織を壊滅させ、実力で名を轟かせた魔族達を大量に倒したと言われる王国の歴史の中で史上最強の騎士。

 現在は引退し隠居したとの噂だったが、まさか彼女がそれとは。


 「だが、その前に」


 「うわっ!!」


 ローザは少女とラデスを片手で背負いながら肩に乗せた。そして小声で話しかける。


 「悪いな。少しの間これで我慢してくれ」


 「は、はひ。大丈夫です」


 「何だよ。はひって」


 少し顔が笑みで緩んだと思えば、ローザはすぐに真剣な表情に戻す。


 「しっかり掴まっとけ。火傷すんなよ」


 「え? 火傷?」


 その言葉の真意を聞こうとした瞬間、ローザの体が急加速した。そのあまりの速度にローザに抱えられた体だけがその速さに順応し、彼女の眼にまでかかる髪は突風に吹かれたように暴れまわる。

 そして、その速度に対応できていないのは周りのゴブリン達も同じだ。


 大剣を持ちながらも縦横無尽に走り回る彼女にゴブリン達の意識も反応も追いつかない。混乱して取り乱す彼らの魔核を冷静に穿いていく。

 自暴自棄となり騒ぎ出す者の体を両断し、怯えて蹲る者の体を細切れにする。

 豪快ながらも正確に相手の弱点を突く剣さばき。少女はその秀麗さに微かに開いた口が塞がらなかった。

 そして、


 「どうやら、チビ共は全員死んだみてえだな」


 辺りに屯していたゴブリン達をローザは鏖殺した。時間にしてわずか一分弱。美しい山の景色に少しの血生臭さが漂う。

 再び巨人ゴブリン達の前に立ちはだかった彼女は、顔を僅かに傾け相手に殺意を伝える。


 だが、それを見た巨人ゴブリン達は歪に笑う。


 「行クゾ、弟ヨ」

 「アア、兄者」


 二人は肥大な右手に地面を触れさせ、唱えた。


 「「操影!!」」


 再び彼らの影が伸び、ローザと大地を膿み、辺りのゴブリン達が影の中に沈んでいく。その異様な光景にもローザは一切動揺することなく冷静に地面に視線を向けた。


 「なるほど、それがお前らの異能か」


 「知ッテイタノカ」


 「影を操るって感じか? 対して強くないな」


 「基本的ニハソウダガ、今回ハ一味違ウ」


 そう巨人ゴブリンが自信満々に告げた瞬間、影の中から何かが飛び出してきた。

 黒いゴブリンだ。しかもゴブリンの死体と同じ形の。


 しかし生きているという感じではなく無理矢理に操られている。まるで糸で操られた人形のようだ。抉れて、もはや肉の塊となった体が立ち上がって来る気持ち悪さは常軌を逸しているとしか言いようがない。


 「死体を影にして操る。影の屍兵か」


 「勘ガ鋭イナ。ダガ、モウ一ツ特徴ガアル」


 「彼ラハ我ラノ影カラ出来テイル。倒サレテモ影デ再ビ形作レバ復活スルノダ」


 「──不死身ノ兵士ニ、貴様ハドコマデ対応デキル?」



 倒れても倒れても何度も立ち上がって来るラデスを巨人ゴブリンが恐れたように、この世で最も厄介なのは、諦めない者だ。

 仮にも同族であるゴブリンの命を弄び、死してなお使われる。こんな惨いことがあっていいのだろうか。それを最悪の形で顕現した彼らは外道といえるだろう。


 「こりゃ、時間がかかりそうだな」


 溜息をつきながら怪訝な表情を浮かべるローザ。いくら王直騎士でも不死身の敵が厄介なのは同じの様だ。

 そしてローザはふと思い出したように血相を変え少女に問う。


 「おい、お前! ラデスが倒れてどんくらい経つ!?」


 「え!? いや、正確には覚えていないですが...、でも今すぐ医者に見せないとまずい感じです」


 「そうか...。ならうかうかしてらんねえな」


 ローザは屈み、体勢を低くとる。そして一言。


 「こっからは一気に行くぞ」


 その言葉を発した瞬間、少女は目の前の景色に驚愕した。さっきまでいた巨人ゴブリン達がいない。それどころか周りの木々すら無くなっている。

 見えるのは無限に広がる地平線と、綺麗に澄んだ青空のみ。


 その情報を頭に入れた直後、彼女の体にかかるのは強い圧力。その正体は言うまでもないだろう。

 空気抵抗だ。

 

 そう、ローザはただ思い切り上へ飛んだのだ。ただのジャンプ。本当にそれだけだ。

 しかし、とてつもない彼女の身体能力によるそれが、少女に景色が一瞬で変わったと勘違いさせた。


 「おい、ラデスをしっかり持っとけよ」


 「へ?」


 「ちょっと乱暴にすっからな」


 「え? いや、ちょっとちょっとちょっと!!!!」


 その言葉と共にローザは体制を変え自らの肩に抱えた少女とラデスをさらに上空へぶん投げた。

 空から見えるのは山の緑と小さくなったグリンガ王国だ。その景色を見た少女は言い知れない恐怖に苛まれる。

 しかし、ローザに言われた通りにラデスを抱き寄せ少女は彼女の勝利を信じる。彼女の実力は紛れもない王直騎士そのものだ。いま生き残るためには彼女を信じるしかない。


 少女は彼女の様子を見るべく向かってくる風で閉じたくなる目を強引に開けた。


 彼女は目撃した。


 山が、地が、光と熱に包まれていく光景を。

pv数1000を超えました!!

読者の皆様の応援のおかげです! ありがとうございます!!

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