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勇者と肩を並べるその日まで  作者: キジトラ
第一章 「別れと出会い」
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第十三話 「異能」

 目の前のでかいゴブリン、仮に巨人ゴブリンと名付けよう。

 目の前で述べられたラデスの強烈な自己紹介にその巨人ゴブリンは、嬉々として笑いながら言った。


 「ホウ?オ前ガカ?」


 喜びの表情から笑みがこぼれ、自然と牙が見える。ドリルで削れられた岩のように荒々しく、暴力的な風貌。それを支えている口から強烈な臭いが漂ってくる。人の死臭、だろうか。なんの臭いにしろ、あれに食われたモノの末路の臭いであることは確かだ。


 「貴様ガ、勇者ニナルノナラバ、今、圧殺シテクレヨウ」


 緑髪の少女から照準を変えラデスの方へ棍棒を振り下ろす巨人ゴブリン。ラデスは間一髪のところで右に飛び込み避けた。

 衝撃波で砂埃が舞う。ラデスは自分が先ほどまで立っていた所を見る。


 出来上がったのはかなりの小規模の物だが、クレーターだ。

 それほどの衝撃、それほどの圧力。恐らく掠っただけでも巻き込まれて戦闘不能になってしまうだろう。


 その光景はラデスの頭に再び、死をイメージさせる。

 ────逃げなくちゃ、


 その瞬間ハッとしたラデスは頬をたたいて、そのイメージを払拭した。そして隙だらけとなった巨人ゴブリンの体に、近づき剣を振り下ろす。


 「…硬ってえな!」


 もちろんだが、その刃は通らない。ローザと会ってからしっかり特訓をしていたはずだが、この現実は、自分がまだまだ努力不足だとラデスに認識させた。

 まるで鬱陶しい羽虫を叩き潰すようにラデスに拳を振り下ろす巨大ゴブリン。だがラデスはそれをまた避ける。


 「イイゾ!ソノ意気ダ!!」


 今、この場で唯一ラデスを応援しているのは、巨大ゴブリンのみ。しかし、その悪意に満ちた応援は逆にラデスの敵意を成長させた。

 こいつは怪物じゃない。めっっっちゃ嫌な奴だ。自分も情けない奴だけど。

 だが、純粋な力において俺がこいつに劣っているのは確かだ。


 だからこそ、ここで限界を超えるしかない。


 この戦いにおいて重要なのは、ラデスが限界を突破出来るかどうか、つまり魔力を体に流すことを習得できるかどうかだ。この命の取り合いの最中でそれを成すのは至難の業だろう。

 しかし、やらなければ二人とも死ぬ。


 「ハハッ。コレハドウダァ!?」


 またも、振り下ろされる棍棒による攻撃が来る。単調なはずの攻撃が、大きい棍棒と馬鹿力により波状攻撃へと昇華される。

 木々を盾にしようにもあの攻撃を受けきれるほどのものは存在せず、ほとんどが無力に薙ぎ倒されるだけだ。起きる衝撃は軽い地震すら起きているのではないかと錯覚できるほどのものだ。


 何度も大地へと振り下ろされる棍棒が辺りを平らにしていく。徐々に砂埃の嵐が晴れていき辺りの実態が明らかになった。


 「…ホウ。オ前、ヤルナ」


 弱弱しく大地に立っていたのは少女を自らの背中におぶったラデス。しかし、二人とも致命傷は負っていない。

 あの刹那、ラデスは受けるや反撃するといった攻めの姿勢から一転して少女と逃げることだけを考え動いた。

 その結果なんとかあの波状攻撃を耐え抜くことが出来たのだ。


 「オ前、ラデスト言ッタカ。イイナ。先程ノ馬鹿トハ違イ、シッカリ考エテ動イテイル」


 実力差をしっかり分かったうえでの戦略的な行動に巨人ゴブリンはラデスに称賛の拍手を送る。


 「──ダガ、ソノ目ハ気ニイランナ」


 しかし、その残酷で血走った目は全く笑っていない。

 なぜならラデスの目が死んでいないからだ。勝利を、生を、執念でもぎ取ると言っているような目。

 これまで、たくさんの冒険者の絶望の顔を見てきたであろう巨人ゴブリン。先ほどまでの臆病なラデスに一体何が起きたのだろうか、彼には分からなかった。

 恐らく、その巨体や強大さを見て戦意喪失し、逃げ出した者も多かったのだろう。だからこそ、目の前で他人のために命を張るこの生き物が理解できないのだ。


 「──マア、関係無イガナ」


 再びラデスに向けて攻撃が来る。技能も工夫もないが単純で強い攻撃。だがラデスはこれを巨人ゴブリンの周囲を走り回ることで避けた。

 その隙を見たラデスは彼から離れることで少しばかりの余裕を作った。

 確かに強力な攻撃だが何度も何度も見ると慣れてくる。それにローザの攻撃の方が鋭く、早かった記憶がある。


 ラデスを見失った巨人ゴブリンは、顎に手を当てながら独り言を呟いた。


 「埒ガ明カナイナ。一次元デ駄目ナラバ、二次元ナラドウダ」


 邪悪を体現したような顔でそう言った巨人ゴブリンは大岩のような棍棒を横に思いきり振りかぶり大地に沿うように振った。

 一次元が駄目ならば二次元。縦だけではなく、横も攻撃する。

 その真意を理解したラデスの顔から血の気が引いてゆく。このまま何もせずにいればじり貧でいつか二人とも原形をとどめない肉塊と化すだろう。


 ラデスは何とかこの状況を変えるために少女に協力を要請する。この場では猫の手も借りたいところだ。


 「おい、あんた。少し協力してくれ!」


 「……」


 「おい、早く起きてくれ!このままだと二人とも死ぬ!!」


 「──やです」


 「何て!?」


 「嫌です!!」


 彼女の口から出たのはまさかの言葉。ここでの行動拒否は自殺行為だと分かっているのだろうか。


 「何言ってんだお前!!いいから協力しろ!!」


 「だから嫌です!!!」


 「何でだよ!!」


 「…言いたく、ありません」


 彼女はそのまま黙り込んでしまった。もしこのままでは、二人とも犬死にだ。

 ラデスは仕方なくだが、近くにゴブリンがいないことを確認し彼女を物陰に隠した。

 そして、再び巨人ゴブリンの方へ向かってゆく。


 「おい! クソデブ! 俺はこっちだぞ!!」


 「ホウ?自ラ出テキタカ」


 ラデスの姿を見た巨人ゴブリンは破壊活動を止め、ラデスを見下ろす。もはや山とは思えない拓けた土地で二人きり。挑発にも全く動揺していない。


 こいつの攻撃はローザほど早くない。避けることはあまり難しくないだろうが、攻撃できなければ体力に限界が来てなし崩し的に終わるだろう。


 あの時、ノヴと戦った時、俺は何をした? そこを見出せるかが勝機といえる。あの時、俺は何をしていた?


 「ソノ勇気ニ応エ、一撃デ終ワラセテヤロウ」


 おいおい来る来る!! まずい、早く思い出せ!! あの時俺は何してたんだ!!

 ここで変わらなきゃここに来た意味がないだろうが!!!


 ラデスの思考が加速し今までの経験が無数の情報となって海馬から映像という形で思い出される。あの時、俺は、そうだ。


 ただ、ただ見てたんだ。ノヴの動きを見ることだけに集中して他の事は一切頭に入れてなかった。


 「──サア、終ワリノ時ダ」


 来る。圧倒的な質量と威力を持った攻撃が来る。手を抜いていたのだろうか、先ほどまでとは段違いの速さ。これを避けるのはこのままでは無理だろう。


 見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ!!!!!


 あの時と同じ感覚。ラデスの黒い瞳に再び熱が宿り、灰色の魔力が動体視力を限界まで底上げさせる。

 異様なまでの動体視力がラデスが見る世界をスローモーションの世界に変えていく。そして振り下ろされる棍棒と巨人ゴブリンが止まった。


 来た来た!!! よっっっしゃぁぁぁ!!!!!


 ラデスが避ける動作をとったその時、


 は?


 スローモーションとなった世界が、巨人ゴブリンが、突然急加速し再び動き出す。避ける動作の途中だったラデスがその棍棒を躱せるわけがない。


 ラデスは体の左側に思いっきり巨人ゴブリンの強撃を食らった。振り下ろされる棍棒の勢いのまま吹っ飛び、偶然あった木に衝突しラデスの動きは停止した。


 ──ああ、くそ。結局、実力差かよ。


 ノヴと巨人ゴブリンでは身体能力に雲泥の差がある。ノヴの動きを捉えられても奴の動きを捉えられるとは限らない。

 がくっと頭が落ちラデスの意識は、深い海にゆっくりと沈んでいくかのように落ちていく。


 「…終ワリカ。マア、良クヤッタモノダ」


 羽虫が漸く死んだと、巨人ゴブリンが少女を殺しにその場を立ち去ろうとしたその時、

 足に何かが飛んできた。

 彼は何者かと地面に目を凝らした。

 小石だ。取るに足らない、あっても何の意味もないような小石だった。


 巨人ゴブリンが振り返ると、そこには左腕はいびつな形に歪み、今にも倒れそうな先ほどの小石と同じく何の意味もないような姿となったラデスが立っていた。


 「──ヤハリ、イイナ。オ前」


 頭の中に霧がかかったように思考がまとまらない。脳震盪を起こしているのだろうか。頭がボーッとする。

 そんなラデスに巨人ゴブリンはお構いなしに話し始めた。


 「オ前ノヨウナ強イ奴ニ、会イタカッタ」


 「オ前ハ、死ニタクナカッタンダッタナ。ソコデ、オ前ニ提案ガアル」


 「オ前、我々一族ノ種馬ニナラナイカ?」


 「我々一族ハ、強イ種ノ数ヲ増ヤスコトコソガ本懐。弱者ニ興味ハ無イガ、オ前ハ別ダ。我々ニ協力スルノナラバ、命ハ助ケテヤル」


 「ドウダ?オ前ニモ悪イ提案デハ無イダロウ?」


 巨人ゴブリンは屈託の無い笑顔で人間の尊厳を完全無視した提案をしてくる。しかし、ラデスの頭にはその内容のほとんどが入っていなかった。

 だが、ラデスの心の中にはこいつに何かしてやりたいという反抗の意志だけはあった。偶然にもラデスがした行動はその提案の返事となる物だった。


 ラデスは巨人ゴブリンに対して思いっきり中指を立てた。巨人ゴブリンはその行動が分からなかったが意味は理解したようだ。


 「返事ハイイエ、カ」


 巨人ゴブリンの声色が変わる。そしてラデスに対し彼は──、


 「イイダロウ。殺シテヤル。ダガ、我モ少々手ヲ抜キスギタナ」


 「…オ前ニ敬意ヲ表シ、我モ本気デ行コウ」


 「オ前ニ見セテヤロウ。魔物ヲ越エタ、魔族ニノミ使エル力、──"異能"ヲ!!」


 巨人ゴブリンは自らの影に手を置き、唱えた。


 「『操影』」


 その瞬間、ラデスの霞んだ眼は確かに捉えた。

 巨人ゴブリンの影が山の大地を、草木を膿んでいく光景を。

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