第83章ーー特別ないつも通りの食事ーー
今回のお話、我ながらお気に入りです!
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めでたい食事が始まった。
目の前にいるのは、今日、紫神社での結婚式に参列してくれた人々。
そして、食堂には千人を超えるヘスペリア3の人々。
少しのNOAHの人々。
あ、いつの間にかチヒロもいる。
さぎりとミオの前に置かれた食事は、いつも通りだった。
いつも通りの保存パン。
いつも通りのシチュー。
いつも通りのサラダ。
そして、いつも通りの煮物。
いつもと変わらない。
それなのに――。
「おいしいね」
さぎりが笑う。
「うん。おいしいね」
ミオも笑顔で答えた。
二人が食事を進めていると、さぎりがふと気がついた。
「あれっ」
「どうしたの?」
「私たちの分だけパンが赤い、それにイチゴとブドウがある」
豆が入った赤いパンと、小さな小皿に乗った果物が添えられていた。
それを見たチズルが、にこっと笑う。
「うん。今日は急だったからね」
「少ないけど食堂からの、精一杯のお祝いだよ」
「このパンて…」
「せきぱんだよ。小豆入りのパン、おめでたい時に食べるんだ。」
チズルがそう言って、アハハと笑った。
「やったぁ!ありがとう!」
さぎりが笑う。
ミオも、もう一度トレーを見る。
「じゃあ、私とさぎりの食事は特別なんだ!」
「そういうことだね」
笑いながら食事を続ける。
食事を終えた人、これから食事をする人が
「おめでとう!」
「お幸せに!」
と声をかけながらさぎりたちの後ろを過ぎていく。
◇
しばらくして、さぎりがふと顔を上げた。
「そういえば……」
「ん?」
「さっきから気になってたんだけど、あのおじいさんたちって誰?」
さぎりが、末席にいる年配の男性たちを見る。
ミオもそちらを見る。
「うーん……」
少し考えてから、ミオが答えた。
「あのNOAHの人は、たぶん……いまいち覚えてない」
「そうなんだ。」
さぎりも困ったように笑う。
「なんか見たことあるんだけどね。どこだったっけ……」
そのときだった。
チヒロが、二人にそっと顔を寄せた。
そして、小声で耳打ちする。
「あれ、NOAHの船長と、ヘスペリア3の管制長よ」
「え?」
さぎりとミオが同時にチヒロを見る。
ユノは目を丸くしていた。
「二人ともそれぞれの全責任者よ」
「ええっ?」
さぎりが思わず声を上げそうになる。
「なんでそんな人たちが……」
「食堂の入口で会った時にお誘いしたの」
「今日はヘスピリア3とNOAHの間の初めての婚姻っていう、おめでたい日だったから。」
チヒロは何でもないことのように言ったが
心の中では
(急に連絡が入ってこの二人をヘスペリア3の第二居住リングを案内することになって。)
(私がモウブ君を紫区画に案内する予定だったのにいけなくなった)
と思っていた
◇
さぎりが言う
「おばあちゃんと管制長」
「仲よさそうに話してるよね」
チヒロが答える。
「年代も近いしお知り合いなのかもしれないね」
管制長、NOAH船長とおばあさんの会話に花が咲く。
「長生きはするもんだねえ」
「確かにそうだな」
隣にいた雑貨屋の姉と宝飾店の妹も話に加わる。
「お父さん、たまには顔出してよね」
「二人の指輪見た?。私の作品なんだよ」
さぎりはもちろん、ミオとチヒロも目を丸くする
「え?」
「管制長の奥さんってあのおばあさんだったの??」
「彫金の師匠とそのお姉さんが管制長の娘だったなんて」
「住民事情には詳しいつもりだったのに」
シノが言う。
「あれ知らなかったの?ミシマ一家って結構有名なのよ。」
「しげきさん。うめこさん。ゆかりちゃんに、あかりちゃん。」
チヒロが固まる
「あかりさんは私の彫金の師匠なのでもちろん知っていましたが…」
シノがいたずらっぽく言う
「チヒロちゃんがいつも持ってる、その便利そうな端末で」
「ggrks」
◇
さぎりは、もう一度、年配の男性たちを見る。
「いや……全然記憶にない人たちなんだけど」
そして、少し考えてから、
「私、初対面だよね?」
とミオに確認する。
チヒロが苦笑する。
「NOAHがヘスペリア3に到着したときの代表団に、二人ともいたわよ」
「……」
さぎりは記憶をたどる。
あの日。
NOAHが、長い旅を終えてヘスペリア3へたどり着いた日。
大勢の人がいた。
代表団。
出迎える人々。
そして――。
「……うーん」
さぎりは首をかしげる。
どう考えても、思い出せない。
それも、そのはずだった。
あの日。
さぎりは――ミオしか見ていなかった。
そしてミオも――。
さぎりしか見ていなかった。
二人にとって、あの日の世界には、それ以外のものがほとんど存在していなかったのである。




