第72章ーー紫BBA--
今回はオマージュ、パロディ要素満載で
めちゃくちゃ好きな回になりました!!!
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紫区画の見学から戻ってきたナナコは、自分の部屋で今日の出来事を思い返していた。
「今日、紫区画に行ったのって、本当に良かったな。」
独り言のようにつぶやきながら、自然と笑みがこぼれる。
「案内してくれたお姉さんも優しかったし、おばあちゃんも優しかった。あの兄弟とも仲良くなれたし、すごく良くしてもらえたな。」
今日見た景色が、次々と頭に浮かんでくる。
「お風呂も気持ちよかったし、きれいな浴衣も着れたし。」
「さぎりさんとも、ミオさんとも、ユノちゃんとも会えて、お話もできた。」
少し照れくさそうに微笑む。
「しかも、二人のきれいな結婚式まで見られたんだもん。あれは、一生忘れられないよ。」
しばらく余韻に浸っていたが、不意にお腹が鳴った。
「あ……そういえば、お腹すいたな。」
くすっと笑うと、立ち上がる。
「NOAHの食堂もいいけど、今日はヘスペリア3の食堂に行こうかな。」
ふと思い出したように続ける。
「食堂のおばちゃんもいるかもしれないしね。ちゃんと挨拶しないと。」
時計を見ると、夕食にはまだ少し早い時間だった。
「でも、まだちょっと早いな……。」
ナナコは窓の外を眺めながら、小さくつぶやく。
「商店街に行ってジュネスに行こう。」
「♪Everyday Young Life♪ジュネス♪ 」
小さな声で歌いながら部屋を出た。
◇
兄弟が紫区画の見学から戻る。
兄の部屋で今日一日の出来事を振り返っていた。
兄は30くらい名前はジェト
弟は10歳くらい名前はカア
NOAHではよくある同じ子宮「ゼル」産まれというだけの兄弟である。
「なあ、カア」
「なんか今日、すごくなかったか?」
ジェトがそう言うと、カアは大きくうなずいた。
「うん。なんか結婚式とか初めて見たよ。」
「俺もだよ。」
「日本酒ってのも良かった。」
少し間を置いて、カアが笑顔で続ける。
「あと、大きいお風呂もよかったね。」
「うん、俺もそう思った。」
ジェトは窓の外を眺めながら、ぽつりとつぶやく。
「NOAHも好きだけど、ヘスペリア3もいいところだ。」
「うん。僕もそう思った」
「一緒にへスペリア3に住むのも良いかもな」
「うん。僕もそう思った」
「ジェト。今日はヘスペリア3で夕飯を食おうよ。」
「うん、俺もそう思ってた。」
「まだちょっと時間もあるし、あっちのジュネスに寄ってから、帰りに食堂で飯を食おうぜ。」
「賛成!!」
「やっぱ俺たち気が合うな。」
「行こうぜ!兄弟!」
カアが上機嫌に鼻歌を歌っていた。
「♪ゴーゴージェトゴーゴーカア」
◇
チヒロは、住居管理課の中にある801号オフィスで、コーヒーを飲みながら、こうつぶやいた。
「今、ナナコさんと兄弟の帰宅連絡は入った。」
「今日、紫区画に行ったNOAHの人たち、やけに帰りの報告が遅いわよね。」
「午前中で終わる予定だったのに……もう15時かぁ」
「モウブくん。どうしたのかしら。」
そうつぶやきながら、チヒロは自作の模型の一つを眺めていた。
「モウブくんなら大丈夫だと思うけど。」
「紫区画には、あの人がいるからなぁ」
と、その時、オフィスのドアがノックされた。
チヒロはぼんやりしていた表情を正し、返事をする。
「はい、どうぞ。」
「失礼します。」
扉を開けて入ってきたのは、モウブであった。
「あら、モウブくん、遅かったのね。」
モウブは申し訳なさそうに答える。
「はい、申し訳ありません。なんか、いろいろあって。」
「うん、まあ、座って。」
「はい、失礼します。」
モウブは、チヒロのデスクを挟んだ向かいの椅子に座った。
チヒロはタブレットを見ながら、モウブに質問する。
「うん、質問させてもらっていい?」
「ええ、もちろん。」
「はい……。あれ? あなた、酒臭くない?」
「ええ、なんか、いろいろ飲まされちゃって。」
チヒロは少し目を細める。
「そこも聞かせてもらうわよ。」
モウブは小さく息を吐いた。
「うん、とりあえず、コーヒーをどうぞ。」
モウブの前にカップを置いた。
モウブは、朝からの出来事を一つずつ話し始めた。
紫区画の案内係の二人に工場や研究所へ連れて行ってもらい、そこでいろいろな話をしたこと。
その後、大きなお風呂に入ったこと。
そこへハル主任が来て、
「明日から俺の工房に来い」
と言われたこと。
さらに、さぎりさん、ミオさん、ユノさんにも、食堂のおばちゃんにも会ったこと。
そして、その場でユノさんの浴衣を作ったこと。
「ああ、ユノさんは僕の作った浴衣を、すごく嬉しそうに着てくれてたな。」
「実は、ミオさんと僕が姉弟だったことも分かって……」
モウブは少し照れながら続けた。
さらに、食堂のおばちゃんにみんなが連れられる形で、そばというものをいただいたこと。
思いついた大規模なそばの機械の概要を話したところ、なぜか四か月の間にその設備を僕が整え、ヘスペリア3全体で十二月三十一日に、みんなでそばを食べることになったということ。
そして――。
「そこでいただいたビールが、ものすごく美味しかったこと……」
当初は「ふんふん」と相づちを打ちながら聞いていたチヒロだったが、話が進むにつれて、ずっと驚いた表情を浮かべたままになっていた。
「ちょっと待って。えっと……話を整理すると、ハル主任に弟子入りするみたいな形?」
「はい、そうかもしれません。なんか、少なくとも四か月ぐらいは拘束されるようです。」
チヒロは驚いた顔のまま、少し考える。
「あの人、今まで一人も弟子とか補佐なんか作ったことないのよ。」
「……そうなんですか?」
「さぎりが近い立場だけど、まあ、あの場合は保護者みたいなもんだし。」
「そして、ミオさんと姉弟?」
「はい。ミオさんからそう言われまして。言われてみれば、同じ人工子宮から生まれましたので。」
「そして、そばって何?」
「小規模な試作メニューで、今から規模を広げた栽培をすることになって。」
「ビール飲んだの?」
「はい。」
チヒロは一瞬黙った。
「なんて…うらまけしからん。」
「いや、いいなぁ。」
「う”ー……。」
「そして、その後……」
チヒロが驚いた顔で尋ねる。
「え、まだあるの?」
「はい。なんか、神社に行こうという話になって、そこで……」
「神社って、紫神社よね。宮司はいた?」
「あ、はい。シノさんという……」
「綺麗なな方が。」
「そうだ。シノさん、僕のことを知ってたんですよね。なんか、ニュースの映像で時々見かけると言って。」
「それで?」
「驚いた顔で「本物だぁ」みたいなこと言われました。」
「そうなんだ。あ、ごめんね。ちょっとお手洗い行ってくるわね」
「あ、はい。」
チヒロはそそくさと自室から出て行った。
チヒロは、事務室のドアを静かに閉めた後、つかつかとトイレの個室へ向かった。
「嫌な予感はしてたんだ……。本当は私も行く予定だったんだ。」
個室に入ると、トイレのドアをバタンと閉める。
「うん……。」
そして、つぶやく。
「目をつけてたのか……。」
少し考え込む。
「いや……あの人のことだから、あり得なくはない。」
そして――押し出すように言う
「シノさん。。」
「金髪ショタ好きの紫ババアがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
◇
チヒロは壁に左手をつき、右手で胸を押さえ、言い聞かせるようにつぶやく。
「落ち着け、私。待て。まだ何かあったわけじゃない。」
「いーち、じゅーう、ひゃーく、せーん、まーん、おーく、ちょーう、きょー……」
「ふう。」
「うん、そうだ。落ち着かなきゃ。」
そうつぶやきながら、チヒロは自分の801号室の扉を開けた。
そこでは、モウブがチヒロの作った模型をしげしげと眺めていた。
「あ、ごめんなさい。思わず見とれちゃって。」
モウブがそう言うと、チヒロは模型を見ながら答える。
「あ、その模型ね。」
「はい。これって、エウロパ基地にある核融合炉ですよね。」
三つの模型が並べられている。
「これ、すごいですよね。基本の部分は一号炉、二号炉、三号炉でほぼ同じなんですけども、つながっている通路だとか、配管だとかそういった部分がちゃんと分けられて作られてるんですね。」
「ぐふ。」
チヒロが鼻を鳴らす。
「そうエウロパの核融合炉!でねこのメインの部分フリーマーケットで見つけた3つぞろいのお茶碗で探すのに苦労してたの!この上の部分はお椀の底に穴開けて試験管を差してて周りの配管だとか手すりだとかはハル主任からケーブルとかを貰ってほどいて加工して!全体の色はエスペリア3の外壁塗装工事で余った物を分けてもらって細かい部分の色はハル主任に少し分けてもらって筆で塗って!この上部は点灯するのよ!!正常時の青と異常時の赤に!!特に苦労したのが通路のところで!なかなかサイズの合うケーブルが無くて!実は3機とも通路の形が違ってて!それで現地で寸法を測量したりしてね!」
チヒロはかつて見たことの形相でめっちゃ早口で核融合炉の模型を説明した。
「おお、いいですね!!。」
モウブがつぶやく。
「これって、触っても大丈夫ですか?」
「ええ。持つときには、その……試験管の部分を持って持ち上げて、あとは底をもってね。」
「すごいなあ。」
そうつぶやきながら、しげしげと模型を見渡すモウブ。
そして、モウブは一号炉を手に取った。
一号炉を手にしたモウブは、二号炉、三号炉と見比べる。
「どう? どう?」
と、普段のチヒロとは思えないほどの勢いで、モウブに聞いてくる。
「お椀の形状といい、Rといい、試験管のサイズ、形状といい、よくこんな似たものをみつけましたよね。」
「え、そうそう、そこなのよー。細かいところはもちろんなんだけど、こういう全体の雰囲気をしっかりしないと、なんか違うものに見えちゃうのよお。」
「わかります!」
「え?あれ?」
「え、何かあった?」
チヒロは少し慌てる。
「これを作った時の図面って、残ってますか?」
モウブが尋ねる。
「うん、あるわよ。ちょっと待ってね。」
チヒロは書類棚を探し、ガサガサと書類をめくると、一枚の大きな図面を取り出した。
図面を見たモウブがつぶやく。
「ああ、やっぱりだ。」
「え、どうしたの?」
チヒロもモウブの横から、図面を覗き込む。
「この、エウロパの海水を引き上げる配管の部分、ありますよね。」
「ええ。」
モウブは図面の一角を指差した。
「この図面では、三つの核融合炉から伸びている配管を一本にまとめて、それを海中へ通す図面になっています。」
「そうね。」
「でも、僕がヘスペリア3からエウロパ基地を観察した限りでは、今は違うんです。」
モウブは図面と模型を見比べながら続ける。
「一号炉、二号炉、三号炉、それぞれが一本ずつ、独立して海水を汲み上げる形になっています。」
「たぶん……NOAHの設計図で、ハル主任が見つけた、NOAHが止まれなかった原因と関係しているんじゃないでしょうか。」
チヒロは驚きモウブを見る。
「NOAHが止まれなかった原因?」
「はい。2つある推進剤タンクから推進剤を制御して推進機に送るのを制御するポンプが、一箇所に集約されていたためです。」
「推進機そのものではなく、そのポンプに不具合があったんです。」
モウブは図面の配管を指でなぞる。
「おそらく、その後にエウロパ基地でも同じような問題が起かねないと思われたのではないでしょうか。」
「それで、その可能性を嫌って、三つの炉をそれぞれ独立した海水用パイプに変更したんじゃないかな。」
モウブはそう言って、もう一度、三つの模型を見つめた。
「2号炉のパイプ部分のこことここを切断して」
「ええ」
「1号炉と3号炉のパイプのこの部分を抜き差し出来るように…」
「あ、もうそううなってるのか」
「そうしたら、昔のエウロパ基地の核融合炉も」
「今の状態も組み換え両方再現できそうです。」
チヒロはモウブの顔しか見ていない。
「トゥンク。」
チヒロは落ちた。
◇
モウブがチヒロの顔を見る。
「あ、そうでした。こんな話してる場合じゃないですよね。」
「う、うん、そうね。」
「そう、紫ババ…いや、紫神社。」
「では、他に何かあった?」
「あ、その後、シノさんが、ちゃんと宮司の服装をして、みんなをご祈祷してくれました。ヘスペリア3の安全と、……」
「うん、ご祈祷ね。気持ちが晴れやかになるよね。」
モウブが言う。
「はい。そして、その後、さぎりさんとミオお姉さんが結婚式をすることになりまして。」
「なんですって!?」
チヒロが机を叩いて立ち上がる。
「さぎりとミオちゃんが結婚式?」
「いや、それはいいけど、なんでこんな急に?」
チヒロは少々大きな声で続ける。
「なんで私が呼ばれないの!?」
「急でしたから、さぎりさんとミオお姉さんもびっくりしてたぐらいですし。」
「うん、まあ、そうね。」
落ち着いたチヒロはチェアに座りなおす。
モウブは、ふと思い出したように続ける。
「あ、あと、地球製の日本の日本酒をいただきました。」
「はああああ?」
そう言うと、チヒロは再び立ち上がった
「もう…その後はないわよね。」
立ったままのチヒロが、モウブに尋ねる。
「はい。その後は、お風呂に戻って着替えて、検疫を通ってここに直行しました。」
チヒロは、模型のことを少し話しただけだが…モウブはハル主任に気に入られて当然だと思った。
紫ババアのこと、そして、さぎりとミオの結婚式のこと、日本酒のこと。
「トゥンク。」 ってしたこと。
少々頭の中を整理するために座って、コーヒーを一口飲む。
「ふう。」
「モウブくん、今日この後どうするの?」
「あ、はい。明日はハル主任のところへ行くのに、何か必要なものがあるかなと思って、あの、ジュネスに行こうと思います。」
「あら、いいわね。私もちょうどジュネスへ行こうかと思ってたの。」
嘘である。
「そのあと第一食堂に一緒に行きましょう。」
一見冷静に言った様に見えるが、チヒロの心臓はバクバクである。
「あ、いいですね。僕も、リンちゃんさんの様子を見たいですし。」
「少しまってね。支度して来ますね。」
「あ、さっきの模型見てていいですか?」
「ええ。もちろん。」
チヒロは他の模型も見せようと思ったがやめた。
次に繋げるためだった。
◇
中央区画管制前駅のベンチ
「遅いなあー」
そこには紫色の影があった。




