第69章ーー結婚式ーー
お話自体は淡々としていますが、
どうしても今ここで入れなきゃいけないと思っていたエピソードです。
お付き合いください。
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シノが戻ってきた。
先ほどまでの弾けるような笑顔ではない。
神職としての、穏やかで静かな表情だった。
「お待たせいたしました。」
さぎりとミオが顔を上げる。
「それでは。」
シノは二人を見つめる。
「始めましょう。」
「はい。」
さぎりが答えた。
「はい。」
ミオも答えた。
二人は立ち上がった。
神殿の中は。
静かだった。
紫区画のざわめきも。
ここまでは届かない。
拝殿の奥には。
小さな社がある。
地球から遠く離れた。
木星圏。
そのさらに。
巨大なコロニーの中に造られた神社の中でも、この紫神社は特別だ。
さぎりとミオが。
並んで神前に立つ。
ハル、おばちゃん。
ミオの弟、モウブ。
そして知り合ったばかりの面々。
宮司のシノ。
そして。
ユノがいた。
ユノは。
何も言わなかった。
ただ。
二人を見ていた。
シノは。
二人の前に進み出た。
さっきの彼女とは。
少し違って見えた。
背筋を伸ばし。
静かに一礼する。
やがて。
低く澄んだ声で。
祓詞を唱え始めた。
二人は。
頭を下げる。
ユノも。
頭を下げた。
シノが。
大麻を手に取る。
白い紙垂が。
かすかな音を立てた。
右へ。
左へ。
そして。
もう一度。
二人の上を。
白い紙垂が静かに通り過ぎていく。
修祓が終わると。
シノは。
神前へ向き直った。
そして。
祝詞を奏上する。
二人が今日。
伴侶となること。
これから。
同じ場所で暮らし。
互いを支え。
日々を重ねていくこと。
そのことを。
神前に告げる。
神殿の中に。
シノの声だけが響いていた。
さぎりは。
静かに聞いていた。
その隣で。
ミオも。
頭を下げていた。
やがて。
祝詞が終わる。
短い沈黙。
シノは。
三つの盃を用意した。
小さな盃。
中ほどの盃。
そして。
大きな盃。
その傍らには。
小さな瓶が置かれていた。
中に入っているのは。
1年に1本だけ、地球から奉納される日本酒。
シノが。
小さな盃に酒を注ぐ。
さぎりが受け取る。
一度目。
盃を口元へ運ぶ。
二度目。
そして。
三度目に。
わずかに口をつける。
盃は。
ミオへ渡された。
ミオも。
同じように。
三度。
次は。
中ほどの盃。
そして最後に。
大きな盃。
三つの盃を。
三度ずつ。
三三九度。
地球から遠く離れた。
この場所でも。
その作法は残っていた。
いや、代々の宮司が受け継いで残してきた。
果実酒が使われる事があっても。
盃を交わす意味までは。
変わらなかった。
三献の儀が終わると。
シノは。
一枚の紙を手に取った。
この神社に。
婚姻の儀のために備えられていた。
誓詞だった。
シノはそれを。
二人へ差し出す。
さぎりとミオは。
並んで受け取った。
紙を開く。
そこに書かれている言葉を。
二人は。
神前で読み上げた。
これから。
共に暮らすこと。
互いを敬うこと。
喜びも。
困難も。
二人で分かち合うこと。
そして。
今日から伴侶として。
同じ道を歩んでいくこと。
さぎりの声。
ミオの声。
二人の声が。
静かな神殿に重なる。
誓詞を読み終えると。
二人は。
深く頭を下げた。
シノが。
玉串を差し出す。
さぎりとミオは。
それを受け取った。
榊の枝。
この農業区画で。
育てられたものだった。
二人は。
玉串を神前へ捧げる。
一歩。
下がる。
二礼。
二拍手。
神殿に。
乾いた音が。
二度響いた。
そして。
一礼。
長い沈黙があった。
シノは。
二人を見た。
それから。
静かに頭を下げた。
鐘も鳴らない。
花びらが舞うこともない。
ただ。
さぎりと。
ミオが。
並んで立っている。
その少し後ろで。
ユノが。
二人を見上げていた。
参列者も晴れやかな顔で二人を見ている。
地球から遠く離れた。
ヘスペリア-3の農業リングの紫区画にある。
ちょっとだけ特別な小さな神社で。
二人は。
伴侶になった。
シノが笑顔で言う。
「終わりました。おめでとうございます。」
さぎりとミオはシノに一礼し
参列者を見渡し言う。
「ありがとうございます!」
拍手が起こり
参列者の口々から
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
祝いの声が重なる中で。
「ぐふうっ」
後ろでシノが変な声をだした。




