第66章ーーありそうでないものーー
次回超展開。
https://x.com/pochidayo
更新時には更新情報流しています!
よかったらフォローいただければフォロバします。
一行は、手水舎へ向かった。
さぎりが柄杓を手に取る。
「ミオ。さっき言ったみたいにやってみて」
さぎりが横から覗き込む。
「ええと確か。」
ミオは柄杓で水を汲んだ。
「この柄杓を持って。」
左手に水を流す。
「こう?」
「冷たい。」
「でしょ。」
「今度は。」
ミオは柄杓を左手に持ち替えた。
「左手に持って。」
「右手を洗います。」
「そう。」
「それから」
柄杓を右手に持ち直した。
「右手に持ち直して。」
左の手のひらに。
少しだけ水を受ける。
「この水で。」
口をすすいだ。
「飲まない。」
「うん。」
口をすすぐ。
そして。
最後に。柄杓を立てた。
残った水が。
柄を伝って流れていく。
「こうやって。」
「最後に、柄杓の柄も流す。」
「一発でできたね!。」
さぎりは言った。
「体を清めるためよ。」
ミオは。
濡れた自分の手を見た。
「お風呂にも入ったのに?」
さぎりは止まった。
「……それは。」
少し考える。
ユノも。
さぎりを見上げた。
「さらに清めるのではないでしょうか。」
ミオがユノを見る。
「さらに?」
「はい。」
さぎりが笑った。
「たぶん、そう。」
「たぶんなんだ。」
「うん。」
三人は。
少し笑った。
振り返るといつの間にか女性が置きっぱなしにしたチリトリを
しゃがんで眺めているモウブがいた。
ハルが声をかける。
「どうした?」
「これってめちゃくちゃ便利じゃないですか?」
「言われてみれば」
一行がチリトリとモウブを囲む。
ヘスペリア3にもNOAHにもしゃがんで使うチリトリはある。
しかし、竹製の立ったまま使える、この形状のものは見当たらない。
「食堂でも欲しいねぇ」
「農業リングにも欲しい。」
「家の前の掃除にこれがあったら楽だね」
「工業リングは金属製のチリトリかバキューム使ってるからな」
ユノが手を上げる。
「アーカイブには、このチリトリと同じ、立ったままゴミを集めるチリトリは存在しました。」
「多くはプラスチックや金属製で、もしNOAHやヘスペリア3に用意されてたとしても」
「現存はしてないと思われます。」
「すぐ壊れるんです。」
「残っているのはしゃがんでゴミを集めるチリトリだけでしょう。」
「じゃあ、これは?」
ハルの問いにモウブが答える
「ここの方が竹を使って手作りされたのでは?」
「あと、このホウキも竹で出来てますね。」
と言いながら紫区画長と農業リング主任を見る。
「竹は農業リングでは育ててないなぁ。」
農業リング主任の後に紫区画長が続ける
「主任の仰るとおりです。でも…」
「紫区画の、この神社の周辺にだけ景観用として植えられています。」
ユノがまた手を挙げる。
「アーカイブによると、竹は成長が早く、強いため古来様々な材料に使われてきました。」
「そして、その芽は『たけのこ』と呼ばれ美味とされていました。」
農業リング主任が口を挟む
「いや、だがしかし……」
農業リング主任は腕を組んだ。
「竹は生命力が強すぎてな。」
「一度植えると地下茎を広く張り巡らし、増え続ける。」
「除去は極めて困難とされていた植物だ。」
「封鎖型コロニーで計画的に育てるには、リスクが大きすぎるんだ。」
「チリトリは工業側で、金属製で再現してみるか。」
そんなことを話していると。
建物の方から足音が聞こえた。
皆が振り返る。
先ほどの女性が。
こちらへ歩いてきていた。
だが。
さっきまでとは、
まるで別人のような姿だった。
掃除をしていた時の、簡素な袴姿ではない。
黒い烏帽子を戴き、 白い浄衣の上から、濃い紫の狩衣をまとっている。
狩衣には、上品な地模様が織り込まれ、
淡い紫色の袴が、その下から静かにのぞいていた。
長い紫色の髪は、
後ろで丁寧にまとめられ、
白い結び紐がそっと揺れている。
歩みを進めるたび、
ゆったりとした狩衣の袖と、
袴の裾が、静かに風を受けて揺れた。
その穏やかな立ち居振る舞いは、
先ほどまで境内を掃き清めていた女性とは思えないほど、
神職としての気品に満ちていた。
ミオは。
少し目を見開いた。
「……あ。」
女性は一行の前まで来ると。
静かに頭を下げた。
「お待たせいたしましたぁー。」
少しだけ笑った。
そして。
改めて一行を見る。
「この神社と農業リングの他3つの神社とエウロパ基地の神社。」
「今はNOAHの神社もお預かりしております。」
一礼する。
「宮司のシノ(紫乃) と申します。」
一行も頭を下げた。
ミオも少し遅れて頭を下げる。
「宮司さんだったんだ。」
ユノも小さな体を折るようにして丁寧にお辞儀をした。
シノはその様子を見て少し微笑んだ。
境内を歩きながらシノが言った。
「みなさんは、今日はどのようなご用向きで?」
紫区画長が言う。
「今日はチズル主任との農業計画の打ち合わせ。視察と銘打ったみなさんの紫区画の見学です。」
さぎりは言う。
「今日はなんかなりゆきでおばちゃんに着いてきたんだけど」
「この間、NOAHの神社にお参りして。」
少し考えて。
「挨拶したから。」
ミオを見る。
「いつかミオをヘスペリア3の神社に連れてきてみたかったの。」
「ああ。」
シノは微笑んだ。
「ありがとうございます。」
そして。
ゆっくり歩きながら続けた。
「NOAHの神社は、ここより小さいですが。」
「うん。」
「宿っている神様。」
少し間を置く。
「そして、それを信仰する人々の気持ちは変わりません。」
ミオは。
少しだけ振り返った。
鳥居の向こう。
遠くに広がる農業リングを見る。
それから。
もう一度、神社へ目を戻した。
「あ。」
さぎりが言った。
「そういえば。」
「はい?」
「そろそろ収穫祭なんですよね?」
「ええ。」
シノは頷いた。
「再来週、農業リング第3農業区の収穫祭です。」
「やっぱり。」
「私も楽しみです。」
シノは少し笑った。
「準備は忙しいですけど。」
「うん。」
さぎりが言った。
「私たちも来ますね。」
「はい。」
シノは丁寧に頭を下げた。
「お待ちしております。」
それから拝殿の方へ手を向けた。
「皆さんどうぞ、拝殿にお入りください。」
「ごきとーしましょーー♪」
一行はプッと吹き出しながらシノに案内され拝殿へ上がるために草履を脱ぐ。
モウブはその様子を横目に、忘れられていた箒とチリトリを片付け一行を追いかけた。
次回超展開です。お楽しみに!!




