第63章ーーさぎりの決心ーー
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食堂へ向かう一行。その最後尾を歩いていたモウブは、静かに前を見つめていた。
浴衣姿で歩く女性たち。色とりどりの美しい布地が、穏やかな風に揺れている。
――十年以上前から、モニター越しに映っていた、優しいさぎりさん。
――いつも笑顔で、僕たちの面倒を見てくれていたミオさん。
――ヘスペリア3を訪れるたび、温かく迎えてくれ、美味しい料理を振る舞ってくれた食堂のおばちゃん、チズルさん。
――いつもどこかで皆さんを支え、励ましてくれているハル主任。
――農業リング主任、そして紫区画長。
そして、ミオさんの肩の上では、自分が仕立てた小さな浴衣を身にまとったユノちゃんさんが、嬉しそうに辺りを見回している。
(僕が作った浴衣を、着てくれている……)
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
こんなにも優しくて、立派な人たちと。
「……僕、本当にこんな人たちと、一緒にいていいのかな……」
モウブは誰にも聞こえないほど小さな声で、ぽつりとつぶやいた。
その声を聞いたのか、ミオ、さぎり、そしてユノが自然とモウブのそばへ歩み寄った。
ユノは新しく仕立ててもらった浴衣を嬉しそうに見つめながら、にこにこと笑っている。
「モウブさん。」
「本当にありがとうございます。」
そう言って袖を広げて見せた。
「とても嬉しいです。」
その笑顔に、モウブも自然と頬を緩める。
「いえ……。」
「喜んでいただけてよかったです。」
さぎりも、その様子を見てくすりと笑った。
すると、ミオが少し声を潜める。
「ねえ。」
「あなた、お母さんエレラだよね?」
モウブは少し驚いたように目を瞬かせた。
「あ、はい。」
「そうです。」
ミオは嬉しそうに笑う。
「私のお母さんもエレラなの。」
「まあ、髪の色と目の色を見れば、だいたいわかるけどね。」
モウブは納得したように笑った。
「ああ……。」
「そういえば、そうですね。」
「じゃあ、ある意味、兄妹と言えるよね。」
「かもしれませんが。」
「て、訂正があります。」
「姉弟かと…」
ミオはちょっと驚きながら
「あ、ヘスペリア3との通信中に後ろでチョロチョロしてた子か!」
さぎりも
「言われて見れば覚えがある!!」」
「あ、はい。ミオさんがツインテールにした時に僕も真似して…」
「女の子だと思ってた!」
ミオは軽く肩をすくめる。
「ノアじゃ、よくある話だけどね。」
「知らない人同士が姉弟だったりするの。」
「そうですね。」
モウブもうなずいた。
そのときだった。
さぎりの頭の上に座っていたユノが、皆の髪を見回しながら指を折る。
「一、二、三、四、五本。」
さぎりが首をかしげた。
「え?」
「何の話?」
ユノは真面目な顔で答える。
「今ここには、テールが五本あります。」
一瞬の沈黙。
そしてミオが吹き出した。
「ほんとだ。」
さぎりも自分の髪へ手をやる。
「私のポニーテールで一本。」
「ミオのツインテールで二本。」
モウブも自分の髪を触りながら笑う。
「僕のツインテールで二本。」
「合わせて五本。」
四人は顔を見合わせ、一斉に笑い声を上げた。
笑いが落ち着くと、ミオは改めてモウブへ手を差し出す。
「ねえ、モウブ。」
「私のことは覚えておいてね。」
「私はミオ。」
モウブも笑顔でその手を握る。
「はい。」
「知ってます。」
「僕はモウブです。」
「よろしくお願いします。」
「ミオお姉さん。」
二人は笑顔で握手を交わした。
その様子を見ていたユノとさぎりも、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
さぎりは考えていた。
(さっきの一見家族に見えてた女の子の言ってた事といい)
(今のミオとモウブさんのやり取りといい)
(NOAHの家族関係って…)
ぐるぐると頭の中を巡っていた。
(でも、私はきっとミオと本当の家族になるんだ)
そう心に決めてた。




