第61章ーーヤツとの遭遇ーー
『ウホッ!♂だらけの男湯(普』
https://x.com/pochidayo
更新時には更新情報流しています!
よかったらフォローいただければフォロバします。
ハルと農業リング主任は男湯ののれんをくぐる前に振り返る。
「じゃあ、俺たちはこっちな。」
「お前たちも、ゆっくりしてこい。」
ハルと農業リング主任が男湯ののれんをくぐると、すでに先客がいるようだった。
湯船の方から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ハルは服を脱いでロッカーへしまい、小さなタオルを手に取ると洗い場へ向かった。
手早く体を洗い終え、シャワーを止めたその時だった。
「あれ?」
湯船に浸かっていた男性の一人がハルに気づき、声を上げる。
「ハル主任じゃないですか。」
「今日はどうしたんですか?」
ハルは軽く笑って答えた。
「ああ、ちょっと視察でな。」
「そうですか。」
「お疲れさまです。」
「ゆっくりしていってくださいね。」
農業リングや紫区画で働く職員たちだった。
ハルと農業リング主任も湯船へ入り、肩までゆっくりと湯に浸かる。
すると、数人が輪になって話している中に、一人知らないが見かけた事がある人物がいることに気づいた。
金髪のロングヘアの青年だった。
「あれ?」
ハルはその青年へ声をかける。
「君は、もしかしてノアの……?」
青年は少し驚き、姿勢を正した。
「あ、はい。」
「そうです。」
「ノアから来ました。」
「どうしてまた、紫区へ?」
青年は少し照れたように笑う。
「あ、はい。」
「ぼ、僕、ノアからヘスペリア3への移住を考えていまして。」
「きょ、今日は研修という形で、と、特別に紫区画へ入らせてもらっています。」
「こ、工場を見学したり、じ、実際の作業を体験させてもらったりしていました。」
「そうなのか。」
ハルがうなずくと、近くにいた農業リングの職員が話へ加わった。
「いや、このノアのお兄ちゃん。」
「えらく手先が器用でな。」
「最初は紫区画なら微生物研究なんか向いてるんじゃないかって話してたんだが……。」
別の職員が笑う。
「いやいや。」
「どちらかというと技術系だな。」
「保存パンに千個に一個くらいランダムで少し形の悪いパンが出来る事があってな」
「品質には全く問題ないけど、長年謎だったんだ。」
「その話をしたらこいつが。
『押し出し装置のクランクを制御しているギアの偏摩耗があやしいと思います』だと。」
「あとは、お前が説明してくれや。」
「あ、はい。こ、こういうたくさんの工程で動力をギアで伝えてる場合、ギア偏摩耗予防の為、めったに同じ状態で噛み合わない様に設計されてるはずです。」
「そこで、図面のデータを見させてもらい、そこにある二十数枚のギアのうち中間くらいの1枚と後半の1枚が他のギア同士より、やや頻繁に同じタイミングで大きな動力を受けてることがわかりました」
「その中間のギアは引っ張ってこねる工程、最後の方のギアが型から加工パンを押し出すクランクに使われていました。」
「何千回かに一度どちらかの摩耗が進んだギアが特に力が必要な作業のタイミングでの作業がかなさった際に、押出しの方のクランクの作動がスムースではなくなり、不均一なパンが出来るのではないかと。」
ハルは目を見開く。
「で、どうだったんだ。」
「こいつの指摘箇所の過去の整備記録を見ると」
「40年以上前から引っ張ってこねる工程に出力するギアの歯の一枚に公差内のわずかな歪み。」
「押出に出力するキアには、15年ほど前のメンテから一枚の歯に公差内の摩耗が多めの記録があった。」
「それを元にシミュレーションしたら。」
「今の少し整形がおかしいパンが、200年後には目立つくらい整形がおかしいパンがほぼランダムに出来るってさ。」
ハルは目を見開いた。
修理が必要なわけではない。
でも、十年以上まえから解らなかった謎が解けた。
今のメンテデータに『ランダムに出現する形のおかしいパンが出来る理由』が記させていれば
今後どこかで気になってしょうがないヤツが適切な処理をするだろう。
これは大きな財産だった。
♪パー……パバー、バー、バー。
(レーー、ミ、ドー、ドー、ソーー)
「すごいな。」
ハルがつぶやく。
周りの者たちも口々にうなずいた。
「そうだな。」
「器用だよ。」
ハルは興味深そうに青年を見る。
「ノアでは、もともと何をしていたんだ?」
青年は少し照れながら答えた。
「さ、裁縫です。」
「ノアのみんなが使っている衣類を管理していました。」
「洗濯に出された服に、ほつれや破れが見つかったら、それを縫って直す仕事です。」
ハルは感心したようにうなずく。
「なるほど。」
「確かに、それは細かい作業だな。」
少し間を置いて尋ねる。
「俺はハルだ。技術主任をしてる。名前を教えてくれるか。」
「また、ゆっくり話をしよう。」
青年は少しうれしそうに笑った。
「あ、はい。」
「ぼ、僕はモウブといいます。」
「モウブ君か。」
ハルは笑ってうなずく。
「わかった。」
「覚えておく。」
「とりあえず今日は、せっかくのお風呂なんだ。」
「仕事の話をして悪かったな。」
「ゆっくり楽しんでいってくれ。」
モウブはほっとしたように頭を下げた。
「あ、はい。」
「ありがとうございます。」
♪パー……パバー、バー、バー。
(レーー、ミ、ドー、ドー、ソーー)
その五音のフレーズは、ハルの頭の中へ、時折ふっと流れ込んでくる。




