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木星の雨音  作者: ぴいちゃん


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55/63

第55章ーー役得ーー

なんとなく、新しい展開に入ります!


https://x.com/pochidayo

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その日の仕事を終え、ハルとチズルは。


いつものように自宅で湯飲みを片手にお茶をすすっていた。


ハルがふと思い出したように口を開く。


「リンはどうだ?」


「まだ、調理場内で調理員との食事だけだけど。」


「全く問題ないよ。面白いのはどんどん愛想が良くなってくところだね。」


「こないだはサンドイッチを簡単にすごく美味しくしてくれてね。」


「ああ!さぎりが工房に持ってきてくれたやつか!あれは美味かった!」


「ええ。本当に。」


チズルはお茶をすすり、ニッコリとした。


「なあ、そういえばお前、明日は食堂を留守にするんだってな。」


チズルは湯飲みを置き、小さくうなずく。


「ああ。リンちゃんがユノちゃんに伝えてくれたみたいだね。」


「明日は農業リングの視察が入っちゃってね。」


「今年は豊作だから、その収穫や配分の打ち合わせさ。」


「なるほどな。」


ハルは納得したようにうなずいた。


「大変だな。頑張ってこい。」


「ありがとう。」


少し間が空き、チズルが何か思いついたように顔を上げた。


「あ、そういえば……。」


「さぎりちゃんとミオちゃん、それにユノちゃんって、農業リングの紫区画は見たことないわよね?」


「ああ。多分」


ハルもうなずく。


「あそこは一般の住民が入ることはほとんどないからな。」


チズルは腕を組みながら考え込む。


「本当はリンちゃんも連れて行きたいところなんだけど……。」


ハルが言う。


「ユノなら問題ないだろ。」


「リンとデータは共有してる。」


「向こうで見聞きしたことは、そのままリンにもアーカイブのユノも伝えられる。」


「そうだったね。」


チズルはにっこり笑った。


「じゃあお願い。」


「ユノちゃんたちに連絡してもらえるかい?」


「明日、私と一緒に農業リングの紫区画を見学しないかって。」


ハルも笑ってうなずいた。


「ああ。きっと三人とも喜ぶさ。」


ハルはテーブルの端に置いてあった端末を手に取った。


「今、連絡を入れる。」


短くメッセージを打ち始める。


『明日の集合は? 何時にどこだ?』


すぐにチズルが答える。


「朝六時。中央区画の農業エレベーター前でお願い。」


ハルはうなずき、端末を操作する。


「よし。送った。」


しばらくすると、返信を待つまでもなくハルは笑った。


「たぶん、あいつらなら来るな。」


「あ、俺も1~2時間ほど遅くなるが行ってもいいか?」


チズルも湯飲みを手に取り、小さく笑う。


「ふふっ。賑やかになりそうだね。」


翌朝、午前六時少し前。


中央区画の農業エレベーター前では、一人の女性が静かに待っていた。


ほどなくして、ミオ、さぎり、ユノが慌てた様子で駆けてくる。


「間に合ったよね?」


さぎりが辺りを見回す。


「あれ? ハル主任は?」


ユノも周囲を見渡した。


「まだ、お見えになっていないようですね。」


その時、立っていた女性がにこりと笑って声を掛けた。


「おっ、おはよう。待ってたよ。」


三人は声のした方を向く。


「……え?」


そこに立っていたのは、栗色のロングヘアーを揺らし、普段着に身を包んだ女性だった。

挿絵(By みてみん)

一瞬、誰だか分からない。


さぎりが目を丸くする。


「えっ……おば……。」


言いかけて慌てて言い直す。


「チズル主任?」


チズルは思わず吹き出した。


「ははっ。」


「主任なんて呼ばなくていいよ。」


「いつも通り、おばちゃんで。」


その一言に、三人は顔を見合わせ、思わず笑顔になった。


チズルは三人を見回し、にっこりと笑った。


「今日はね、紫区画に用事があるんだ。」


「せっかくだから、あんたたちにも見せてあげようと思ってさ。」


紫区画。


そこは農業リングの中でも、一般の住民が立ち入る機会がほとんどない特別な区画だった。


発酵設備や食品加工工場が集まり、衛生管理と検疫が最優先される場所である。


農業リングの各区画は、通常時は青色で表示される。


設備異常や検疫上の問題が発生すると赤色へ切り替わる。


しかし、紫区画だけは例外だった。


常に紫色で表示され、透明アルミニウム製の隔壁によって他の区画と完全に仕切られている。


さぎりが思い出したように言った。


「確か紫区画って、加工工場とか発酵工場があるところだよね。」


「うん。その通り。」


チズルはうなずいた。


「だから検疫も結構厳しいんだ。」


「このエレベーターの中でも、いろいろ検査や除菌が行われるし、向こうへ着いてからも三十分くらいは検査や待機が続くよ。」


「そんなに?」


ミオが思わず目を丸くする。


「菌を扱う場所だからね。」


チズルは優しく笑う。


「万が一にも、外から余計な菌を持ち込むわけにはいかないんだ。」


「持ち出すわけにもいかない。」」


そしてユノへ視線を向けた。


「本当はリンちゃんにも見せてあげたいところなんだけどね。」


「ユノちゃんが来てくれれば、リンちゃんへのフィードバックにもなるんだろう?」


ユノは小さく頭を下げた。


「はい。その通りです。」


「私が見聞きした内容は、すべてリンと共有されます。」


少し間を置いて微笑む。


「リンも、『勉強させていただきます』と言っています。」


その言葉に、チズルは満足そうにうなずいた。


「よし。それじゃあ、行こうか。」


エレベーター内での除菌と検疫を終えた一行は、紫区画へ到着した。


しかし、それで終わりではなかった。


一行は、そのまま紫区画専用の検疫所へ案内される。


改めて健康状態の確認、衣服のチェック、除菌処理、持ち込み品の確認が行われた。


およそ三十分。


ここで問題になる者は、ほとんどいない。


それでも、この工程だけは決して省略されることはなかった。


食を支える場所だからこそ、安全には一切の妥協をしない。


それが紫区画の決まりだった。


やがて最後の扉が静かに開く。


「検疫終了です。」


一行は、ゆっくりと紫区画へ足を踏み入れた。


そこには、一人の女性が待っていた。


紫色の作業着に身を包み、肩口には紫色の区画章が付けられている。


女性は穏やかな笑顔で頭を下げた。


「ようこそ、お待ちしておりました。」


「チズルさん。」


チズルも軽く頭を下げる。


「朝早くから悪いね。」


女性は微笑みながら三人へ視線を向けた。


「ミオさん、さぎりさん、それからユノさんですね。」


「ハル主任から事前に連絡をいただいております。」

挿絵(By みてみん)

「チズルさんからの見学許可も確認済みです。」


「ようこそ、紫区画へ。」


さぎりは思わず周囲を見回した。


「ここが……紫区画。」


普段の農業リングとはどこか空気まで違って感じられた。


検疫所を出ると、ホームには一編成のトラムが静かに停車していた。


ミオは思わず目を丸くする。


「あれ?」


「居住区のトラムと違う。」


農業区画で運用されているトラムは、居住区画のものとは大きく様子が異なっていた。


三両編成であることは同じだったが、前方の一両だけが居住区画で見慣れた客車になっている。


しかし、その後ろに連なる二両には車体らしい車体がなかった。


あるのは低い台車だけ。


その上にはコンテナや荷台をそのまま載せられるよう、平らな荷台が設けられている。

挿絵(By みてみん)

ミオが興味深そうに眺める。


「貨物列車なんですね。」


区画長が微笑みながら説明した。


「ええ。でも、人も乗れるようにしてあるんです。


「きゃかきゅぎゃ、、貨客型編成車両です。」


区画長が少し噛みながらいう。


「紫区画では、人よりも荷物を運ぶことの方がずっと多いですから。」


「収穫した農作物、発酵前の原料、加工品、資材……。」


「運ぶものは毎日たくさんあります。」


チズルもうなずく。


「人だけを運ぶ列車じゃ、効率が悪いからね。」


「必要な時だけ荷物を積み替えれば、そのまま工場や倉庫まで運べる。」


ユノは小さく感心したようにつぶやく。


「輸送効率を優先した設計ですね。」


「はい。」


区画長は笑顔でうなずいた。


「この農業リングらしいトラムなんですよ。」


区画長はホームの先を指さした。


「それと、もう一つ。」


「居住リングや工業リング…全周58km。幅2kmでは問題が起きない限り、上空15mあたりに隔壁があるのですが。」


「農業リングは作物の適正温度や湿度ごとに。」


「常に3区画が透明アルミニウムで区切られています。」


「この紫区画の3kmは、特に厳重に常に隔てられています。」


さぎりはホームの先を見る。


見えないが線路の向こうには透明な隔壁が降りているという。


「ここから100mくらいにありますが。見えませんよね。」


「居住リング、工業リングだと滅多に触れないでしょうから行ってみましょう。」


4人はお姉さんが指さした方に歩く。


「その足元の線の50cm先が隔壁です」


その線で立ち止まる。


「見えない。」


「見えないね。」


「見えません。」


そして、そっと手を伸ばした先には確かに壁があった。

挿絵(By みてみん)


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