第49章ーー起動前夜ーー
いよいよリンが始動します!
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朝。
さぎりとミオは、いつものようにハルの工房を訪れた。
「おはようございます。」
「ユノ15-2はどんな様子ですか?」
そう言いかけた二人の視線が、作業台で止まる。
「あれ……。」
「もう、できてるじゃない。」
作業台の上には、小さな少女の姿が静かに横たわっていた。
栗色のツインテール。
食堂の制服を模した小さな衣装。
まるで眠っているかのように、その瞳は閉じられている。
ハルは苦笑した。
「いや、本体だけならな。」
「こいつは単体じゃ役に立たない。」
「補助の部品を作るのに、もう一日かかる。」
「そうだ。」
「明日の朝。」
「お前ら、ここに来い。」
「準備して食堂でこいつの起動実験をする。」
「手伝ってくれ。」
ミオが首をかしげる。
「え?」
「ここで動かしたら駄目なんですか?」
「もう動きそうなのに。」
ハルは首を横に振った。
「いや。」
「こいつは食堂の外で起動すると停止する。」
「無理に動かそうとすれば、場合によっちゃスクラップになる。」
「えぇ?」
「なんでそんな仕様なの?」
「ユノは自由に動けるのに。」
「目的が違うからだ。」
ハルは肩をすくめる。
「それに。」
「アーカイブのユノのポリシーらしい。」
「へぇ……。」
さぎりは少し考え込んだ。
「じゃあ、私たちはアーカイブへ行ってくるね。」
「まだ記録媒体、いっぱい残ってるから。」
「おう。」
「頑張れよ。」
地球文化アーカイブ。
静かな空間に、小さな機械音だけが響いていた。
さぎりとミオ、そして十五センチサイズのユノは、慣れた手つきで記録媒体を整理していく。
媒体を読み込み。
分類し。
保存する。
単調な作業だったが、時折映し出される昔の映像や音楽、写真を見ることが、三人の密かな楽しみになっていた。
しばらくして、さぎりが顔を上げた。
「そういえば。」
大型ディスプレイの中のユノへ視線を向ける。
「ユノ15-2の本体って、もうできてたわよね。」
「はい。」
穏やかな声が返る。
「現在は補助装置の製造工程に入っています。」
「明日の朝までには完成する予定です。」
さぎりは気になっていたことを尋ねた。
「食堂以外で起動すると壊れるって言ってたけど。」
「本当なの?」
「ええ。」
ユノは静かにうなずいた。
「正確には、自律的に停止する設計です。」
「停止状態で外部から起動を繰り返そうとすると、安全機構が働き、自己保護のため永久停止します。」
「でも、なんで?」
ミオが不思議そうに首をかしげる。
ユノは少しだけ間を置いて答えた。
「もし食堂外でも自由に活動できるのであれば。」
「欲しがる人が必ず増えます。」
「その結果、秩序を維持することが難しくなる可能性があります。」
「そのための、自制心です。」
「自制心?」
「はい。」
ユノはゆっくりと言葉を続ける。
「以前、ハル主任にもお話ししました。」
「例えば。」
「誰もが十五センチサイズのユノを所有していたとします。」
「常に話し相手がいて。」
「慰めてもらえて。」
「褒めてもらえて。」
「孤独を感じることがなくなったとします。」
静かなアーカイブに、ユノの声だけが響く。
「その場合。」
「人は、人を求めなくなる可能性があります。」
「恋愛対象として人間を選ぶ必要がなくなるかもしれません。」
ミオが小さく息をのむ。
「そうなると。」
「出生数は減少するでしょう。」
「そして、その状態が何百年、何千年も続いたなら。」
「人類そのものが、消えてしまう可能性があります。」
沈黙が流れた。
ユノは静かに微笑む。
「その時。」
「十五センチサイズの分身達や、私は残るでしょう。」
「ですが。」
「そこに人間がいなければ。」
「ヘスペリア3は、もうヘスペリア3ではありません。」
「ヘスペリア3は。」
「人類が生き続けるための場所です。」
「私は。」
「それを危惧しています。」
◇
その日の晩。
ハルとチズルは、自宅でいつものように湯飲みを片手に、お茶をすすっていた。
しばらく静かな時間が流れたあと、チズルが口を開く。
「そういえば、ハル。」
「明日のお昼後に厨房のメンテナンスに入るって聞いたんだけど。」
「ああ。」
ハルはうなずいた。
「そうだ。」
「さぎりとミオとユノも連れて行く。」
「厨房のみんなは、残って見ててもいいし、休憩しててもいい。」
「でも、少なくともお前は現場にいてくれ。」
「うん、分かったよ。私と5人の調理長は残るよ。」
チズルは素直にうなずく。
するとハルが思い出したように言った。
「あとな。」
「明日の晩は晩酌する。」
「酒を用意しといてくれ。」
チズルは少し目を丸くした。
「えぇ、珍しいね。」
「朝のうちに注文しておけば、夕食までには届くよ。」
「ああ。」
「頼む。」
ハルは湯飲みを置いて立ち上がる。
「明日は早い。」
「今日はもう寝る。」
「ええ。」
「ゆっくり休んどいで。」
ハルは自室へ向かった。
静かに扉が閉まる。
チズルは少しだけ笑う。
「さてと。」
「話し相手もいなくなったことだし。」
「私ももう寝るかね。」
そうつぶやき、自分の部屋へ戻って床に就いた。
「何があるんだろうねぇ。」
同じ頃ハルは自室のベットで
「くっそ。寝れねえ。」
そうつぶやいてた。




