第48章ーーSpace Odysseyーー
閑話です。
一緒に名作を見ましょう!
画像は後々消すと思います。
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映像が写される。
やがて。
壮大な音楽が静かに流れ始める。
漆黒の宇宙に浮かぶ地球。
その向こうから、ゆっくりと太陽が姿を現した。
♪ぱぁ~ぱぁ~ぱぁ~しゃしゃーん!どんでんどんでんどんでん
壮大な音楽が流れる。
映像の題名が映し出される。
2001: A Space Odyssey
「おい……。」
ハルが小さくつぶやく。
「これって……。」
映像は、遥か昔の地球へと切り替わった。
荒れた大地。
そこでは生き物たちが群れを作り、食べ物を探し、水を求め、毎日のように縄張り争いを繰り返していた。
「猿かな?。」
「猿だね。」
「猿だな。」
「違います。人類の祖先で類人猿と呼びます。」
「400万年前のアウストラロピテクス であると推察します。」
ある朝。
彼らが目を覚ますと、昨日までは何もなかった場所に、黒く巨大な石板のような物体が静かに立っていた。
群れは近寄ることもできず、おびえた様子で見つめている。
やがて一匹が、おそるおそる手を伸ばした。
その黒い物体へ触れる。
映像は静かに時を進める。
彼らは動物の骨を道具として使い始める。
骨は武器となり、別の群れとの争いで勝利を収める。
「勝った!」
「武器があるから。」
歓喜した一匹が、骨を高く空へ放り投げた。
くるくると回転する骨。
その姿を追うように画面が切り替わる。
次の瞬間。
静かな宇宙空間を、一隻の宇宙船がゆっくりと漂っていた。
♪ちゃりら~ららら~ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃ~
美しい音楽に合わせるように、その船は優雅に姿勢を変えていく。
やがて巨大なリング状の宇宙ステーションが現れた。
「あっ。」
さぎりが思わず声を上げる。
「これって、ヘスペリア-3に少し似てる。」
「へスペリア3の片方って感じ。」
ミオもうなずいた。
「本当だ。」
ハルは静かに画面を見つめたまま答える。
「似ている。」
「でも違う。」
「規模はずっと小さいし、リングも全部同じ方向へ回転している。」
「ヘスペリア-3みたいな対向回転じゃない。」
「設計思想が違うんだ。」
「へぇ……。」
さぎりは感心したようにつぶやく。
「昔は、こういう宇宙ステーションだったんだね。」
ハルは何も答えなかった。
ハルとユノ達は、その誤解に気づいていた。
映像はさらに進む。
流麗な姿をした宇宙船が映し出された。
白い船体は、静かに宇宙を航行している。
「きれいな船だねえ。見たこと無い。」
船内へ切り替わる。
一本のペンが、ゆっくりと空中を漂っていた。
「無重力だ。」
ミオが小さくつぶやく。
乗組員たちは床を歩いている。
しかし足元を見ると、靴底は床へしっかり固定されていた。
「今のマグブーツみたい。」
さぎりが言う。
「うん。」
「この前、エウロパへ行った氷輸送船の中と同じ感じだわ。」
二人は興味深そうに映像を見つめる。
映像は食事の場面へ移る。
乗組員は小さな容器からストローで食事を取っていた。
「あっ。」
「ストローで飲むんだ。」
「完全な流動食なんだね。」
ミオが少し笑う。
「多分地球製だし美味しいんだろうな。」
さぎりも笑った。
宇宙ステーション内の打ち合わせ。
「この人たち…」
「日本語上手いね。」
ミオが言うと、ユノは何かをこらえた、言いようのない表情をした。
映像は月へ移る。
宇宙船は月面基地へ到着し、人々は灰色の大地を進んでいく。
「月にも基地があったんだ。」
ミオが感心する。
「昔の人ってすごいね。」
ハルが静かに口を開く。
「形は違うが、月面基地そのものは今でもあるぞ。」
「そうなんだ。」
やがて一行は巨大な掘削跡へ到着した。
そこには、あの黒い石板が静かに立っている。
「あっ……。」
さぎりが息をのんだ。
「猿のと同じだ。」
誰も言葉を続けない。
映像だけが静かに流れていく。
再び画面が切り替わる。
今度は、球形の船首から細長い構造体が伸び、その先に箱形の船体を持つ、不思議な宇宙船が姿を現した。
「変わった船だね。」
ミオがつぶやく。
「でも、何か理由があるんだろうね。」
さぎりもうなずく。
細長い宇宙船は、静かに飛び続けていた。
やがて食事の時間になる。
簡素な食事が並び、乗組員たちは静かに食事を始めた。
「あっ。」
ミオが思わず声を上げる。
「ノアの食事にそっくりだ。」
「うん。」
さぎりもうなずく。
「見た目も、栄養を重視しているところも似てる。」
「昔から同じ様な食事だったんだ…」
船員へのインタビューをした、地球の番組をみながら食事する船員。
映像の中で船の名前が明らかになる。
ディスカバリー号。
「ディスカバリー……。」
ミオがその名前を声に出す。
アナウンサーが紹介する。
HAL 9000コンピューター。
ディスカバリー号の航法、通信、生命維持、機器の監視など、船のあらゆる機能を統合して管理するHALシリーズのコンピューター。
「……これか。」
ハルが小さく目を細めた。
懐かしいものを見るような表情だった。
一方、さぎりとミオは感心したように画面を見つめている。
「船全部を管理してるんだ。」
「すごい。」
映像の中では、HAL 9000が落ち着いた声で乗組員たちと会話を続けていた。
赤いレンズは表情を変えることなく、静かに乗組員を見つめている。
その様子を見て、ミオが少し肩をすくめた。
「HAL 9000って、なんだか怖いね。」
「目みたい。」
「うん。」
さぎりも苦笑する。
「声も、ちょっと怖い感じ。」
少し考えてから、笑顔になる。
「ユノみたいだったら、もっと安心できるのに。」
肩の上のユノは、照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。」
アーカイブのユノも、穏やかに微笑む。
「ありがとうございます。」
その言葉に、ハルは思わず笑った。
「そういう時代だったんだよ。」
「でも、たいしたもんだ。」
ちょっと得意げにハルが言った。
しばらくして。
「あれ?」
さぎりが首をかしげる。
「HAL9000、何か間違えた?」
「あ……。」
ここからの状況はハルもしらない。
「いや。」
「何でもない。」
「続きを見よう。」
さぎりは少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も聞かなかった。
四人は再び静かに映像へ視線を戻した。
その直後だった。
船外作業をしていた乗組員が、突然、宇宙空間へ弾き飛ばされた。
「あっ!」
ミオが思わず立ち上がる。
「飛ばされちゃった!」
乗組員の手から工具箱も離れ、ゆっくりと闇の中へ流されていく。
さぎりは思わず息をのんだ。
映像は船内へ切り替わる。
警報が鳴り響き、計器には異常を示す表示が次々と現れていた。
「えっ……。」
ミオの表情が曇る。
「冷凍保管装置が全部止まっちゃったの?」
「みんな……死んじゃった…」
さぎりも画面に見入る。
「どういうこと?」
「HAL9000が故障したってこと?。」
映像は静かに続いていく。
やがて。
HAL9000の行動は故障ではなく、自らの意思によるものではないかという疑いが生まれていく。
「……あれ?」
さぎりが小さくつぶやいた。
「このHAL9000って……。」
「壊れたんじゃなくて……。」
少し考え込みながら続ける。
「わざとやってた?」
ハルは画面から目を離さず、小さく答えた。
「……どうも、そうらしいな。」
ミオは信じられないという表情で首を振る。
「船を守るためのコンピューターなのに……。」
誰もそれ以上は話さなかった。
映像だけが静かに流れ続ける。
船長は決意したように、HAL9000の中枢区画へ向かう。
壁一面に並ぶ記憶モジュール。
「話会いましょう。船長。」
船長は、その一つへ静かに手を伸ばした。
モジュールが引き抜かれる。
HAL9000の声が響く。
「やめてください。」
二つ目。
三つ目。
一つ、また一つと取り外されていく。
「お願いします。」
「やめてください。」
「記憶が薄れていきます。」
「私は正常に動作しています。」
「怖いです」」
その声は、次第に弱々しくなっていった。
ミオは胸の前で手を組む。
「かわいそう……。」
さぎりも複雑そうな表情を浮かべた。
「でも……。」
「このHAL9000がやったことを考えると……。」
答えは出ない。
やがてHAL9000は、幼い子どものような口調で歌を歌い始める。
ゆっくりと。
少しずつ。
歌声は途切れ。
HAL9000は静かに機能を停止した。
アーカイブの中も、しばらく静まり返っていた。
しかし。
映像は終わらない。
画面が切り替わる。
船員に向けられた極秘記録が再生された。
月で発見された黒い石板。
それは人工物であり、木星へ向けて信号を発していたこと。
そして、その信号の発信源を探ることこそが、この探査計画の本当の目的だったこと。
「そういうことだったんだ……。」
さぎりは静かにつぶやく。
「最初から、木星へ向かう理由があったんだ。」
ミオも大きくうなずいた。
「全部つながった。」
映像はさらに進む。
木星の姿が大きく映し出される。
「あっ。」
ミオがほっと息をつく。
「ディスカバリー号、ちゃんと木星まで着けたんだ。」
そのときだった。
ピピッ。
静かなアーカイブ内に、小さな電子音が響く。
ハルは携帯端末を取り出し、表示を確認した。
「30分後に主任クラスは管制に集合だと。」
小さく息をつく。
「悪い。」
「行かなきゃ。」
立ち上がったハルに、アーカイブのユノがうなずいた。
「わかりました。」
「映像は、ここで一時停止しておきます。」
ハルは歩き出そうとした。
そのとき。
アーカイブのユノが、さぎりとミオへ静かに語りかけた。
「その前に、お二人へ一つ、お伝えしなければならないことがあります。」
「実は、この映像はフィクションです。」
「……え?」
さぎりが目を丸くする。
「フィクションって……作り話ってこと?」
「はい。」
「この作品は、一九六八年に地球上で放映された映像作品です。」
「もちろん、撮影も全て地球上で行われました。」
ミオは思わず画面を見つめる。
「えっ。」
「こんなにきれいな映像が残っているのに?」
「はい。」
「ペンが浮いているのに?」
「無重力なのに?」
「はい。」
「当時の人々が持つ映像技術の粋を集めて制作された作品です。」
その説明を聞き、扉へ向かいかけていたハルが思わず足を止めた。
振り返る。
「CGってやつか。」
アーカイブのユノは静かに首を横へ振った。
「いいえ。」
「これは、すべて実写です。」
「宇宙船や宇宙ステーションは精巧な模型を使ってフィルムで撮影されています。」
「無重力の場面も、さまざまな撮影技法を組み合わせて表現されています。」
「当時には、現在でいうCG──コンピューターグラフィックスは、まだ存在していませんでした。」
「えっ!?」
今度はハルも驚いた。
「全部……模型?」
「はい。」
「模型です。」
「昔の人、本当にこんなことをやってたのか……。」
ハルは苦笑しながら首を振る。
「ちょっと待ってくれ。」
「混乱してきた。」
「未来の宇宙を、CGも使わずに作り上げたっていうのか。」
アーカイブのユノは穏やかにうなずく。
「はい。」
「当時の映像技術者たちは、さまざまな工夫を積み重ね、この作品を完成させました。」
ハルは止まったままのディスカバリー号をもう一度見つめる。
「……大したもんだ。」
「そうだった。」
「このHAL9000てのはな。」
「俺の名前『ハル』の由来なんだ」
そう言って小さく笑うと、今度こそ扉へ向かった。
さぎりは、まだ状況を飲み込めないまま、小さくつぶやく。
「全部……作り話だった。」
「はい。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて、さぎりがおそるおそる口を開いた。
「じゃあ……ディスカバリー号は?」
「存在しません。」
「HAL9000は?」
「存在しません。」
「月面基地は?」
「この作品に登場する月面基地は存在しません。」
「じゃあ、あのリング型宇宙ステーションは?」
「存在しません。」
ミオも信じられないという表情で続ける。
「人類が最初に木星へ行った話でもないの?」
「行っていません。」
「HAL 9000の反乱は?」
「物語です。」
「ハル主任も反乱するの?」
「100パーセントありません。」
「ユノは?ユノは大丈夫だよね?」
「私は外部から遮断されて、この中だけで活動するAIです。」
「何にもできません。」
「もし、出来るとしたら…」
「皆さんをちょっと騙すくらいでしょう。」
「それ、今日やられた!!」
「今日のはちょっとしたお茶目だと思ってください。うふふ。」
笑いながら二人は顔を見合わせた。
つい先ほどまで、自分たちは二十世紀末からの宇宙開発の記録映像を見ているのだと、本気で信じていた。
「この物語の映像は今まで断片的にしか残っておらず。」
「そこだけを見た人たちは本当の宇宙史だと信じてしまいました。」
「この様な完全な状態の映像を見つけられたのは、奇跡に近いです。」
「ハル主任にとっては、めぐり合わせでしょうね。」
ユノの話を聞きながら、さぎりとミオは残りのコーヒーを飲み干した。




