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木星の雨音  作者: ぴいちゃん


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43/62

第43章ーー発掘ーー

https://x.com/pochidayo

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エウロパから戻って、数日が経った。


その朝。


居住区のさぎりの家の外が、妙に騒がしかった。


人の声。


何かを運ぶ音。


笑い声。


時折、子供が走っていく足音まで聞こえる。


ミオが窓の外を覗いた。


「何かあるの?」


「ん?」


さぎりも、その横から外を見る。


「あ。」


さぎりが言った。


「今日、フリーマーケットだ。」


ミオが振り返る。


「フリーマーケット?」


「うん。」


「何、それ。」


「えっとね。」


さぎりは少し考えた。


「ガラクタ市?」


ユノが顔を上げた。


「違うと思います。」


「……違うね。」


さぎりは言い直した。


「不要になった私物を、他の人に使ってもらおうっていう……お祭り?」


「お祭りなんですか?」


ユノが聞く。


「違う。」


「では、何ですか。」


「イベント。」


「最初からそう言えばよかったのでは?」


「今、思いついたの。」


ミオは、もう一度窓の外を見た。


「いらない物を、他の人に?」


「そう。」


さぎりも外を見る。


「掘り出し物があるかもしれないから、行ってみよう。」


「掘るの?」


「掘らない。」


「でも、掘り出し物って。」


「行けば分かる。」


三人は部屋を出た。


住宅街と商店街の間にある公園。


普段なら。


子供が遊んでいたり。


買い物帰りの人が、ベンチに座っていたりする場所だ。


けれど。


公園へ着くと。


ミオは上を見上げて目を細める。


「上になにかあるような…。」


「あれはね、隔壁。」


さぎりが答える


「説明すると長くなるから、また今度ね。」


「早くいこう。」


今日は朝から、ずいぶん人が集まっていた。


NOAHの人たちもいた。


「あ、ツインテールの人」


さぎりが言った。


ミオが、その先を見る。


少し離れたところに。


ツインテールの男性がいた。


その近くには。


同じように髪を二つに結んだ女の子もいた。


ミオがさぎりを見る。


「……どっち?」


「男の人。」


「やっぱり。」


ミオが笑う。


ユノが言った。


「現時点では、髪型のみを用いた呼称は識別精度に問題があります。」


「そこ、真面目に考えるんだ。」


会場。


そこは。


思っていたより、ずっと賑やかだった。


通路の両側に敷物が並び。


簡単な折り畳み机が置かれ。


その上に。


ありとあらゆる物が並んでいる。


服。


食器。


工具。


玩具。


本。


調理器具。


使いかけの文房具。


何に使うのか分からない部品。


よく分からない置物。


さらに。


どう見ても壊れている何か。


子供服の横に。


古い照明。


その隣には。


交換部品。


読み終えた本。


手作りの小物。


欠けた食器。


片方しかない手袋。


さぎりが足を止めた。


「……あれ、誰が買うんだろ。」


ユノが視線を向ける。


「片方だけでも需要がある可能性はあります。」


「どんな需要?」


「片方だけ必要な人です。」


「そうだね。」


ミオは。


きょろきょろと周囲を見回していた。


珍しいらしい。


店を覗いては立ち止まり。


また次へ行く。


時々、手に取る。


戻す。


また戻って、もう一度見る。


「ミオ。」


「何?」


「気になるなら貰えば?」


「まだ分からない。」


「何が?」


「フリーマーケット。」


「……そこから?」


そんなふうに。


三人で公園の奥まで歩いた時だった。


ミオが。


突然、止まった。


「……え。」


公園の端。


一枚の古い敷物の上に。


箱が置かれていた。


大きな箱が二つ。


その周りにも、小さな物が無造作に並べられている。


欠けたカップ。


色の抜けた布。


片腕のない人形。


古い端末。


いろいろな種類の古い記憶媒体。


何かの識別札。


錆びた留め具。


歪んだ容器。


どれも。


どう見ても。


ガラクタだった。


売っていたのは、NOAHの服を着た一人の老人だった。


椅子に腰掛け。


通り過ぎる人を、ぼんやり眺めている。


ミオが。


ゆっくり近づいた。


一つ。


手に取る。


小さなカップだった。


縁が欠けている。


底には、消えかけた文字があった。


ミオの顔が変わった。


次に。


古い布を持ち上げる。


そして。


識別札。


壊れた玩具。


その横で。


ユノが止まった。


古い端末。


その周囲に積まれた。


いろいろな種類の古い記憶媒体。


形も。


大きさも。


規格も違う。


ユノは。


しばらく、それを見ていた。


そして。


言った。


「私は、これが欲しいです。」


さぎりがユノを見る。


「え?」


ユノは。


古い端末と。


その周囲に積まれた記憶媒体を指した。


「これらです。」

挿絵(By みてみん)

「端末も?」


「はい。」


「記憶媒体も?」


「はい。」


「全部?」


「はい。」


さぎりは。


ユノを見る。


「珍しいね。」


「何がですか?」


「ユノが、欲しいって言うの。」


ユノは。


もう一度。


古い端末を見る。


傷だらけの筐体。


変色した表示面。


何世代も前の接続部。


その周囲には。


形も。


規格も違う記憶媒体が積まれている。


「私は、これらが欲しいです。」


老人が言った。


「ガラクタだよ。」


ユノは答えなかった。


老人は。


ミオの持つカップと。


ユノが見つめる端末を見た。


「NOAHから持ってきたんだけどね。」


「向こうでも、ずっと捨てられなくてな。」


老人は笑った。


「移民申請も出したし。」


「こっちへ来たなら、部屋もちゃんとしてるし。」


「もう、いらないし。」


「引っ越し前の大掃除だ。」


ミオが。


傷だらけの識別札を裏返した。


そこに。


古い刻印が残っていた。


さぎりが覗き込む。


「……これ。200年以上前だ…」


ミオは次の物を取った。


布。


カップ。


壊れた人形。


「ミオ?」


さぎりが呼ぶ。


ミオは。


老人を見た。


「これ。」


ミオは、敷物の上を指した。


「全部、欲しいです。」


ユノも言う


「端末と記憶媒体は私のものです。」


老人が瞬きをした。


さぎりも。


「全部?」


「うん。」


「ミオ。」


「これは、ガラクタじゃない。」


ミオは言った。


「全部、NOAHで使ってた物です。」


老人が笑う。


「だから、古いんだよ。」


「違います。」


ミオは。


今度は、はっきり言った。


「古いんじゃないです。」


そして。


傷だらけのカップを持ち上げた。


「二百年以上、一緒に来たんです。」


さぎりは。


何も言わなかった。


その横で。


ユノが、静かに敷物の上を見ていた。


欠けたカップ。


古い布。


壊れた玩具。


古い端末。


いろいろな種類の古い記憶媒体。


どれも。


歴史の本には載らない。


航海記録にも。


船長日誌にも。


公式記録にも。


おそらく。


残らない。


けれど。


誰かが使った。


誰かが持っていた。


誰かが捨てられずに。


二百年以上。


NOAHの中を運んできた。


さぎりが。


しゃがみ込んだ。


「ユノ。」


「はい。」


「これ。」


「はい。」


ユノは答えた。


そして。


少しだけ間を置いた。


「地球記録保管庫で、確認する価値があります。」


老人が、三人を見る。


「そんな大層な物じゃないよ。」


ミオが。


首を振った。


「大層じゃないから、残したいんです。」


老人は。


「これで店じまいだな。」


「運ぶのを手伝うよ。」


ひとまず、3人で荷物をさぎりの家へ運ぶ。


「捨てるに捨てられない物だったんだ。」


「貰ってくれてあリがとう。」


そう言って老人はNOAHへ帰っていった。


捨てられなかった物たち。


そして。


捨てられなかったからこそ。


地球から200年以上かけて木星まで辿り着いた物たちだった。


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