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木星の雨音  作者: ぴいちゃん


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42/64

第42章ーーリンの息吹きーー

https://x.com/pochidayo

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エウロパからの帰還の翌日。


工房には、工具の触れ合う小さな音が続いていた。


ハルは作業台に向かい、分解した循環ポンプの制御部を調べていた。


古い部品だった。


交換してしまえば早い。


だが、まだ使える。


ハルは細い工具の先で接点を整え、端末に表示された数値を確認する。


「……これで、まだまだ使えるな。」


その時。


ユノが静かに微笑んだ。


「お待たせしました。」


ハルは手を止める。


「リンの設計が完了しました。」


ハルはユノへ顔を向けた。

挿絵(By みてみん)

「ありがとう。」


「いいえ。」


「必要な部品と素材をリストにまとめました。ご確認ください。」


ハルは端末を受け取り、一覧を眺める。


必要な素材。


精密センサー、味覚分析ユニット、嗅覚センサー、咀嚼機構、嚥下解析ユニット、消化シミュレーションモジュール、人工筋肉、外装素材……。


立体造形機は必要素材を放り込めば選別し。


原料としてこれらのユニットを作成してくれる。


思わず口元が緩む。


「ずいぶん増えたな。」


「リンは、食文化を理解するための端末です。現在稼働中の十五センチユノより、内部構造はかなり複雑になります。」


「よし。」


ハルは立ち上がった。


「材料を集めよう。」


ハルは工房内。


整備区画の各部署を回って素材を集める。


ハルの人徳のおかげか。


欲しいものを告げると、皆一丸となって探し出してくれる。


「またなにか企んでいるんですか?」


若い管理員がニヤニヤする。


「そのうち見られるさ。」


翌日。


必要な素材がすべてそろい、工房の立体造形機が静かに起動した。


「それじゃあ、始めるぞ。」


ハルが操作パネルに手を伸ばす。


ユノがうなずいた。


「リンの製造を開始します。」

挿絵(By みてみん)


造形機の内部で光が走り、最初の部品が少しずつ形になっていく。


ハルはその様子を見つめながら尋ねた。


「どれぐらいかかるんだ?」


「およそ一週間で完成すると思います。」


「一週間か。」


ハルは少し驚いたように笑う。


「今のユノの端末は、数時間でできたのにな。」


「YUNO15-2の内部構造がかなり複雑です。」


「初の超小型有機物発電機。」


「これの製造に、ほとんどの時間を費やします。」


ハルは造形機へ目を向けた。


「そんなに難しいのか。」


「はい。十五センチの筐体に収めるために、あまりにも小さすぎます。」


「効率は?」


「良くありません。」


ユノは即答した。


「発電される電力より、リン自身が消費する電力の方が多くなります。」


「じゃあ、充電は必要か。」


「はい。」


「……だろうな。」


ハルは苦笑しながら、透明な造形チャンバーを見つめた。


そこでは、まだ骨格の一部しか形になっていない。


「リンの完成後は、専用ドックの製造を行います。」


「そっちも必要だな。」


「はい。充電、自己診断、味覚センサーの校正、各種メンテナンスを行う設備になります。」

挿絵(By みてみん)


「それはどれぐらいだ?」


「一日ほどで完成すると思います。」


「わかった。」


ユノが、ふと思い出したように言った。


「そういえば以前、リンがサンプルとして十分の一を食べた残りの保存パンも、皆さんに提供すると言いましたよね。」


「ああ。」


ハルがうなずく。


「運の悪い人が、それに当たるって話だったな。」


「はい。」


ユノは少し笑った。


「でも、ちょっと面白いことを思いつきました。」


「なんだ?」


「リンが食べた後の保存パンを、他の配膳用の保存パンと一緒に置きます。」


「ああ。」


「そして、その保存パンを手に取った人に、リンから声をかけます。」


ハルが眉を上げた。


「声を?」


「はい。」


ユノは楽しそうに続けた。


「ご一緒してもいいですか、と。」


ハルは少し黙った。


やがて、口元を緩める。


「なるほど。」


「本人には、自分がその保存パンを手に取ったことは知らせません。」


「知ってるのは?」


「リンだけです。」


「要するに、くじ引きか。」


「はい。」


ユノは少し笑った。


「当たりと考えるか、外れと考えるかは、選ばれた人の考え次第ですが。」


ハルは思わず笑った。


「完全にランダムか。」


「はい。」


「何千個もある保存パンの中から、たまたまそれを手に取った住民に、リンが声をかけるってわけか。」


「そうなります。」


少し間を置いて。


ユノは続けた。


「ただし、この仕組みは絶対に秘密にしてください。」


「仕組みが知られたら?」


「十分の一欠けたパンを探す人が出て、偶然性が壊れます。」


「なるほど。」


「それに。」


ユノは少し笑った。


「パンの前で、人の流れが滞ってしまいます。」


ハルは思わず笑った。


「面白い。」


少し考えてから、うなずく。


「いいと思う。」


「だが。」


ハルは造形機へ目を向けた。


「俺がリンと食事するのは難しそうだ。」


「いいえ。」


「ん?」


「試運転をするのは、ハル主任ですよ。」


ハルがユノを見る。


「ですから、リンとの最初の食卓はあなたです。」


「俺か。」


「はい。」


そしてユノは続けた。


「チズルさん。」


「さぎりさん。」


「ミオさん。」


少し間を置く。


「15cmユノも」


「ぜひ、同席させてください。」


ハルは笑顔で大きくうなずいた。


「義理堅いんだな。」


「私は日本製なので。」


ハルは立ち上がって伸びをする。


「じゃあまずは、リンの誕生を待とう。」


動き始めた立体造型機を見ながらハルは言った。



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