表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の雨音  作者: ぴいちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/62

第40章ーー虹色の船ーー

https://x.com/pochidayo

よかったらフォローいただければフォロバします。

更新時には更新情報流しています!

食堂を出る頃には、基地全体が少し慌ただしくなっていた。


次便の出発時間が近づいていたからだ。


エウロパ基地では常に十隻の氷輸送船が運用されている。


採掘済の氷。


積み込み。


射出。


到着。


少しの補給物資の荷下ろし。


そして再び帰還。


その循環が止まることはない。


巨大な物流網というより。


巨大な機械だった。


「急げ。」


ジャンプしながらハルが言う。


「今回の船を逃すと明日まで待ちだ。」


「それは困ります。」


ミオが答える。


『私も困ります。』


胸ポケットの中からユノの声が聞こえた。


「お前は困らないだろ。」


『困ることになっています。』


「そうか。」


「そうです。」


さぎりが苦笑した。


四人は射出施設へ向かう。


巨大な通路の先。


視界が開けた。


そこに、氷輸送船があった。


白い氷塊が何層にも固定されている。


ヘスペリア-3へ運ばれる水資源。


そして運動エネルギー。


木星圏の生命線だった。


「毎日これだけ運んでるんですね」


ミオが呟く。


「毎日だ」


ハルが答える。


「止まったらヘスペリア-3が困る」


四人は氷輸送船へ向かって歩く。


地面に敷かれた射出レールの上に載っていた。


その脇を通り過ぎようとした時。


ハルが、ちらりと船を見た。


「……は?」


足が止まる。


もう一度見た。


「なんだ、あれ」


さぎりたちも顔を上げた。


地面に並んだ照明が、氷輸送船を照らしていた。


挿絵(By みてみん)


赤。


橙。


黄。


緑。


青。


藍。


紫。


一本ずつ色の違う光が、暗い地面から斜めに伸びている。


広がった光は巨大な船体を下から照らし、黒い外殻と、その上に積まれた白い氷塊を虹色に染めていた。


さぎりが呟く。


「……綺麗」


「うん」


ミオも見上げた。


「綺麗」


「エウロパからの出発って、派手なんですね」


ミオが言った。


「いや、違う」


ハルが即答する。


「普段は、こんな派手なライトどころか、ライトもつけずに射出する」


ユノが虹色の船を見上げた。


「私も初めて見ました」


ハルはしばらく黙っていた。


やがて、鼻で小さく笑う。


「たぶん、あの泣き虫野郎の仕業だな」


「え?」


「気を利かせたんだろう」


さぎりは虹色に照らされた船を見上げた。


「私、帰ったら、このお礼の手紙書くよ」


「私も」


ミオが言った。


「私もです」


ユノも続く。


ハルが笑った。


「そりゃあいつ、喜ぶぞ」


「俺からは厳重注意だ。」


四人は再び歩き出した。


虹色の光の中を。


四人は氷輸送船へ向かって歩く。


巨大な船体が、地面に敷かれた射出レールの上に載っていた。


フライホイールは今も静かに回転している。


到着した氷輸送船から回収した運動エネルギー。


着陸時に圧縮されたバネ。


そして核融合炉から供給される電力。


その全てが次の射出のために蓄えられている。


乗船。


気密確認。


固定完了。


「間に合ったな」


「射出の時には1Gちょっとが来るぞ」


やがて船内放送が流れた。


「射出シーケンス開始。」


船内の空気が少し変わる。


ミオは無意識にシートの肘掛けを握った。


およそ300mの氷輸送船は前後対称だ。


推進装置は無く姿勢制御用のスラスターがあるだけ。


『緊張していますね。』


ユノが言う。


「少しだけ。」


『正常です。』


「ありがとう。」


『どういたしまして。』


船内放送が続く。


「第一段階。」


「フライホイール接続開始。」


その瞬間。


低い振動が船体を包んだ。


ぶうううううん―――


遠くで巨大な機械が唸る。


エウロパ到着時に回収された運動エネルギー。


巨大フライホイールに蓄えられていた力が解放される。


船体がゆっくりと動き始めた。


虹色のライトが流れ始める。


「動いた。」


ミオが呟く。


「まだ始まりだ。」


ハルが言った。


「第二段階。」


放送と同時に振動が変わった。


重く。


深く。


施設全体が軋むような音。


ごごごごごご……


「バネ解放。」


ハルが小さく言った。


ミオには見えない。


だが施設内部では。


四千メートル級の巨大バネが解放されている。


到着した船が持ち込んだ運動エネルギー。


それを蓄え続けていた巨大な機構。


その力が今。


船へ送り返されていた。


加速が強くなる。


身体がシートへ押し付けられた。


「おお……。」


思わず声が漏れる。


「大丈夫か?」


「平気です。」


苦しくはなかった。


普段ヘスペリア-3で感じる重力と大きくは変わらない。


1.17 G。


人にも機械にも優しい加速だった。


窓の外。


施設が後ろへ飛んでいく。


フライホイール群。


採掘設備。


核融合発電所。


エウロパ基地が次々と流れていった。


残り二キロ。


「第三段階。」


「バネとフライホイールと電磁カタパルト併用区間。」


「氷の分だ。」


電磁カタパルトの膨大な電力はエウロパの核融合炉から供給される。


船体がわずかに震える。


今までとは違う感覚だった。


電磁石が作る力場。


重くなった氷輸送船を最終速度まで加速する工程。


「もし、輸送船を空荷のまま射出した場合、この工程はもっと短い。」


「到着時のエネルギーだけで最低目標速度1070キロの92%まで加速できる。」


速度はさらに上がる。


ミオには数字の意味は分からなかった。


だが加速していることだけは分かる。


エウロパ基地が遠ざかる速度が増していた。


やがて。


放送が響く。


「目標速度到達。」


「時速千二百二十キロ。」


振動が消えた。


同時に。


身体がふわりと浮く。


無重力。


加速終了。


射出完了。


窓の向こう。


エウロパがゆっくり離れていく。


白い氷の世界。


十二本の射出施設。


巨大なフライホイール群。


そして木星。


ミオはしばらく窓の外を見つめていた。


「すごい……。」


小さく呟く。


さぎりも窓の外を見る。


二十年前。


両親が働いていた場所。


今も人々が働いている場所。


その光景が少しずつ小さくなっていく。


挿絵(By みてみん)


『帰還開始です。』


ユノが言った。


「そうね。」


さぎりが頷く。


『みなみくんも終了しました。』


「まだ言うの?」


『重要な文化です。』


「絶対違う。」


ハルが笑う。


船内にも笑い声が広がった。


そのまま氷輸送船は静かに飛び続ける。


帰るべき場所へ。


ヘスペリア-3へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ