第28章 ――狭くて暑い夜――
百合苦手な方は読み飛ばしてください。
NOAH見学を一通りおえて
食事も終えて。
ミオの部屋。
三人は机を囲んで話をしていた。
ミオがふと思い付いたように言う。
「ねえ、さぎり。」
「ん?」
「今日はNOAHに泊まっていこうよ。」
さぎりは少し驚いた。
「え?」
「泊まる?」
「うん。」
ミオは当然のように頷く。
「せっかく来たんだし。」
さぎりは首を傾げた。
「どこに寝るの?」
「ここ。」
ミオはベッドを指差した。
さぎりは思わず笑う。
「ベッド一つしかないじゃない。」
「大丈夫。」
ミオはあっさり言った。
「一緒に寝ればいいよね。」
「よね、じゃないよね。」
「狭いけど寝られるよ。」
さぎりは苦笑した。
「お風呂は?」
「NOAHにはないよ。」
「洗浄剤と洗浄布。」
「それ、お風呂じゃない。」
ミオは肩をすくめた。
「みんなそうだから。」
さぎりは呆れながらも笑った。
「トイレは?」
「ああ。」
ミオは部屋の外を指差した。
「ここを出て左。」
「共同なんだ。」
「女性区画だから大丈夫だよ。」
「なるほど。」
少し考える。
泊まってみたい気持ちはあった。
NOAHの夜。
NOAHで育った人たちの暮らし。
ミオが毎日見てきた景色。
少しだけ体験してみたかった。
その時だった。
机の上から声がした。
「私も泊まりたいです。」
二人が同時に振り向く。
ユノだった。
机の上で胸を張っている。
ユノは真顔だった。
「正式に宿泊許可を申請しています。」
「誰に。」
「ミオにです。」
ミオは笑いを堪えていた。
「許可する。」
「ありがとうございます。」
ユノは丁寧に頭を下げた。
さぎりは額を押さえる。
「待って。」
「ベッド一つしかないのよ?」
「問題ありません。」
ユノは即答した。
「私は十五センチです。」
「そこじゃない。」
「占有面積は極めて小さいです。」
「そこでもない。」
ミオはとうとう吹き出した。
ユノは続ける。
「私は枕元で十分です。」
「猫みたいな言い方しないで。」
「猫ではありません。」
「知ってる。」
結局。
その日の宿泊者は三名になった。
夜。
部屋の照明は落としてある。
狭いベッドだった。
寒ければ、服を着込む。
暑ければ裸で寝る。環境を人にあわせるのではなく、
環境に人が合わせる。
そういう習慣だという。
二人並ぶと肩が触れる。
暑い。
天井も近い。
ヘスペリア3の居住区画では考えられないほど狭い空間だった。
けれど。
不思議と嫌な感じはしなかった。
壁の向こうでは、どこかの配管を流れる水の音が微かに聞こえていた。
遠くで空調設備が低く唸っている。
時折。
ぐうん――
と船のどこかで動く大型機械の振動が床を通して伝わってくる。
何よりミオが隣に横たわってる。
NOAHの夜だった。
静かではない。
けれど。
生きている音だった。
二百年以上。
人を乗せて走り続けてきた船の鼓動だった。
机の上ではユノが充電モードに入っている。
しばらくして。
ミオが小さな声で言った。
「ねえ、さぎり。」
「うん?」
「なに?」
ミオは少しだけ笑った。
そして天井を見上げたまま言う。
「なんか。」
少し間があった。
「幸せだよね。」
さぎりはすぐには答えなかった。
ミオの方を向く。
ミオもこちらを見ていた。
目が合う。
どちらからともなく少しだけ身を寄せる。
こつん。
額と額が軽く触れた。
ミオが少し照れたように笑う。
さぎりも笑った。
そして静かに頷く。
「うん。」
「そうだね。」
その言葉だけで十分だった。
今ここにいること。
同じ夜を過ごしていること。
遠く離れていた二人が同じ場所で笑っていること。
そのすべてが。
確かに幸せだった。
NOAHの機械音は変わらず響いている。
けれどその夜。
二人にはその音さえ優しく聞こえていた。
しばらくして。
ミオが小さく呼んだ。
「さぎり。」
「うん?」
「ぎゅってしてもいい?」
「何で駄目って思うの?」
ミオは抱きしめて言う
「暑いね」
さぎりがミオの唇を触って言う
充電中のユノは一瞬片目を開ける。
そしてユノは自発的に完全休止モードに入った。
「うん、暑い」
「ねえ、ミオ。私の目を見て。」
「え?はい。」
さぎりも真っ直ぐにミオの目をみながら
顔を近づける
その後
重なった唇には十一年以上
焦がれた想いが詰まっていた。
「寝れないね」
さぎりの呼吸が荒い
「うん、寝れない。あつい。」
ミオの呼吸も荒い
今度はミオが。
次はまた、さぎりが。
見つめ合いながら、唇を重ねる。
「ねえ、ミオ。」
「愛してる。」
その言葉で涙を浮かばせたミオが言う。
「さぎり。」
「私も宇宙で一番さぎりを愛してる。」
ヘスペリア3より騒がしい。
NOAHの夜の音に包まれながら。
抱き合ったさぎりとミオは
お互いの存在を確かめ合っていた。
NOAHでのこの夜は
いつものヘスペリア3の夜よりも長かった。
次回はユノのお母さんに会いに行きます。




