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木星の雨音  作者: ぴいちゃん


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27/62

第27章 ――見たことのない空――

NOAHとヘスペリアの共通点とは。

食堂を出た後。


三人は再び通路を歩いていた。


NOAHの夜。


照明は少し落とされている。


人の往来も減っていた。


静かな時間だった。


「次は?」


さぎりが聞く。


ミオは少し考えた。


そして。


少しだけ照れくさそうに言った。


「私の部屋。」


さぎりは笑った。


「行っていいの?」


「うん。」


数分後。


居住区画。


古い隔壁。


古い扉。


ミオが認証パネルへ手を触れる。


扉が開く。


「どうぞ。」


さぎりは中へ入った。


そして。


少し驚いた。


狭い。


本当に狭い。


ベッド。


机。


収納棚。


それだけ。

挿絵(By みてみん)

だが。


不思議と窮屈には見えなかった。


生活の跡があった。


本。


端末。


古いメモ。


壁に貼られた写真。


そして。


一枚の印刷物。


さぎりは近付く。


そこに写っていたのは。


雨だった。


青い空。


灰色の雲。


濡れた道路。


そして。


傘を差して歩く人々。


「これ。」


「うん。」


ミオが少し笑う。


「さぎりさんにもらったやつ。」


十一年前。


最初の通信の頃。


地球文化アーカイブから送った画像だった。


ずっと。


飾っていたらしい。


さぎりは何も言えなかった。


ミオは少し照れたように笑う。


「宝物だから。」


その言葉に。


さぎりは小さく笑った。


「あとこれw」


ミオは反対側の壁を指さす。


「最初に通信したときのさぎり」


さぎりが頭を抱えてしゃがむ。


「あああああああああ!がああああああ!」


「これも宝物」


ミオはいたずらっぽく笑った。


ユノが目を輝かして言う。


「今のさぎりを記録しました。」

挿絵(By みてみん)

「やめてえええええええええ」


それから。


フラフラになったさぎりの手をミオが引き、三人は再び歩き始めた。


居住区画を抜ける。


整備区画を抜ける。


さらに奥へ進む。


やがて。


大きな扉が現れた。


ミオが振り返る。


「最後。」


扉が開く。


その先には。


広い空間があった。


展望区画。


巨大な窓。


その向こうには。


木星。


圧倒的な木星。


ヘスペリア-3からも見える。


だが。


ここから見える木星は少し違った。


窓の形も。


照明も。


空気も。


全てが違う。


だから。


見える景色も違う。


三人は窓際へ歩く。


しばらく。


誰も喋らなかった。


その時。


さぎりが足を止めた。


「え?」


展望窓の脇。


少し奥まった場所。


小さな木造の建物があった。


ミオが振り返る。


「ああ。」


そして。


少し笑った。


「神社。」


さぎりは近付く。


本当に小さい。


1メートルほどの祠。


せいぜい3人が通れる程度の木製の鳥居。


鈴。


古びているが。


丁寧に手入れされていた。


「神社だ。」


思わず呟く。


ミオは頷いた。


「うん。」


「NOAHの。」


さぎりは少し驚いていた。


「あるんだ。」


「あるよ。」


ミオが答える。


「みんなたまに来る。」


「ここで結婚の誓いをする人もいる。」


ユノが説明する。


「NOAH出発当時の文化資料にも記録があります。」


「神道由来施設です。」


「八百万の神と云われ、すべての物に神が宿っているとういう思想です」


ユノが続けた。


「木星圏に日本文化が多く残っている理由の一つでもあります。」


さぎりが首を傾げる。


「理由?」


「はい。」


ユノは頷いた。


「木星圏開発計画の初期移民は、日本連合を中心とした東アジア圏が主体でした。」


「へえぇ。」


ミオも興味を示す。


「さらに。」


「教育用データベース、文化アーカイブ、生活マニュアルの多くが日本語で構築されていました。」


「そのため二百年以上の世代交代を経ても、日本語と日本文化が共通基盤として残ったのです。」


さぎりは小さな鳥居を見る。


「だから神社も残ったんだ。」


「はい。」


ユノは答えた。


「合理性だけで考えれば不要な施設です。」


「ですが。」


「人は効率だけでは生きられません。」


ミオが少し笑う。


「それは分かる気がする。」


「神社も祭りも、昔の人たちが故郷を忘れないために持ち込んだ文化です。」


「そして二百年後の今も残っています。」


ユノは静かに鳥居を見上げた。


「文化とは時として、生命維持装置より長く生き残るものなのです。」


さぎりは鳥居を見上げてお辞儀をした。

挿絵(By みてみん)

そして。


少し笑った。


「ヘスペリア-3にもあるわよ。」


ミオが振り返る。


「本当?」


「うん。」


「農業リングの方に小さいの。これよりは大きいけど」


「豊作のお祭りもやるし。」


「20年くらい前かなぁ?

ハル主任と食堂のおばちゃんも、神社で結婚式をあげてたわ。」


ミオは少し驚いた顔をした。


「同じなんだ。」


さぎりは頷く。


「NOAHは?」


ミオは少し笑った。


「あるよ。」


「収穫祭。」


「本当?」


「うん。」


「その日は食事が少し豪華になる。」

さぎりは吹き出した。


「少し?」


「少し。」


即答だった。


「どれくらい?」


ミオは少し考える。


「生の野菜と果物が付く。」


「少しだ。」


今度は三人とも笑った。


ユノも補足する。


「NOAHの収穫祭は二百年以上継続されています。」


「栽培区画の年間生産量が目標値達した際に実施されます。」


さぎりは少し驚いた。


「そんな昔から?」


「はい。」


ユノは頷く。


「記録上確認できる最古の開催記録は二百十七年前です。」


二百年以上。


漂流しながら。


人々は祭りを続けてきた。


豊作を祝い。


収穫を喜び。


少し豪華な食事を食べる。


それは。


どこかヘスペリア-3と似ていた。


さぎりは鳥居を見上げる。


そして。


木星を見上げる。


「木星圏って。」


少し考える。


「木星様が見てるから、


全ての物に神様が居るから


イタズラしちゃ駄目だぞー


って子供のころ言われなかった?」


ミオも鳥居を見る。


そしてお辞儀をする


「NOAHだと、お天道様が見てるって言われてる!」


ヘスペリア-3にもある。


NOAHにもある。


二百年以上離れていたのに。


同じものが残っていた。


不思議だった。


ユノが静かに言う。


「文化とは。」


「必ずしも合理性だけで残るものではありません。」


ミオが笑う。


「飾りと同じ?」


さぎりも笑った。


必要ではない。


だが。


大切なもの。


神社も。


きっと同じだった。


三人はしばらく鳥居の前に立っていた。


その向こうでは。


三人を見守るように。


「木星【様】」が静かに輝いていた。


次回は問題回。

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