第25章 ――ミオの世界――
NOAHの冒険は続きます。
NOAHの通路を歩く。
さぎりは何度も周囲を見回していた。
狭い。
やはり狭い。
もちろん歩くのに困るほどではない。
だが。
ヘスペリア-3とは違う。
通路の幅。
天井の高さ。
壁の近さ。
全てが違う。
「どう?」
ミオが聞く。
「本当に狭い。」
「だから言ったじゃん。」
「言ってない。」
「言った。」
言っていなかった。
ユノが言った。
「言っていません。」
「ユノ。」
「はい。」
「そういうところだよ。」
ミオは苦笑した。
三人は通路を進む。
人々とすれ違う。
その度に。
相手が立ち止まる。
二度見する。
そして。
驚く。
「あ。」
「さぎりさんだ。」
「本物だ。」
「本当に来た。」
「実物は美人さんだな!」
さぎりが固まる。
「え。」
ミオが笑う。
「だから言ったじゃん。」
「言ってない。」
「今言った。」
どうやら。
本当に有名人らしい。
十一年間。
毎日のように通信していた。
ミオだけではない。
学校。
技術区画。
農業区画。
居住区画。
気が付けば。
NOAHの多くの人間がさぎりを知っていた。
「こんにちは。」
ツインテールの小さな女の子が声を掛ける。
「こんにちは。」
さぎりも返す。
すると。
女の子は少し照れながら言った。
「雨の人だ。かわいい!」
そしてツインテールの片方を撫でながら言う
「これ、さぎりさんの真似なんだよ!」
ミオが吹き出した。
さぎりは頭を抱えた。
「雨の人って何?ツインテールの真似って何?」
「知らない。」
ミオは笑いながら答える。
だが。
何となく意味は分かった。
最初の通信。
雨の話。
それはNOAHでアーカイブになっていたのだ。
そしてNOAHには存在しなかったツインテールは
ミオが真似してから爆発的に浸透した。
中にはツインテールにした男性までいた。
やがて。
一つの区画へ到着する。
ミオが立ち止まった。
「ここ。」
「ここ?」
「学校。」
さぎりは周囲を見る。
広くはない。
だが。
綺麗に整えられている。
机。
椅子。
端末。
そして。
窓のない教室。
「ここで?」
「うん。」
ミオは笑った。
「ここで最初に通信した。」
さぎりは静かに教室を見る。
十一年前。
八歳のミオ。
雨を知らなかった少女。
そして。
地球文化アーカイブを見つけたばかりの自分。
全てはここから始まった。
「懐かしい?」
「懐かしい。」
ミオは即答した。
「ここで怒られたし。」
「怒られたの?」
「いっぱい。」
「想像できる。」
「ひどい。」
さぎりは笑った。
教室の奥。
窓際。
いや。
本来なら窓があるはずの場所。
そこに小さな席があった。
ミオが指差す。
「私あそこ。」
「へえ。」
「一番後ろ。」
「似合う。」
「何その感想。」
ユノは机の上へ飛び乗った。
正確には。
飛び乗ろうとして失敗した。
ごろん。
「転倒しました。」
「知ってる。」
三人とも慣れてきていた。
ユノは立ち上がる。
そして教室を見回した。
静かだった。
数秒後。
「ここですか。」
「何が?」
ミオが聞く。
ユノは答える。
「最初の通信。」
ミオは頷いた。
「うん。」
「ここ。」
ユノはしばらく黙る。
そして。
教室の中央を見る。
誰もいない教室。
十一年前。
そこには小さなミオがいた。
そして。
遥か彼方。
1800億km先に。
さぎりがいた。
「不思議です。」
ユノが呟いた。
「何が?」
さぎりが聞く。
「当時の通信記録は全て保存されています。」
「うん。」
「ですが。」
少し考える。
「実際の場所を見ると。」
「全く違います。」
さぎりは少し笑った。
「ユノらしい。」
知っていた。
だが。
見たことはなかった。
それはユノが身体を得てから何度も経験したことだった。
ミオが立ち上がる。
「次行こう。」
「まだあるの?」
「いっぱいある。」
誇らしそうだった。
ここはミオの故郷だ。
生まれ育った世界だ。
見せたい場所はたくさんある。
三人は再び歩き始める。
学校を後にする。
通路を進む。
NOAHの奥へ。
ミオの思い出の中へ。
その先には。
まだ見たことのない世界が待っていた。
NOAHの冒険は続きます。




