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木星の雨音  作者: ぴいちゃん


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21/62

第21章 ――商店街――

https://x.com/pochidayo

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「明日、非番なんだ。」


夕食の帰り道。


さぎりが何気なく言った。


「非番?」


ミオが首を傾げる。


「休みの日。」


「休み?」


「うん。」


ミオは少し考えた。


NOAHにも休日はあった。


だが。


ヘスペリアの休日は少し違うらしい。


「休みの日って何するの?」


さぎりも少し考える。


「洗濯。」


「うん。」


「掃除。」


「うん。」


「買い物。」


ミオが止まる。


「買い物?」


「買い物。」


さぎりが頷いた。


「行ってみる?」


ミオの目が輝いた。


「行く!」


翌日。

挿絵(By みてみん)

二人は居住リングトラムで4駅ほど離れた。


区画を歩いていた。


ミオは少し驚いていた。

挿絵(By みてみん)

人が多い。


休日だからだろう。


家族連れ。


子供たち。


若い夫婦。


整備員らしい人たち。


様々な人が行き交っている。


そして。


通りの両側には店が並んでいた。


雑貨屋。


本屋。


衣料品店。


修理屋。


小さな喫茶店まである。


「これ全部お店?」


「全部お店。」


「なんでこんなにあるの?」


「みんな使うから。」


さぎりは当たり前のように答えた。


ミオはしばらく通りを見回す。


そして。


「街だ。」


そう呟いた。


さぎりは少し笑う。


「街だよ。」


NOAHにも人はいた。


暮らしもあった。


だが。


こういう場所はなかった。


ただ歩いているだけなのに。


何だか楽しい。


そんな場所だった。


まず向かったのは日用品店だった。


洗剤。


掃除用品。


保存容器。


消耗品。


さぎりは慣れた様子で買い物かごへ入れていく。


「これ何?」


「洗剤。」


「これは?」


「洗剤。」


「これも?」


「それも洗剤。」


ミオが真顔で言う。


「洗剤多くない?」


「多い。」


二人とも笑った。


その後。


雑貨店を覗いた。


途中で温かい飲み物を買った。


ただ歩いているだけなのに。


時間があっという間に過ぎていく。


そして。


小さな雑貨屋へ入った時だった。


ミオの足が止まる。


壁には様々な小物が並んでいた。


髪飾り。


アクセサリー。


手作りの置物。


小さなぬいぐるみ。


どれも生活には必要ない。


でも。


どれも綺麗だった。


「可愛い……」


思わず呟く。


店主が笑った。

挿絵(By みてみん)

「お!NOAHの子じゃないか。好きなの見ていって。」


ミオはゆっくり店内を見て回る。


その時だった。


視線が止まる。


深いエンジ色のリボン。


落ち着いた赤色。


どこか見覚えのある色。


ミオはそっと手に取った。


「綺麗。」


隣で見ていたさぎりも頷く。


「綺麗だね。」


そこでミオは気付いた。


同じリボンが二本並んでいる。


「二つある。」


店主が答える。


「セットだからね。」


ミオはしばらく考えた。


そして。


迷いなく言った。


「これ買う。」


「え?」


さぎりが振り向く。


ミオは一本を持ち上げる。


「これはさぎりさん。」


そして。


もう一本を持ち上げる。


「これは私。」


さぎりが固まった。


「お揃い。」


ミオは当たり前のように言う。


「だめ?」


その声は少しだけ不安そうだった。


さぎりは慌てて首を振る。


「だめじゃない。」


「全然だめじゃない。」


店主がにやにやしている。


ミオは安心したように笑った。


店主が言う


「一本はNOAHの帰還記念のプレゼントだ。持ってって。」


「え?いいの?」


店主はまたにやにやしている。


お礼を言い店を出る。


ミオ

「優しい人だったね」


「ヘスペリアの人はだいたいみんな優しい。」



さぎりが答える。


しばらくして。


商店街の広場。


ベンチに座る二人。


買ったばかりのリボンを手にしていた。


「付けてみる?」


ミオが聞く。


「今?」


「今。」


さぎりは笑った。


「じゃあ。」


髪を後ろでまとめる。


ポニーテール。


そこへ。


エンジ色のリボンを結ぶ。


「どう?」


ミオが言う。


「どうかな。」


「似合う。」


即答だった。


今度はミオの番だった。


普段はゴムで留めているだけのツインテール


慣れない手つきで髪を分ける。


右。


左。


少し曲がる。


やり直す。


また曲がる。


「難しい。」


「貸して。」


さぎりが後ろへ回る。

挿絵(By みてみん)

優しく髪を整える。


そして。


左右に同じ色のリボン。


ツインテール。


「できた。」


ミオは近くの窓アクリルに映る自分を見る。


少し照れくさい。


でも。


嬉しかった。


「どう?」


今度はミオが聞く。


さぎりは笑った。


「似合う。」


「ほんと?」


「うん。」


ミオは嬉しそうに笑った。


その笑顔を見て。


さぎりも笑った。


帰り道。


二人は並んで歩く。


同じ色のリボン。


同じ家へ帰る。


夕暮れの居住リングには。


買い物帰りの人々が行き交っていた。


ミオはそっとリボンに触れる。


ただの布だった。


高価な物でもない。


特別な物でもない。


それでも。


とても大切な物のような気がした。


「また来よう。」


ミオが言った。


「うん。」


さぎりも頷く。


「また来よう。」


二人は笑った。


居住リングの商店街には。


今日も暖かな灯りがともっていた。


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