第19章 ――新しい部屋――
https://x.com/pochidayo
更新時には更新情報流しています!
よかったらフォローいただければフォロバします。
NOAHの検疫完了から数日が過ぎた。
検疫は順調に進み。
行き来できる区画も少しずつ増えていた。
ミオも毎日のようにヘスペリア-3へ来ていた。
地球文化アーカイブ。
食堂。
居住リング。
農業区画。
見るものすべてが新鮮だった。
だが。
一つだけ問題があった。
問題というほどではない。
だが。
避けては通れない話だった。
「そういえば。」
昼食後。
ハル主任が言った。
「ミオ。」
「はい?」
「お前、どこ住むんだ?」
ミオはきょとんとした。
「どこって。」
「NOAHです。」
当然のように答える。
ハル主任は頷いた。
「今はな。」
「今は?」
ミオは首を傾げる。
周囲の整備員たちも笑いながら話に加わった。
「ヘスペリアに住みたい奴もいるだろ。」
「逆もいるかもしれん。」
「そろそろ決めなきゃならん。」
その言葉に。
ミオは少し黙った。
考えたことがなかった。
毎日ヘスペリアへ来て。
夕方になるとNOAHへ帰る。
それが当たり前になっていた。
だが。
確かに。
ずっとそうとは限らない。
「実際どうなんですか?」
ミオが尋ねる。
すると。
近くにいた居住区画担当者が答えた。
「希望者には居住区画を提供します。」
「え?」
「空きは十分ありますので。」
あまりにもあっさりした返事だった。
ミオは目を瞬かせる。
「十分?」
「はい。」
担当者は端末を操作した。
ヘスペリア-3の模式図が表示される。
巨大なリング。
2つの居住リング。
農業区画。
港湾区画。
工業区画。
様々な設備。
「ヘスペリア-3は直径十八キロメートル」
「居住リング幅は二キロメートルあります。それが2つあります」
「元々はさらに多くの移民を受け入れる前提で建設されています。」
担当者は淡々と説明した。
「ですので。」
「NOAH全住民8000人分の部屋なら十分にあります。」
NOAH側の人々が顔を見合わせる。
「余ってるのか。」
誰かが呟く。
「余ってます。」
担当者は即答した。
「すげえな。」
別の誰かが言った。
NOAHでは考えられない話だった。
住居は貴重だった。
空間は貴重だった。
だが。
ヘスペリアでは違うらしい。
その時だった。
ハル主任がふと思い出したように言った。
「あ。」
「そういや。」
全員が振り向く。
「さぎりの部屋空いてるだろ。」
さぎりが固まった。
「え?」
「元々三人用だ。」
皆が少し静かになる。
三人用。
その意味を知っている人は知っていた。
さぎりの両親。
エウロパ氷採掘事故。
もう十年以上前の話だった。
今は。
さぎり一人で暮らしている。
少し広すぎる部屋に。
ハル主任は何気ない調子で続けた。
「共同居住って手もあるぞ。」
担当者も頷いた。
「規則上問題ありません。」
「本人たちが希望するなら。」
ミオは黙った。
さぎりを見る。
さぎりもミオを見る。
数秒。
沈黙。
「迷惑じゃない?」
先に口を開いたのはミオだった。
本当に遠慮がちな声だった。
さぎりは少し驚いた顔をする。
それから。
笑った。
「全然。」
即答だった。
ミオが少し目を丸くする。
「でも。」
「私、NOAHの人だし。」
「関係ない。」
また即答だった。
「それに。」
さぎりは少しだけ照れながら続けた。
「部屋余ってるし。」
周囲から笑い声が上がる。
「理由そこかよ。」
「十分だろ。」
「実際余ってるしな。」
食堂の空気が和む。
ミオは少しだけ俯いた。
それから。
小さく笑う。
「じゃあ。」
少しだけ声が震えていた。
「お世話になります。」
「うん。」
さぎりも笑う。
「歓迎します。」
その日の食堂での夕食後。
二人は中央トラムで居住リングへ向かい。
そこから、居住リングのトラムに乗り換える。
道中ミオが言う
「さっきの管理のお姉さんて優しくて、大人の女って感じ」
不機嫌そうにさぎりが答える。
「へえ。そうなんだ」
「あの子私より5歳くらい若いわよ」
ミオが慌てて取り繕う
「いえいえいえ!そういうわけでは無くて!」
「さぎりさんはもう姉妹の感覚で…」
さぎりが言う
「姉妹?」
少し間が空く。
「だったら呼び捨てでいいのよ?」
「はい!」
「さ、さぎりさ、ぎり」
ミオの顔は真っ赤である。
さぎりが笑う
「なにそれwもっとちゃんと呼んで」
「さぎり!」
「ミオ」
二人は抱き合った
居住区に着きエレベータで地表に降りる。
そこから居住リング環状トラムに乗り2駅。
居住1‐16駅で降りる
そこから徒歩で数分。
人はまばらだった。
「ここよ」
さぎりが言う
部屋の前で。
自動ドアが静かに開く。
ミオは足を止めた。
広い。
それが第一印象だった。
NOAHの居住区画とは違う。
天井が高い。
窓もある。
共有スペースもある。
個室もある。
三人で暮らしていた部屋だった。
「広い……」
ミオが呟く。
「そう?」
さぎりは首を傾げる。
「広いよ。」
ミオは即答した。
そして。
リビングの窓へ近付く。
窓の向こう。
巨大な木星が見えていた。
ゆっくりと流れる雲。
淡い光。
その景色を見ながら。
ミオは静かに言った。
「ここが。」
少し間。
「私の新しい家。」
さぎりは隣に立った。
同じ景色を見る。
「うん。」
それだけだった。
だが。
二人とも笑っていた。
窓の向こうでは。
木星が静かに輝いていた。
二百年遅れで帰還した船の少女は。
その日。
ヘスペリア-3に。
新しい居場所を見つけた。
つづく…次回入浴!




