第十四章 ――最後の二十センチ―
本来、ここまでが第一部です、
まだまだ続くのでお付き合いください。
検疫開始から三十一日。
ついに。
その日が来た。
ヘスペリア-3中央港湾区画。
巨大な隔壁の前に、
人が集まっていた。
整備員。
保守班。
農業区画の人たち。
学生。
食堂のおばちゃん。
子供たち。
ハル主任。
そして。
さぎり。
透明隔壁の向こうにも、
同じように人がいた。
NOAH代表団。
技術者。
家族。
子供たち。
そして。
ミオ。
誰も騒がない。
誰も叫ばない。
ただ。
待っていた。
管制官の声が響く。
『最終検疫完了』
静寂。
『生物学的危険性なし』
静寂。
『移住許可発行』
静寂。
そして。
『隔壁開放』
低い駆動音。
ゴゴゴゴゴ……
二百年以上閉ざされていたわけではない。
たった一か月。
でも。
その一か月が。
あまりにも長かった。
透明隔壁が。
ゆっくりと上昇していく。
誰も動かない。
ミオも。
さぎりも。
ただ見つめている。
隔壁が上がる。
少しずつ。
少しずつ。
二十センチ。
十センチ。
五センチ。
そして。
完全に消えた。
静寂。
誰かが拍手した。
一人。
また一人。
そして。
港湾区画全体が拍手に包まれた。
ミオは立ち尽くしていた。
目の前にいる。
量子通信じゃない。
映像じゃない。
録画じゃない。
本物。
さぎりも動けない。
十一年間。
八歳だった少女。
通信の向こうで育った子。
毎週のように話した子。
遠すぎて触れられなかった子。
今。
目の前にいる。
ミオが、
ゆっくり歩き出した。
さぎりも。
少し笑いながら歩き出した。
周囲の音が遠くなる。
拍手も。
歓声も。
聞こえない。
見えているのは。
ただ一人だけ。
あと十メートル。
あと五メートル。
あと三メートル。
ミオが笑った。
涙でぐしゃぐしゃの顔だった。
さぎりも笑った。
同じだった。
そして。
二人は同時に走り出した。
黒いポニーテールが翻る。
金色のツインテールが踊る。
港湾区画の人々が、
思わず道を開けた。
誰も止めない。
止める理由なんてなかった。
二百年。
百八十億キロ。
十一年。
その全部を飛び越えるように。
ミオが飛び込む。
さぎりが受け止める。
次の瞬間。
二人は強く抱き合っていた。
言葉が出ない。
泣いている。
笑っている。
肩を震わせている。
でも。
何も言えない。
十一年間。
ずっと。
会いたかった。
それだけだった。
やがて。
ミオが小さく言った。
『……さぎりさん』
さぎりは泣きながら笑う。
「おかえり」
ミオは首を振った。
そして。
さぎりの肩へ顔を埋めながら言う。
『ただいま』
その瞬間。
港湾区画が歓声に包まれた。
誰かが泣いていた。
誰かが拍手していた。
食堂のおばちゃんなんて号泣していた。
ハル主任は腕を組みながら、
少しだけ目をこすっていた。
木星の光が港湾区画へ差し込む。
その光の中で。
二人は、
しばらく離れなかった。
遠かった。
本当に遠かった。
けれど。
もう。
手が届く。
触れられる。
隣にいられる。
2361年。
200年以上前に木星圏目指した人々は。
ようやく。
目的地への到達を果たした。
次章からは新展開!
楽しくかけています!




