第100章ーー学校ーー
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「まあ、よく来てくれたな、モウブくん」
「えっと……これから、ざっとやってもらうことを説明するが……。チヒロとナナコちゃんは、どうする? 聞いていくかい?」
チヒロは少し考えると、首を横に振った。
「いえ。このあと十時から、ヘスペリア-3の学校の学長と会う約束をしてるんで。今日のところは遠慮しときます」
それからモウブのほうへ顔を向ける。
「モウブくん、何を教わったか、あとで教えてね」
「はい」
「じゃあ、ナナコちゃん。行きましょうか」
「はい、わかりました」
ナナコは素直に返事をすると、チヒロの後について工房を出ていった。
「さて、じゃあ行きましょうか。道案内がてら、学校まで連れていくわね」
「はい」
ナナコはチヒロの後について歩き出した。
二人は、先ほどまでいた第一食堂付近の駅へ向かった。
駅からトラムに乗り込む。
そこは無重力空間を走るトラムだった。
やがて無重力トラムを降りると、二人はエレベーターへ向かった。
エレベーターに乗り込み、無重力区画から下へ降りていく。
しばらくして扉が開く。
二人は先ほどまでいた第一食堂付近の駅へ戻ってきた。
「ここから一駅よ」
チヒロが言った。
「はい」
二人は再びトラムに乗り込む。
一駅。
ほんの短い移動だった。
やがてトラムが停止し、扉が開く。
ナナコが降り立った瞬間、その目の前に広がった光景に、思わず足を止めた。
そこには、巨大な敷地が広がっていた。
幅、約二キロ。
奥行き、約一キロ。
ヘスペリア-3の内部に設けられた、ひとつの巨大な教育施設だった。
建物群は低層で、周囲には広い空間が確保されている。
学校という言葉から想像するものとは、少し違っていた。
ひとつの建物ではない。
まるで、小さな街そのものだった。
「これが……学校?」
ナナコが呟く。
チヒロはその反応を見て、少し笑った。
「そう。これが、ヘスペリア-3の第一学校よ」
「広いんですね。本当に広い……」
ナナコは、目の前に広がる学校の敷地を見渡した。
「これじゃ、目的地まで行くのにも時間がかかりそう」
「そうね。だから、一応こういう広いところの移動用で、学校の中にはバスも走ってるのよ」
チヒロがそう言って、少し先の通路へ目を向けた。
「ほら、来た。あれ」
「え?」
ナナコもチヒロの指差す方向を見る。
すると、開放された車体の乗り物が、ゆっくりと二人の前を走ってきた。
屋根はない。
車体の両側には腰ほどの高さの手すりが設けられ、その内側には長いロングシートが向かい合うように配置されている。
座っている学生もいれば、手すりにつかまりながら立っている学生もいる。
「何あれ……面白い」
ナナコの目が輝いた。
「うん。ヘスペリア-3でも、学校の中か農業区画で使われてるぐらいかしら。あ、工業区画にもあるわね」
「そうなんですか?」
「農業区画では、農作物を移動させるために使ってるの。工業区画では、時々大きな機械を移動するときに使われてるわ」
モビリティは二人の前を通り過ぎると、少し先に設けられた停留スペースへ滑るように入っていった。
「この学校の中だと……確か四台あったわね」
チヒロが言った。
「四台も?」
「ええ。敷地がこれだけ広いからね」
ナナコはモビリティをじっと見つめていた。
「……乗ってみたいです」
「ふふっ」
チヒロは、そんなナナコを見て笑った。
「じゃあ、乗ろか」
「はい!」
二人は停留スペースから次の便に乗った。
「この形のバスは、多分ヘスペリア-3全体で百台ぐらいじゃないのかな」
チヒロが車内を見渡しながら言った。
「百台もあるんですか?」
「ええ。ただ、ベースになっている車両は同じなんだけど、使われる場所によって少しずつ形が違うのよ」
「形が?」
「そう。例えば農業区画で使われているものは、こんな手すりなんか付いてないわ」
チヒロは、二人の周囲にある手すりを指した。
「人を乗せる必要がないからね。荷台だけのシンプルな形になっていて、農作物を積んでトラムの駅まで運ぶの。そっちは『トラック』って呼ばれてるわ」
「トラック……」
「そう」
ナナコは興味深そうに頷いた。
「じゃあ、工業区画では?」
「工業区画のものは、もう少し特殊ね」
チヒロは少し考えてから続けた。
「荷物を吊り下げるための小さなクレーンが付いているの。そっちは『ユニック』って呼ばれてるわ」
「ユニック……?」
「ええ。大きな機械や、普通の荷台には載せにくいものを運ぶときに使うのよ」
「同じバスが、いろんな形になるんですね」
「そういうこと。ベースになる車両は同じでも、人を運ぶのか、農作物を運ぶのか、機械や荷物を運ぶのかで、必要なものが違うでしょう?」
「なるほど……」
ナナコは感心したように車内を見回した。
「じゃあ、今乗ってるのは人を運ぶためのバスなんですね」
「そう。学校ではこれが一番使いやすいのよ」
そう言って、チヒロはロングシートを軽く叩いた。
「立って乗る人も多いし、座って移動することもできる。学校の中は広いから、こういう形がちょうどいいの」
ナナコは嬉しそうに笑った。
「なんだか、もっと乗っていたくなってきました」
「ふふっ。まだ目的地には着いてないから、しばらく乗っていられるわよ」
「やった!」
ナナコは嬉しそうに外へ目を向けた。




