第九話 疑う
◆レイナ
どれくらい歩いただろうか。
焼けた村を離れ。
森を抜け。
さらに進む。
「……ねぇ、お姉ちゃん」
「なに」
「次は、どこ行くの?」
「……さあ」
本音だった。
行く場所なんて、決めていない。
ただ。
ルークのところには、戻らない。
それだけ。
そのとき。
視界の先に、城壁が見えた。
大きな門。
高く、分厚く、閉ざされた壁。
旗がはためいている。
「……国?」
レイナは目を細める。
門の前には、人が並んでいた。
汚れた服。
痩せた体。
虚ろな目。
……難民だ。
「止まれ」
門番が槍を向ける。
「どこから来た」
「戦場から」
「……そうか」
門番は一瞬だけ表情を緩めた。
だが、その目は冷たいままだった。
「ここは難民受け入れ国家」
「リグナ王国だ」
受け入れ……?
「武器は持っているか?」
「……ない」
「能力者か?」
一瞬だけ、間が空く。
「……違う」
嘘。
だが。
門番は深く追及しなかった。
「入れ。ここでは安全だ」
門が開く。
重たい音とともに。
中へ入る。
その瞬間。
空気が変わった。
パンの匂い。
人の声。
笑い声。
人が、生きている。
普通に。
「食料は一日三回支給される」
「寝る場所もある」
門番の声が背中から飛ぶ。
「ここでは誰も見捨てられない」
……本当に?
レイナは周囲を見る。
確かに、平和だ。
少なくとも。
あの戦場よりは。
「お姉ちゃん!」
シオンが笑う。
無邪気に。
子供みたいに。
……。
胸が、少しだけ軽くなる。
そのとき。
「次の者、こっちだ」
兵士が手招きする。
案内されるまま、建物へ入る。
中には机と椅子。
整いすぎた空間。
役人のような男が座っている。
「名前」
「……レイナ」
「そっちは?」
「シオン」
「年齢」
「十七と十」
「……そうか」
男は紙に何かを書き込む。
その手は慣れている。
機械のように。
そして。
一瞬だけ、シオンを見た。
「体調は?」
「平気だよ」
「そうか」
男は笑った。
優しそうな笑み。
だが。
……目が笑ってない。
「では、今日は休め」
「明日“適性検査”を行う」
「適性……?」
「この国で生きるための役割を決めるだけだ」
自然な口調。
当たり前のように。
「安心しろ」
「ここでは全員、役に立てる」
役割……
レイナは無言で頷いた。
部屋を出る。
廊下の奥。
誰かが連れていかれるのが見えた。
抵抗はない。
ただ。
無言だった。
外へ出る。
空は明るい。
人々は動いている。
普通の世界に見えた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
シオンが小さく言う。
「さっきの人」
「目に光がなかったね」
レイナは答えなかった。
ただ。
視線を遠くへ向ける。
笑っている人々。
並ぶ配給。
規則正しく動く兵士。
すべてが、整いすぎている。
そのとき。
遠くで。
かすかな泣き声が聞こえた。
一瞬で、消えた。
まるで。
最初からなかったかのように。
レイナは目を閉じる。
……ここも。
壊れてるの?
違和感だけが、確かに残っていた。




