第八十二話 救われる
◆アルマ
部屋へ響く。
ヴィクトールの声。
信徒たちは。
涙を流していた。
まるで。
救済を見届けるように。
そして。
我々兵士は。
現実を理解できなかった。
瞬きすら忘れ。
ただ。
立ち尽くしていた。
やがて。
ヴィクトールが力なく倒れる。
あの“世界最強”が。
裸のまま。
無防備に。
床へ横たわっていた。
アルマの思考は停止していた。
これは。
幻覚なのか。
現実感がない。
何も分からない。
そのとき。
ルミナスが優しく語りかけた。
「先ほどは」
「酷い言葉を浴びせてしまいました」
「ですが」
「本当は、あなたは悪くないのです」
ヴィクトールが顔を上げる。
その目は。
揺れていた。
「悪いのは」
「この雑魚どもです」
ルミナスは。
我々を指差した。
空気が凍る。
アルマの目が見開く。
「彼らが勝手に」
「あなたのような、か弱き少女を」
「“最強”と崇め」
「本来いるべきではない居場所を作った」
アルマが怒鳴る。
「そんなことはない!!!!」
「ヴィクトール様を!!」
「我々は本気で……」
「ならば!!!!」
ルミナスが遮った。
怒声。
全員が止まる。
ルミナスは。
まっすぐアルマを見る。
「一度でも」
「彼女の気持ちに向き合ったことがありますか?」
アルマが黙る。
ヴィクトールの気持ち。
考えたことはあった。
だが。
本気で向き合ったことなど。
誰もなかった。
ルミナスは続ける。
「だから彼女は居場所を作りながらも孤独であった」
「それでも居場所を守ろうと」
「“最強”で」
「“最高”であろうとした」
ヴィクトールの目から。
涙が溢れる。
ルミナスもまた。
涙を流していた。
「なんと可哀想なことか……」
白い部屋へ。
静かな声が響く。
信徒たちも。
大声で泣きだす。
そして。
ルミナスは手を差し伸べた。
「彼女は」
「我々ルミナス教国が保護します」
アルマが凍る。
は……?
ルミナスが優しく言う。
「さぁ、ヴィクトール」
「ここでは、ただの一人の人間です」
「同じ信徒」
「同じ人間です」
「ただ本来の欲のまま」
「人殺しなどやめて」
「新しい居場所で」
「平和に暮らしましょう」
ヴィクトールの瞳が。
揺れる。
そして。
ゆっくり。
ルミナスの手を見る。
アルマは。
その顔を見てしまった。
希望。
安堵。
救われたような顔。
今まで一度も見たことがない。
あぁ……。
ヴィクトール様は。
ずっと。
孤独だったのか。
ヴィクトールが。
そっと。
ルミナスの手を取る。
その瞬間。
アルマは理解した。
終わった。
ヴィクトール軍は。
もう戻らない。
だが。
次の瞬間。
恐怖が襲う。
では。
残された我々は。
どうなる。
アルマの中で。
何かが切れた。
ふざけるな。
ふざけるな!!
アルマが武器を構え。
ルミナスへ突撃する。
だが。
その瞬間。
聞き慣れた声。
「『放電現象』」
兵士たちが。
一斉に崩れ落ちる。
アルマも。
体から力が抜ける。
崩れながら。
最後に。
ヴィクトールを見る。
ルミナスが優しく言った。
「いけません」
「あなたはもう」
「人を殺しては」
ヴィクトールが小さく答える。
「……すみません」
一拍。
「ルミナス様」
その言葉を最後に。
アルマの意識は沈んだ。
そして。
ヴィクトール軍は。
完全に崩壊した。




