第八十三話 崩れ始める
◆レイナ
「そんな……」
言葉を失う。
机へ置かれた資料。
そこに書かれていたのは。
衝撃だった。
“バルゼインの放電現象”
ヴィクトール。
ルミナス教国へ亡命。
ヴィクトール軍。
全滅。
レイナの手が震える。
これが意味すること。
それは。
“世界最強”が。
“世界最悪”へ敗北したということ。
いや。
ただ負けただけではない。
ドルガが震える声で言う。
「これってよ……」
「ヴィクトールも洗脳されたってことだよな?」
空気が重くなる。
そう。
ヴィクトールは死んでいない。
敵になった。
それが。
何より最悪だった。
これでルミナス教国は。
“世界最強”という。
最悪の戦力まで手に入れた。
その瞬間。
――グシャ。
全員が振り向く。
ノルンだった。
資料を握り潰している。
顔が歪んでいた。
「あのバカもんがぁぁぁ!!!!」
怒号。
ノルンが勢いよく立ち上がる。
凄まじい殺気。
杖を掴み。
そのまま部屋を出ようとする。
ルークが静かに聞いた。
「どこへ行く気ですか?」
ノルンが振り返る。
「決まっとろうがぁ!!!!」
「あのバカの頭を叩いて!!」
「正気へ戻しに行くんじゃぁぁ!!!!」
レイナが息を呑む。
完全に感情的になっている。
ノルンは。
ヴィクトールを。
本気で大切に思っている。
だが。
ルークは冷静だった。
「それは無理ですよ」
空気が凍る。
ノルンが睨む。
「なんじゃと?」
殺気。
部屋が震える。
だが。
ルークは変わらない。
「ルミナス教国へ行くには」
「ヴァルディア帝国か」
「バルゼイン王国を通らなければならない」
「いくらあなたでも」
「途中で殺されます」
現実だった。
しかし。
ノルンは止まらない。
「知るかぁ!!!!」
「それでも行くんじゃぁ!!!!」
叫び。
そして、静寂。
そのあと。
ルークが小さく言う。
「なら」
全員がルークを見る。
そして。
ルークは微笑んだ。
「道を作りましょう」
レイナの背筋が冷える。
まただ。
またこの男は。
世界を動かし始める。
◆バルゼイン王
会議室は。
異様な空気に包まれていた。
“バルゼインの放電現象”
ヴィクトール。
ルミナス教国へ亡命。
“世界最強”が。
敵の手へ渡った。
誰も言葉を発せない。
悲しみより。
失望が強かった。
だが、世界は待ってくれない。
兵士が飛び込んでくる。
「報告!!!!」
「ヴァルディア帝国が東へ進軍開始!!!!」
王が歯を食いしばる。
「くっ……!!!!」
当然だった。
ここまで弱ったバルゼイン。
しかも王都の移動により防衛線が整っていない。
攻めない理由などない。
王が叫ぶ。
「全戦力を回せ!!!!」
だが。
次の報告が入る。
「ユートリア軍!!」
「旧トリプレッツ領――」
「現バルゼイン領土を占拠しました!!」
王が固まる。
「くそ、ユートリアまで……」
そして。
引っかかる。
「いや……それより……」
「占拠だと……?」
外交官が冷や汗を流しながら答える。
「厚みが……違います」
王が睨む。
「厚み?」
外交官は説明する。
「ヴァルディア帝国が攻めてきた領土は」
「ずっと前からバルゼイン領」
「王都こそ移動させましたが」
「防衛線が生きています」
「ですが」
「ユートリアが進軍した領土は違う」
静かな声。
「得たばかりの領土です」
「しかも元々」
「あの三つ子の影響で」
「人が住んでいなかった」
王の顔色が変わる。
外交官は続けた。
「故に」
「建物すらない平地」
「兵は送っていましたが」
「防衛線が存在しませんでした」
静寂。
王が震える声で聞く。
「あそこの隣は……」
外交官が答えた。
「王都です」
その瞬間。
全員の顔色が変わる。
ユートリア軍は。
すでに。
王都の隣まで来ていた。




