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平和国家ユートリア ―人類の終着点―  作者: Kk


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第八十一話 失っていた

◆ヴィクトール


幼い頃の記憶が蘇る。


私は。


小国の王女として生まれた。


能力『放電現象』。


最強と呼ばれる力。


だが、王女であるが故に。


その力は隠された。


私は。


王宮から出ることもできず。


毎日。


退屈だった。


その中で唯一。


楽しい時間があった。


ノルンおばあ様との訓練。


能力。


剣術。


それを教わる時間だけが。


私は好きだった。


「おばあ様」


「私の力は」


「戦場で発揮されるものではありませんか?」


自分が強いことくらい。


分かっていた。


だが。


ノルンは優しく答える。


「それをさせたくない」


「両親の気持ちを理解してやりんさい」


ノルンの能力。


“飛斬撃”


斬撃を飛ばす能力。


本来なら。


そこまで強力な能力ではない。


だが。


ノルンは剣術の名人だった。


だから。


周辺国家ですら恐れる存在だった。


ヴィクトールは思っていた。


おばあ様がいれば大丈夫。


そう思っていた。


しかし。


ある日。


王が深刻な顔で告げた。


「バルゼインが」


「いよいよ我が国を標的にした……」


母が答える。


「あなた」


「この国を……そして民を守るため」


「徹底抗戦しましょう」


ヴィクトールは言った。


「おばあ様がいれば大丈夫?」


ノルンは静かに答えた。


「バルゼインが相手じゃ、厳しいのぉ」


ヴィクトールは少し考えて言う。


「なら、私が出ます」


「私を出せば解決します」


両親が驚く。


母が強く否定した。


「馬鹿なことを言わないでヴィクトール!!」


「あなたは大切なの!!」


「絶対に戦場へは行かせないわ!!」


父も頷く。


「そうだヴィクトール」


「国を守る」


「お前も守る」


「そのために兵がいる」


だが。


ノルンが冷静に口を開いた。


「馬鹿なこと言うんじゃないよ」


全員が見る。


「相手はあのバルゼイン」


「兵は二百万はくだらないと聞く」


「うちの兵はたった二万」


「話にならん」


父がノルンを睨む。


「では」


「ヴィクトールを出せと言うのか?」


だが。


ノルンは首を振った。


「それこそ違う」


静かな声。


「仮にヴィクトールを出して、この戦争に勝っても」


「周辺国家はどんどんバルゼインへ敗れる」


「そうなればこの国は孤立する」


「そして」


「外側からジワジワ潰される」


「ヴィクトール以外が死んで終わり」


ヴィクトールは理解した。


自分一人が強くても。


皆を守れるわけではない。


じゃあ。


どうすれば。


そのとき。


ノルンが言った。


「亡命せぇ」


空気が凍る。


父が激怒した。


「ふざけるな!!!!」


「バルゼインは占領国家を奴隷のように扱う!!」


「我が国へ!!」


「奴隷区になれと言うのか!!!!」


だが。


ノルンは冷たかった。


「こうなる前に」


「もっと手を打てたはず」


「あたしが何度も」


「攻め込まれる前に手を打てと」


「助言したのに」


「お前は戦争を嫌い」


「何も決断せんかった」


「おぬしの責任」


父が言葉を失う。


ノルンは静かに立ち上がった。


「まだ時間はある」


「よく考えぃ」






その夜。


ヴィクトールはノルンへ相談した。


「おばあ様」


「私には」


「何が正しいのか分かりません」


すると。


ノルンは優しく頭を撫でた。


「大切なことはな」


「守るべきものを守ること」


ヴィクトールは黙って聞いている。


ノルンは続けた。


「安心せぇ」


「わしが必ず、あ奴らを説得するからのぉ」


少しだけ。


遠い目だった。


ヴィクトールは思う。


おばあ様も不安なのだ。


説得できるか。


分からないから。


私が守るべきもの。


それは。


民の命だ。






翌日。


ノルンが王の間へ入る。


「こ……これは……」


そこには。


王と女王の死体。


全身が。


雷撃を受けたように焼け焦げていた。


ノルンの顔が青ざめる。


そのとき。


後ろから声がした。


「あ、おばあ様」


ヴィクトールだった。


普通の顔で立っている。


ノルンが震える声で聞く。


「ヴィクトール……」


「おぬし……何をした……?」


ヴィクトールは当然のように答えた。


「守るべきものを守るために」


「邪魔者を排除しました」


静寂。


次の瞬間。


ノルンが絶叫した。


「誰が!!!!」


「誰がそんなことを言ったぁぁぁぁ!!!!」


ヴィクトールは困惑する。


何故。


怒るのですか。


これで。


亡命できる。


民を守れるのに。


その後。


国はバルゼインへ亡命した。


ヴィクトールは。


王殺しの功績で兵となり。


“世界最強”として。


戦場を駆けていた。


だが。


おばあ様は。


どこにもいなかった。


そして。


気づけば。


私を本気で思ってくれる人間も。


もう。


誰もいなかった。

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