第七十七話 助言する
◆アルマ
ルミナスに案内される。
今なら殺せる。
だが誰も動かない。
扉の奥へ入っていった。
そこは。
異様だった。
真っ白。
巨大な部屋。
窓はない。
何もない。
中央に。
真っ白な机。
そして。
向かい合う椅子が二つ。
ただそれだけ。
ルミナスが静かに言う。
「どうぞ」
ヴィクトールへ。
座るよう促した。
少し警戒する。
だが。
ヴィクトールは座った。
その瞬間。
――カツ。
――カツ。
足音。
全員が振り向く。
信徒たち。
続々と入ってくる。
我々は反射的に武器を握る。
だが。
なんとなく。
全員分かっていた。
今から始まるのは。
戦闘ではない。
“世界最強”
と。
“世界最悪”
の。
問答。
ヴィクトールが先に口を開いた。
「お前は」
「自分の非道な行為をどう思う?」
ルミナスが首を傾げる。
「非道とは?」
ヴィクトールの目が鋭くなる。
「とぼけるな」
「信徒たちの自爆行為だ!!」
強い口調。
だが。
ルミナスは平然としていた。
「もしかして」
「私がやったとでも?」
空気が止まる。
何を言っている。
ヴィクトールが冷たく返す。
「お前以外誰がいる」
すると。
ルミナスは静かに言った。
「私は一度として」
「命令したことはありませんよ」
アルマの背筋が凍る。
嘘じゃない。
本気で言っている。
ヴィクトール様も。
一瞬言葉を失った。
ルミナスが続ける。
「私は」
「この本を渡しただけです」
その瞬間。
ルミナスの右手。
本が現れる。
兵士たちが武器を構えた。
ヴィクトール様も。
即座に回避体勢へ入る。
だが。
ルミナスは気にしない。
「私の能力」
「『暗黒書』」
「本を開くと」
「小さなブラックホールが発生し」
「触れたものを飲み込みます」
「何度も見たでしょう?」
まるで隠す気がない。
躊躇もない。
ヴィクトールが座り直す。
「その本を渡すと」
「信徒になるのか?」
ルミナスは笑った。
「まさか」
「そんな能力、これっぽっちもありませんよ」
これも。
恐らく本当。
ルミナスが続ける。
「そもそも」
「能力だ洗脳だと言われていますが」
「私がしていることはただ一つ」
人差し指を立てる。
「助言です」
その言葉が。
全員へ突き刺さった。
ヴィクトールが低く返す。
「助言……?」
「はい」
「会いたいと言った人に会い」
「助言しているだけです」
そして。
少し寂しそうに笑った。
「それを皆」
「洗脳だの能力だの」
「勝手に誇張する」
アルマの手が震える。
こいつは。
やばい。
恐らく。
全部本当だから。
ヴィクトールが低く言う。
「ほう」
「つまりお前は何もしていない」
「我々を殺すための罠も」
「信徒の自爆も」
「全て信徒が勝手にやったと?」
「……いや」
「そもそも」
「勝手に信徒になったと?」
ルミナスは即答した。
「はい」
ヴィクトールが冷たく言った。
「無責任だ」
ルミナスがまた首を傾げる。
「……無責任?」
ヴィクトールの声が重くなる。
「お前の言葉で」
「どれだけの人間が死んだと思っている」
「それを」
「自分の責任ではないなどと」
現実を叩きつける。
だが。
ルミナスは静かに返した。
「では」
「それ以上に人を殺しているあなた方は」
「どう責任を取るおつもりですか?」
ヴィクトールが。
言葉を失う。
静寂。
これが。
教皇ルミナス。
“世界最悪”と呼ばれる男。




