第七十五話 惑わせる
◆アルマ
極限状態。
それが。
長時間続いていた。
疲労。
仲間の死。
そして。
また得体の知れない攻撃が来る。
その恐怖。
全てが。
精神へ重くのしかかる。
そんな中でも。
堂々と前を歩く存在がいた。
ヴィクトール様。
彼女だけが。
唯一の希望だった。
そのとき。
兵士が呟く。
「あれは……聖堂?」
全員が顔を上げる。
巨大な聖堂。
異様なほど白い建物。
恐らく。
あそこにいる。
教皇ルミナス。
兵士たちが武器を握り直す。
ヴィクトールが前を見る。
「行くぞ」
その瞬間。
――プツン。
何かが飛んだ。
アルマの思考が止まる。
ヴィクトールの首。
宙を舞っていた。
「ヴィクトール様ぁぁぁぁぁ!!!!」
アルマが絶叫する。
目の前。
仲間の兵士。
そいつが。
ヴィクトールの首を刎ねていた。
なぜ。
なぜ避けられない?
ヴィクトール様が?
理解が追いつかない。
なぜ。
なぜなぜなぜ。
アルマが我を忘れる。
「お前ぇぇぇぇぇ!!!!」
剣を振り上げる。
その瞬間。
肩へ手が置かれた。
「落ち着け、アルマ」
聞き慣れた声。
アルマが止まる。
振り向く。
そこには。
ヴィクトールが立っていた。
「……いったい何が……」
ヴィクトールが頷く。
「幻覚だ」
能力『幻覚』。
またか。
アルマが周囲を見る。
兵士たちも混乱していた。
「あれ……?」
「俺は何を……」
そして。
ヴィクトールの手。
そこには。
首。
幻覚能力者の首が握られていた。
ヴィクトールが低く言う。
「また随分やられたな……」
周囲。
仲間同士で斬り合ったのか。
大量の死体。
地獄だった。
だが。
止まる暇はない。
ヴィクトールが叫ぶ。
「全員正面!!!」
兵士たちが一斉に前を見る。
その先。
大量の信徒。
全員。
笑っている。
そして。
本へ手をかけていた。
遠い。
黒球が届く距離ではない。
だが。
嫌な予感しかしない。
何か来る。
絶対に。
アルマが唾を飲む。
やられっぱなし。
そんなもの。
認めるか。
アルマが能力を展開する。
「『最高防御』」
結界。
先手を打つ。
だが。
次の瞬間。
アルマが固まる。
「あれ……?」
結界が。
敵の後方へ現れていた。
ヴィクトールが絶叫する。
「散れぇぇぇぇぇ!!!!」
次の瞬間。
正面にいたはずの敵が。
我々の中にいた。
距離が。
消えている。
兵士たちが慌てて飛び退く。
だが。
遅い。
本が開かれる。
黒球。
兵士たちが。
次々と飲み込まれる。
悲鳴。
混乱。
アルマが理解する。
能力『距離操作』
奥の敵との距離は。
本当は。
ゼロだった。
くそ……!!
アルマは辛うじて回避する。
だが。
周囲を見る。
また。
大量の兵士が消えていた。
気付けば。
軍勢は。
半分まで削られていた。




