第六十四話 押し寄せる
◆レイナ
世界会議は終わった。
私たちは、ユートリアの屋敷へ戻っていた。
約束通り。
リグナは南部へ領土を拡大。
残るグランゼル領は。
ヴァルディアへ渡り。
アルドが統治することとなった。
そして。
あの放射能ミサイルは。
全て解体された。
もう二度と。
使われることはないだろう。
そのとき。
ルークが静かに資料を二枚置いた。
「さて」
「さっそく情勢が動きましたか」
不機嫌?
レイナは違和感を覚える。
ルークらしくない。
ドルガが資料を読む。
「バルゼイン王国」
「ルミナス教国へ向け進軍準備……」
当然だった。
ルミナス教国。
唯一。
世界会議へ参加しなかった国。
バルゼインの招集を拒否した。
報復されるのは当然。
だが。
もう一枚。
レイナの顔色が変わる。
「ヴァルディア王国」
「ノクシア王国を吸収合併……?」
「さらに北上」
「バルゼインへ侵攻開始……!?」
どういうこと?
ルークが静かに答える。
「恐らく」
「ノクシア王は、レオナールへ心を打たれたのでしょう」
「あの不可侵条約の件で」
レイナは思い出す。
あの会議。
“大英雄レオナール”
確かに。
人を惹きつける男だった。
そして。
ノクシアを取り込み。
その勢いのまま。
バルゼインへ侵攻。
さらに。
能力『士気向上』。
軍全体を強化する怪物。
今のレオナール軍は。
もはや世界最強クラス。
そのとき。
レイナは気づく。
「……待って」
「なんでこっちへ来ないの?」
ユートリアを。
最も恨んでいるはず。
ルークは淡々と答えた。
「“バルゼインの放電現象”が」
「ルミナス教国へ向かいましたからね」
「今なら勝てると見たのでしょう」
そして。
少しだけ笑う。
「あと」
「私と関わりたくないのでしょうね」
空気が静まる。
納得してしまった。
レオナールほどの男でも。
ルークは不気味なのだ。
そのとき。
突然。
ルークが立ち上がった。
空気が変わる。
「緊急事態です」
明らかに。
焦っていた。
レイナの背筋が凍る。
ルークが。
感情を乱している?
「全軍」
「至急、東部へ」
「戦闘準備」
そして。
静かに言った。
「……“トリプレッツの大侵攻”です」
何?
その瞬間。
他幹部たちの顔色が変わる。
ノルンですら。
険しい顔をして呟いた。
「まずいねぇ……」
「これは本当に」
レイナだけが。
何も分からなかった。
一体。
何が起ころうとしているのか。
◆グレン
世界は大混乱となっていた。
もはや。
“子供を兵器にするな”なんて。
そんな話をしている場合ではない。
全戦力を投入しなければ。
滅ぶ。
始まる。
“トリプレッツの大侵攻”が。
トリプレッツ。
意味は。
三つ子。
かつて。
世界東部には。
複数の国家が存在し。
絶えず戦争をしていた。
そんな中。
南東の果ての小国で。
三つ子が生まれた。
アン。
ドゥー。
トロワ。
全員。
能力者。
アンの能力。
『百倍』。
対象の能力効果を。
五秒間だけ百倍にする。
ドゥーの能力。
『生成』
骸骨兵を生み出す能力。
一体につき約三時間必要。
召喚持続時間は無限。
トロワの能力。
『継続』
対象の能力効果時間を延長する。
対象は一つ。
持続は無限。
この三能力が組み合わさった結果。
最悪が生まれた。
ドゥーが生成し。
アンが百倍化し。
トロワが永続化する。
つまり。
三時間で百体。
永遠に増え続ける。
三時間で百。
一日で八百。
一ヶ月で二万四千。
一年で二十八万八千。
十年で二百八十八万。
気付けば大国レベルの軍隊。
小国は三つ子を隠し。
兵を増やし続けた。
そして。
二百八十八万の軍勢が。
世界を埋め尽くすように北上した。
兵自体は。
一般兵程度。
英雄たちに比べれば、弱い。
だが。
怖いのは数。
そして。
痛みも。
恐怖も。
感情もない。
無慈悲な侵攻。
あっという間に。
北の端まで蹂躙した。
さらに。
十年後。
兵数は五百七十六万。
今度は西へ侵攻。
世界の四分の一が。
消えた。
それが。
“トリプレッツの大侵攻”
そして。
同時に。
三つ子は。
自分たち以外の国民を。
殺し尽くした。
親も親族も友人も全て。
だから。
呼ばれる。
“最悪の三つ子”と。
国名は。
“トリプレッツの部屋”
その後。
二十年間。
何も動かなかった。
だが。
今。
突然侵攻を始めた。
もし。
今も増え続けているなら。
兵数は。
千百五十二万。
もはや。
数字の時点で狂っている。
俺たちは。
考えることをやめた。
ただ。
武器を握るしかなかった。




