第六十三話 覆される
◆レイナ
何の皮肉か。
ヴァルディアとユートリアは。
共に侵攻していた。
地理的に。
そうするしかなかった。
隣では。
“大英雄レオナール”率いるヴァルディア軍。
こちらでは。
“平和国家ユートリア”軍。
皮肉な光景だった。
そのとき。
レオナールが口を開く。
「ルーク」
「いずれこの借りは返すからな」
怒り。
だが。
どこか認めてもいる声。
すると。
ルークが静かに答えた。
「そうですね」
「あなたには、この先やられるかもしれませんね」
レイナは目を見開く。
驚いた。
いつもなら。
軽く流す。
それがルークだった。
なのに。
今。
自分の敗北すら示唆した。
“大英雄レオナール”。
そこまで評価しているの?
レイナが考えている間にも。
侵攻は止まらない。
隣では。
“バルゼインの放電現象”がグランゼルを破壊している。
五つの国家級戦力。
誰にも止められない。
◆アルド
五つの国家級戦力。
その全てに侵攻されている。
もはや。
グランゼルに残されたものは。
これしかなかった。
放射能ミサイル。
だが、それすら。
もう意味がない。
「王」
「やめてください」
アルドが静かに言う。
だが。
王は怒鳴った。
「黙れ!!」
「もうこれしかないのだ!!」
ミサイル発射準備。
狂ったように指示を飛ばす。
違う。
もう。
そういう段階ではない。
「王」
「違います」
王が止まる。
アルドは静かに続けた。
「もはや」
「ミサイルなど、どうでもよいのです」
王は戸惑う。
「……何を言っている」
「アルド……」
アルドは窓を見る。
「ミサイル発射には時間がかかります」
「ですが」
「もう、その時間がありません」
王が呆然とする。
そう。
我々の防衛線は。
五つの軍にとって。
障害物ですらない。
地面と変わらない。
一切止まらない。
アルドが窓の外を見る。
敵軍は。
王都目前まで来ていた。
◆レイナ
グランゼル制圧後、再びユートリアの会議室へ戻っていた。
中央には。
捕らえられたグランゼル王。
そして上層部。
全員が縛られ。
跪いている。
その中には。
アルドもいた。
バルゼイン外交官が口を開く。
「では」
「禁忌を犯した者たちよ」
「お前たちは死罪とする」
当然だった。
放射能兵器。
世界最大の禁忌。
「なお」
「処刑方法は、ヴァルディアへ一任する」
レイナは少し驚く。
バルゼインが処刑しない?
温情?
いや。
懐の広さを見せている。
政治だった。
レオナールが立ち上がる。
「では」
「お前たちは最も屈辱的な死をもって」
「死後も後悔し続けろ」
冷たい声。
兵士たちが動こうとした。
そのとき。
「待ってください!!」
全員が振り向く。
アルマだった。
ヴィクトールの副官。
『最高防御』
レオナールが鋭く睨む。
「なんだ貴様?」
アルマは。
一切怯まなかった。
「死罪に異論はありません」
「ですが」
「旧グランゼル領土の統治はどうされるおつもりですか?」
その瞬間。
「チッ」
小さな舌打ち。
ルーク。
レイナは凍る。
ルークが。
感情を漏らした?
レオナールが答える。
「貴様へ説明する義理はないが」
「我が副官イリスへ」
「ヴァルディア軍半数を与え統治させる」
アルマは即座に言った。
「それはおやめください」
空気が変わる。
「……何?」
レオナールの目が細まる。
アルマは真っ直ぐ言った。
「それでは」
「ユートリアの思う壺です」
そう言って。
こちらを見る。
レオナールがルークを見る。
「ほう」
「どうなのだ、ルーク?」
ルークは首をかしげる。
「何のことか全く」
白々しい。
だが。
「面白い」
「ならどう統治しろという?」
レオナールの問い。
アルマは迷わず答えた。
「そこにいるアルドを」
「ヴァルディアへ亡命させ」
「統治させましょう」
ざわつく。
「こいつを?」
「なぜだ」
アルマは静かに答える。
「彼は軍から慕われています」
「嘘をつかない」
「民からの信頼も厚い」
「そして、裏切るようなことは絶対しない」
強く言い放つ。
だが。
レオナールは冷たく返す。
「なぜ貴様がそこまで知っている?」
沈黙。
そして。
アルマは答えた。
「彼は……」
「私の兄です」
会議室が凍る。
兄弟。
だが。
レオナールは即答した。
「ならば信用できんな」
当然だった。
身内を守る。
そう見える。
だが。
「待て、レオナール」
ヴィクトールだった。
全員が静まる。
ヴィクトールは静かに言う。
「アルマは長年、私の傍にいる」
「だが」
「一度として私へ意見したことはない」
真っ直ぐ。
そして。
断言した。
「アルマの意見は尊重に値する」
「私が保証する」
「信用できる」
レオナールが驚く。
そのとき。
レイナが口を開いた。
「私も」
「アルドなら信頼できる」
空気が動く。
さらに。
「お姉ちゃんが言うなら、私も!!」
シオン。
セラも少し笑う。
「私たちも」
「レイナが言うなら信頼するわ」
レオナールは少し黙る。
そして。
笑った。
「……もうよい」
「傑物たちにそこまで言わせるなら」
「信用しよう」
そして。
アルドを見る。
「アルド」
「ヴァルディアの兵となり」
「新ヴァルディア領を統治できるか?」
アルドの頬を涙が流れる。
「はい……!!」
「必ず……!!」
その涙は。
死から解放された涙ではない。
民を。
兵を。
奴隷にせず済んだ。
その安堵だった。
レイナは胸が痛くなる。
だが。
その中で。
ただ一人。
ルークだけが。
静かに、怒りを感じていた。




