第五十五話 落ちる
◆イリス
我々は、圧倒的士気のもと。
敵を薙ぎ払っていた。
ノクシア。
バルゼイン。
両軍とも。
少しずつ押し始めている。
勝利は目前だった。
兵士たちの勢いは止まらない。
誰も怯えていない。
誰も負けると思っていない。
だが。
イリスには不安があった。
ユートリア。
あの不気味な国が。
今どうなっているのか。
そのとき。
兵士が駆け込んできた。
「報告です!!」
「ユートリア軍、西へ向け一直線に進行!!」
「ヴァルディア西側へ到達しました!!」
空気が止まる。
「な……」
イリスが息を呑む。
早すぎる。
尋常ではない速度だった。
だが。
レオナールは笑った。
「一直線?」
「馬鹿め」
周囲がレオナールを見る。
「さては我々がこの戦場を勝てないと見込み」
「ヴァルディアを南北分断するつもりだな?」
兵士たちがざわつく。
だが、レオナールは落ち着いていた。
「よし」
「この戦場をさっさと切り上げる」
「そして南へ進軍する!!」
剣を掲げる。
「すぐに取り戻すぞ!!」
「おおおおおおおおお!!!!」
士気が爆発する。
止まらない。
いや。
さらに増していた。
これが。
“大英雄レオナール”
軍そのものを。
怪物へ変える男。
◆レイナ
ついに。
ヴァルディア西側へ到達した。
これで。
ヴァルディアは南北に分断された。
凄まじい速度だった。
だが、不安しかない。
ノルンが小さく呟く。
「グランゼルは何かやってくれるのかねぇ」
その通りだった。
ここで。
グランゼルが何もしなければ。
我々は恐らく死ぬ。
無茶な侵攻のおかげで、周りは敵だらけ。
レオナール率いる軍が来た瞬間。
終わる。
そのときだった。
上空に。
何かが見えた。
黒い影。
高速。
そして。
落ちる。
「あれは……?」
次の瞬間。
――ドカン。
巨大な轟音。
地面が揺れる。
分断されたヴァルディア南部中心へ。
巨大なミサイルが着弾した。
爆風。
熱。
建物が吹き飛ぶ。
人が蒸発する。
木々が燃える。
熱線が。
全てを飲み込んでいく。
そして。
巨大なきのこ雲が空へ広がった。
誰もが言葉を失う。
やがて。
煙が薄れていく。
その先にあったのは。
焼け野原だった。
ヴァルディア南部。
その半分が。
消えていた。
惨状。
そんな言葉では足りなかった。
◆アルド
やりやがった……。
ついに。
ゼロニウムミサイルを撃った。
ルークに唆され。
標的をヴァルディアへ決め。
そして。
放った。
その威力は。
想定を遥かに超えていた。
研究施設。
上層部と研究員たちが熱狂する。
「やったぞ!!」
「成功だ!!」
「我々の勝利だ!!」
歓声。
笑い声。
狂気。
そう。
この兵器さえあれば。
“バルゼインの放電現象”
“平和国家ユートリア”
“大英雄レオナール”
“世界最悪ルミナス”
“トリプレッツの大侵攻”
全部。
関係ない。
試作品で。
この威力。
もはや敵など存在しない。
戦争は終わる。
そう思った。
だが。
アルドの胸から。
違和感が消えない。
何かがおかしい。
そのとき。
兵士が駆け込んできた。
顔が青い。
震えている。
「報告です……」
「どうした?」
アルドが睨む。
兵士は震えながら答えた。
「ヴァルディア南部……半壊」
「ですが……」
声が掠れる。
「爆発範囲外の人間が」
「次々と倒れていきます……」
沈黙。
アルドの背筋が凍る。
まさか。
研究者が叫んだ。
「放射能が……!?」
周囲が静まり返る。
誰も動けない。
研究者の顔が青ざめていく。
「国際法違反だ……」




