第五十四話 進む
◆レイナ
ユートリアの侵攻が始まった。
ヴァルディア帝国。
新国王レオナール誕生により。
兵士たちの士気は異様なほど高かった。
簡単には崩れない。
前線は激しくぶつかり合う。
だが。
「がはははは!!」
レイヴンが突進する。
巨大な身体。
全身鎧。
その鈍重に見合わないスピード。
圧倒的な暴力。
ヴァルディア前線が吹き飛ぶ。
そこへ。
シェラが静かに能力を発動した。
「『重牢』」
重力が落ちる。
兵士たちが地面へ叩きつけられる。
さらに。
ドルガが続く。
「『泥獄』」
地面が泥へ変わる。
兵士たちの足が沈む。
悲鳴。
抵抗する間もなく。
次々と生き埋めになっていく。
そして。
そこへ。
無数のルークが歩いていく。
静かに。
生き埋めとなった兵へ触れていく。
ルークが増えていく。
「従う者は保護します」
「拒絶する者は、私になります」
静かな声。
だが。
恐ろしかった。
少しずつ。
ヴァルディア兵が武器を下ろしていく。
だが。
そのとき。
「いくぞぉぉぉぉ!!」
怒号。
精鋭部隊。
一気に突撃してくる。
レイナは目を細めた。
……あれは手強い。
普通なら。
私の能力は使えない。
味方ごと吹き飛ばす。
だが。
「私たちが相手します」
ルークたちが前へ出る。
「集まったところで」
「私たちごと、爆破してください」
気持ち悪い。
普通なら、仲間がいる時点で。
私の能力は封じられる。
でも。
ルークとの相性だけは。
完璧だった。
レイナは指を鳴らす。
――パチン。
爆発。
熱。
光。
敵も。
ルークも。
まとめて吹き飛ぶ。
だが。
次の瞬間には。
また別のルークが立っている。
ユートリアは。
止まらなかった。
◆イリス
目の前には。
ノクシア。
そしてバルゼイン。
二方向からの侵攻。
さらに。
ユートリアまで動き出した。
最悪だった。
兵士たちにも焦りが見え始める。
だが。
その空気を。
レオナール様の声が吹き飛ばした。
「安心しろ」
静かな声。
それだけで。
皆がレオナール様を見る。
「“バルゼインの放電現象”が来ることはない」
「奴らは先の戦争で疲弊している」
「ノクシアも、内部から崩れかけた弱小国家」
「ユートリアは”平和”を掲げた独裁国家」
「何を怯むことがある」
兵士たちの目が変わる。
レオナール様は続ける。
「これは好機だ!」
「ここで奴らを撃退する!」
「そうすれば我々は一気に」
「強国として名乗りを上げられる!!」
空気が熱を帯びる。
レオナール様が剣を掲げた。
「見せるぞ!!」
「新しいヴァルディアを!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
怒号のような歓声。
士気が戻る。
いや。
最初以上だった。
誰も。
負ける未来を想像していなかった。
我々は雪崩のように敵軍を押し潰していった。
◆レイナ
ユートリアの。
侵攻の仕方が奇妙だった。
普通。
侵攻とは。
領土をじわじわ広げるもの。
だが、ルークの作戦は違う。
領土を広げない。
無理やり一直線に。
西側へ侵攻している。
シェラが焦ったように言う。
「これは危険すぎる」
「ヴァルディアを南北に分断する気なのだろうけど」
「もしレオナールが戻ってくれば」
「こちらが挟撃を受ける形になる」
ドルガも険しい顔をしていた。
「普通なら自殺行為だ」
だが。
ルークだけは穏やかだった。
レイナは分かっていた。
この男が。
意味のない行動をするはずがない。
「何か策があるんでしょ?」
ルークは笑った。
「私が伝達したのは」
「もう一国あります」
「グランゼルです」
空気が止まる。
グランゼル。
レイナがかつていた国。
兵士を売るような国。
だが。
強国ではない。
リグナ戦争では。
レイナも。
シオンも。
かなり破壊した。
レインも死んだ。
今のグランゼルは。
もはや弱小国家。
期待できるとは思えない。
だが。
ルークは静かに言った。
「あなたが考えている以上に」
「あの国は腐っていますよ」
直後。
その言葉を思い知ることになる。




